「今日は戦略やレース運営全般というよりも、スピードで速さを見せつけられました。以前から言っているように、まだ我々はパッケージとして彼らに追いついていない。サーキットによってはこういう差になるということですね」 マックス・フェルスタッペン…

「今日は戦略やレース運営全般というよりも、スピードで速さを見せつけられました。以前から言っているように、まだ我々はパッケージとして彼らに追いついていない。サーキットによってはこういう差になるということですね」

 マックス・フェルスタッペンが最終戦アブダビGP決勝を2位で終えて、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは悔しそうにそう語った。



レース後に健闘を称え合うフェルスタッペンとハミルトン

 フェラーリをコース上で抜き返して寄せつけず、完全なひとり旅のレースだった。しかし、優勝したルイス・ハミルトンとは16.772秒もの差が開いていた。ブラジルGPで彼らを完全に打ちのめし歓喜した直後だっただけに、再びまざまざと現実を見せつけられた感があった。

 さらに追い打ちをかけたのは、ラグの問題だ。

 ピットストップを終えた直後から、ドライバーがスロットルペダルを踏んでもそれに呼応してトルクがスムーズに出ていかない症状が発生した。トルクに”穴”があると言われる状態。全開で加速している途中にそれが瞬間的に失われるため、エンジンブレーキと車体の空気抵抗が大きいF1マシンでは、「ハンドブレーキ(サイドブレーキ)がかかったような感じになる」とフェルスタッペンも表現した。

「スロットルにトルクの”穴”があった。トルクが出るのが少し遅れてくるような感じ。思ったとおりにトルクが出ない状態はあまり好ましいことじゃない。(走行中には)直すことができなかったから、問題を抱えたまま走らなければならなかった。でも、それがあろうとなかろうと、最終的な結果に影響はなかっただろうけどね」

 フェルスタッペンはそう語ったものの、ラップタイムのロスはあったともいい、ひとり旅のレース展開でなければポジションを失うおそれもあった。

 ホンダのエンジニアはフェルスタッペンに無線で指示を送り、ステアリング上のボタンでセッティングをいろいろと変更してもらったという。ただ、そのなかで最も違和感なく走れるモードを使う対処療法しかできなかった。

 これまでにも新しいスペックを投入した際などには、エンジンマップの熟成不足でこうした不具合が生じることはあった。だが、十分に使い込んだスペック4で出たのは予想外だった。それもセッティングの問題ではなく、パワーユニットの制御ソフトウェアのトラブルであり、フェルスタッペン車だけでなくホンダ勢4台すべてに同じような症状が出ていたという。

「パワーユニットのコントロール系の問題だと見ています。ソフトウェアですね。よって(トラブルを)直すということではなくて、少しでもラグが出にくいセッティングを何種類か試して、そのなかでベストなもので走ってもらいました。

 大なり小なり、4台とも同じ症状。微妙にセッティングが違うなかで、わりと大きく影響を受けた人と受けなかった人がいました。そのへんの状況も、これから細かく見ていくことになります」(田辺テクニカルディレクター)

 2位という結果には影響を及ぼさず大事には至らなかったものの、こうしたトラブルは決してあってはならないことだと、田辺テクニカルディレクターはかなり厳しい言葉で自らを戒めるように言った。

「今日は前も後ろもギャップがあり、ポジションをキープするラップタイムで走るには問題なかったので、結果として害を与えることはありませんでしたけど、本来はそんなことあっちゃいけないわけです。時と場合によっては、とんでもないことになっていた可能性もあります。

 問題の大小にかかわらず害を与えているわけですから、トラブルが起きるということは許されません。チームには大変申し訳なかったと思っています」

 ただ、アブダビGPでフェラーリを上回り、予選で0.360秒差まで迫ることができたのは、ポジティブなことでもあった。

 もともとメルセデスAMGが2014年から圧勝し続けたヤス・マリーナ・サーキットは、レッドブルが苦手とするサーキットでもあった。高速コーナーが少なく、長いストレートと中低速コーナーを組み合わせたレイアウトでは、車体性能でカバーできる範囲が少ないからだ。

 しかし、今年はその差が縮まった。それは、パワーユニットの性能も含めたトータルパッケージでメルセデスAMGとの差を縮めたことを意味している。

 クリスチャン・ホーナー代表はこう語る。

「アブダビではいつも『メルセデスAMGが速い』と考えていたが、我々は(2014年に)V6エンジンになってからの予選で最もコンペティティブな走りができた。決勝では(シャルル・)ルクレールに抜かれたことでタイムロスを強いられてしまったが、2位を取り戻すことはできた。

 ペース自体はルイス(・ハミルトン)のコンマ数秒落ちで、我々もどこを改善しなければならないのかは分かっている。だが、今週末のパフォーマンスは全体としてポジティブな兆候だと言える」

 スタート直後にフェラーリのルクレールに抜かれたものの、レッドブル陣営は慌てることなくチャンスを待ち、ルクレールがフェルスタッペンのアンダーカットを恐れて早めにピットインした際にも、それにつられて飛び込むようなことはしなかった。逆に13周長く引っ張ることによって、そのぶんだけ第2スティントにフレッシュなタイヤを履き、そのグリップ差を生かして同じストレートで抜き去ってみせた。

 その時点でハミルトンに15秒の差をつけられてしまっていたことで、レッドブルはハミルトン追撃をあきらめて、2位確保の走りに切り替えた。

 しかし、昨年最終戦との比較という大きな視点で見れば、マシンパッケージと戦略の両面でフェラーリを上回り、メルセデスAMGとの差を縮めたというわけだ。

 昨年は年間4勝を挙げたレッドブルだが、それはセーフティカーに助けられた中国GPや上位勢が自滅したオーストリアGPを含めてのものだ。昨年のポールポジションの数は2回であったが、今年は実質的に3度のポールを獲った。

 単純な勝利数だけで測ることのできない実力で言えば、2019年のレッドブルはホンダとのパートナーシップで着実に頂点へと近づいたと言える。それをはっきりと証明したのが、アブダビGPの走りだった。




レッドブル・ホンダは苦手なアブダビGPで好結果を残した

 チェッカーを受けたフェルスタッペンは、メインストレートに戻って来て誰よりも多くのタイヤスモークを巻き上げ、誰よりも長くドーナツターンを披露して観客席を沸かせた。

 2位に終わりこそしたが、それは来季のタイトル挑戦を予感させる2位だった。