グランプリ(GP)シリーズ第6戦のNHK杯後、12月5日からイタリアのトリノで行なわれるGPファイナルの出場選手が決定した。シニアに昇格したばかりのロシア勢3人の旋風が吹き荒れる女子は、NHK杯優勝のアリョーナ・コストルナヤが「シーズン1…

 グランプリ(GP)シリーズ第6戦のNHK杯後、12月5日からイタリアのトリノで行なわれるGPファイナルの出場選手が決定した。シニアに昇格したばかりのロシア勢3人の旋風が吹き荒れる女子は、NHK杯優勝のアリョーナ・コストルナヤが「シーズン1年目ですべてのメダルが獲れればいいねと笑いながら話していたけど、実際にそれができてうれしい」と話していたように、彼女とアレクサンドラ・トゥルソワ、アンナ・シェルバコワの3人で全6戦を制した。



グランプイファイナルでは、ハイレベルなロシア勢と勝負することになる紀平梨花

 その3人のうち、コストルナヤとトゥルソワのレベルが少しだけ抜けている状況だろう。トゥルソワはGPシリーズ初戦となったスケートカナダで、フリーで3種類4本の4回転ジャンプを入れた構成の威力を発揮。最初の4回転サルコウで転倒しながらもフリー歴代世界最高の166.62点を出して、合計も歴代最高の241.02点にして初勝利を挙げた。

 彼女の弱点は、まだトリプルアクセルをプログラムに入れていないため、ショートプログラム(SP)で点を伸ばせないことだ。さらに2戦目のロステレコム杯のフリーでは、転倒した最初の4回転サルコウで回転不足を取られ、後半の3回転ルッツ+3回転ループでも転倒。得点は160.26点で、合計234.47点にとどまった。

 そんなトゥルソワに対し、コストルナヤはまだ4回転ジャンプを持っていないとはいえ、GPシリーズからはSPにトリプルアクセルを入れてフリーと合わせて3本にしている。フランス杯のSPではトリプルアクセルが回転不足になるミスがあったが、フリーではノーミスの滑りで159.45点を獲得して合計を236.00点にした。

 NHK杯ではSPでトリプルアクセルをしっかり決めるなど、各要素でしっかりGOE(出来ばえ点)加点を稼ぎ、昨季の世界国別対抗で紀平梨花が出していた世界最高得点を更新する85.04点で首位発進。フリーでは2本目のトリプルアクセルがステップアウトになるミスはあったが、そのほかの要素は完璧に決めて合計240.00点と、トゥルソワに続いて240点台に乗せてきた。さらに、演技構成点も9点台前後で揃える高い評価を得ており、フリーでもノーミスの演技ができれば、合計を247点まで伸ばせる計算だ。

 また、トゥルソワもSP、フリーともノーミスで4回転サルコウを決めれば、あと5点強は加算できるだけに、ファイナルでノーミスの競演になった場合、247点前後の優勝争いになる可能性も出てきた。

 一方シェルバコワは、4回転ルッツを2本入れているフリーでは、3回転ルッツも2本入れて、スケートアメリカでは回転不足がふたつありながらも160.16点を出している。だが、この時のSPは得点源になっている後半の3回転ルッツ+3回転ループの回転不足などのミスで67.60点。合計も227.76点にとどまった。

 2戦目の中国杯では、SPで73.51点を出したが、フリーでは冒頭の4回転ルッツ+3回転トーループのルッツで回転不足を取られただけではなく、SPを含めてルッツは4回転と3回転の5本すべてで”ノット・クリア・エッジ”の判定。まだミスが多く、テクニカルスペシャリストの判定に左右される不安定さがあると言える。

 そうした状況で、今季のGPシリーズでは2戦とも230点超えと安定している紀平梨花にも、優勝のチャンスは十分ある。SPでは、左足首故障の影響で3回転ルッツが跳べないことと、ロシア勢と違い連続ジャンプを前半に入れているハンディはあるが、その構成でもノーミスなら81~82点は可能だ。

 NHK杯のフリーでは、後半の連続ジャンプの3回転トーループが回転不足になって減点されたが、それがなければフリーで155点台が可能で、合計は237点前後になる。さらに冒頭のサルコウを4回転にできれば、基礎点の増加だけでも合計は240点台に乗せられる可能性を持っている。彼女が目指しているのは「完璧な演技」だが、その中に4回転サルコウを入れられるかどうかも見どころになる。

 またアリーナ・ザギトワ(ロシア)も、今季は216.06点、217.99点と伸び悩んでいるが、NHK杯のフリーでは、3回転フリップの回転不足のミスはあったものの、151.15点を獲得して復調の気配を見せている。SPでうまく滑り出せば230点台後半まで持ってくる力はある。

 ただ、難度の高いジャンプに挑めば挑むほど、ミスをする確率は上がってくるもの。トゥルソワやコストルナヤの、ミスを引きずらない鋼の精神力には脱帽するばかりだが、ジュニアから上がってきたばかりの3人にとっては、思い切りできていたこれまでの2戦とは違い、ファイナルという大きなタイトルがかかるプレッシャーも出てくるはず。前回優勝の紀平や、五輪と世界選手権優勝のザギトワとの勝負で、どこまで力を発揮しきれるかもカギになりそうだ。

 怖いもの知らずで突っ走るコストルナヤとトゥルソワが頭ひとつ抜けているとはいえ、これまでと違う緊張感の中でミスが出て230点台の戦いになれば、5人のうち誰が優勝してもおかしくない。今回のグランプリファイナルは、ひとつのミスが命取りになるスリリングな展開になりそうだ。