アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は7日目、男子シングルス4回戦のトップハーフ、女子シングルス4回戦のボトムハーフが行われ、ダブルスは3回戦が行われた。 男子シングルスで唯一の番狂わせとなったのは…

 アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は7日目、男子シングルス4回戦のトップハーフ、女子シングルス4回戦のボトムハーフが行われ、ダブルスは3回戦が行われた。

 男子シングルスで唯一の番狂わせとなったのは、第4シードのラファエル・ナダル(スペイン)と第24シードのルカ・プイユ(フランス)。全米オープン優勝2回の元王者ナダルは22歳の新鋭プイユに1-6 6-2 4-6 6-3 6-7(6)で敗れた。また、日本勢はダブルスで穂積絵莉(エモテント)/加藤未唯(佐川印刷)が第1シードのカロリーヌ・ガルシア/クリスティーナ・ムラデノビッチ(ともにフランス)に挑んだが、2-6 4-6で敗れた。

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 ビッグ4の壁が崩壊するか、今しばらく持ち堪えるか------ロジャー・フェデラー(スイス)が故障休養中の今、そのカギを握っているのはナダルだ。ナダルもまた、手首の故障による全仏オープンの途中欠場から約2ヵ月間のブランクを経てリオ・オリンピックで復帰したばかり。「手首はよくなっている。調子は、良くも悪くもなく、ごく普通」という状態の30歳に、試金石となる4回戦だった。

 将来ビッグ4に代わっていく新勢力の台頭も注目されている大会だ。プイユはそんな期待の若手のひとり。ウィンブルドンでベスト8入りし、7月には一時トップ20入りも間近となった22歳が、世代交代を印象づける一戦を演じた。

 ナダルのトップスピンは少なくとも全盛期の威力を失っている。プイユはライン際、コーナーへと正確にショットを散らして元王者を追い込んだ。果敢にネットへ出ていくプレースタイルで先手をとり、ときにサーブ・アンド・ボレーも仕掛ける正統派。ナダルもまた、針の穴を通すようなパッシングショットで応戦、スタンドを湧かせた。

 セットカウント1-1で迎えた第3セットはプイユのブレークゲームで始まり、ナダルには第4ゲームでブレークチャンスがあったが、要所で好サービスを入れてくるプイユからあと1本が奪えない。

 しかし第4セットで流れが変わる。第6ゲームから第8ゲームまでのブレーク合戦でリードしたナダルは、このセットを取ってファイナルセットへ持ち込むと、最初のゲームをいきなりブレーク。しかしリードを守れず、第8ゲームでナダルの30-0からプイユがブレークバック。ナダルはすぐにふたたびブレークチャンスを握るが、結局3度のデュースでプイユがキープした。

 そのままもつれたタイブレークでは、プイユが6-3でトリプル・ブレークポイントを握った。ここからのナダルが6-6に追いつく展開には、明らかに両者の経験値が表れていたが、クライマックスはそんな陳腐な解説を許さなかった。

 6-6でナダルはフォアハンドの決定的なチャンスボールをネットにかけ、最後はペースを使って冷静なラリーを展開したプイユが、フォアのダウン・ザ・ラインでウィナーを取った。

 ナダルのフォアハンドのミスについて、あとでプイユは言った。 「トップの選手でも、僕たちと同じようにプレッシャーを感じるんだ……」

 4時間7分を戦って、トータルポイントはともに「156」。何が勝負を分けたのか。グランドスラムのプレッシャーを指摘する記者に、ナダルは少し苛立つような口調で返した。

 「14回グランドスラムで優勝した30歳が、プレッシャーで負けたと? そんなわけはない。そういう問題じゃない」

 しかし、アーサー・アッシュ・スタジアムで熱狂的な声援を浴びながら、ナダルは自分の責任を感じていたはずだ。まだテニス界が自分を必要としているという自負が、彼をどこまで復活させるだろうか。まだしばらくはナダルが世代交代の〈カギ〉を握る。 (テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)