アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は8日目、男女シングルス4回戦のそれぞれ残り半分が行われ、ベスト8が出揃った。 第6シードの錦織圭(日清食品)は第21シードのイボ・カルロビッチ(クロアチア)に6…
アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は8日目、男女シングルス4回戦のそれぞれ残り半分が行われ、ベスト8が出揃った。
第6シードの錦織圭(日清食品)は第21シードのイボ・カルロビッチ(クロアチア)に6-3 6-4 7-6(4)のストレート勝ち。グランドスラムでは今年の全豪オープン以来、3大会ぶりの準々決勝進出を決めた。
また、男女ダブルスも3回戦が終了し、8強が決定。日比野菜緒(LuLuLun)/ニコール・ギブズ(アメリカ)は、第7シードのサーニャ・ミルザ(インド)/バーボラ・ストリコバ(チェコ)に挑み、第2セットはリードしていたが、結局4-6 5-7で敗れた。
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大学出のジョン・イズナー(アメリカ)が全米オープンに22歳でデビューした2007年、208cmの超ビッグサーバーの進撃を3回戦で止めたのは、当時世界2位のロジャー・フェデラー(スイス)だった。200cmを超えるビッグサーバーとの試合をおもしろがる選手は滅多にいないはずだが、6-7(4) 6-2 6-4 6-2というスコアで勝利したフェデラーは「とても楽しかった」と笑った。攻略の難しいゲームを手渡された少年のように、試合の間もフェデラーはどこか楽しげだったものだ。
この日の錦織にはあのときのフェデラーの雰囲気に似たものがあった。以前は、得意のリターンからの攻撃ができず、ラリーが続かないビッグサーバーとの試合を「つまらない」とも言っていた錦織だが、「サービス」という明確な強敵を前に、錦織の集中力は研ぎ澄まされていた。
自身のサービスゲームからの立ち上がりが見事だった。ノータッチのウィナーを2本決めてラブゲームでキープ。カルロビッチの最初のサービスゲームは、ブレークこそできなかったものの2つのボレーミスを引き出してポイントを奪った。いける、という感覚があったに違いない。
続く自分のサービスをふたたびラブゲームでキープすると、第4ゲームで早くもブレークに成功。211cmがさほど敏捷でないことは無理もないが、ネットに出てくるだけでその威圧感はすさまじい。しかしその脇をおもしろいようにパッシングショットが決まった。このブレークを生かして第1セットを6-3で奪った。
第2セットはいきなり第1ゲームでブレーク。もう少し我慢が必要になるのではないかと思われた一戦だったが、そのような気配なく早い段階でブレークできた要因は「ヤマが当たったのが一番」と振り返った。こうして第2セットも6-4で錦織が奪った。
第3セットになって初めてのピンチが訪れる。第10ゲーム、15-40でブレークポイントを握られたのだが、これを冷静にしのぐと、タイブレークは一気に6-0までリードを広げ、カルロビッチの追い上げをかわした。
ラリー戦に持ち込めばカルロビッチにさほど恐れるものがないという点も錦織の集中力を高めたに違いない。211cmの頭上をロブで抜くという発想は、おもしろがっているから生まれたものだろう。股抜きショットも、ポイントにはならなかったが、魅せた。
「2週目に入ってやっといいテニスができてき始めている。自然とそうなってきた感じです」
そして次に迎える相手は、予想通り、期待通りのアンディ・マレー(イギリス)。試合後のオンコート・インタビューで錦織はこの世界ナンバー2のことを「オールモスト・ナンバーワン」と表現した。ほとんど1位みたいなもの-----実際のところ1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)とのランキング差は5000ポイント以上もあるのだが、それくらいの勢いがあると感じるのだろう。
しかし、不思議なものだ。なかなか調子が上がってこない錦織だったが、この4回戦を見てからというもの、さらに「らしさ」を増してマレーに挑む姿が容易に想像できる。
(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)