3年ぶりのグランプリファイナル制覇を目指す羽生結弦 NHK杯で優勝してグランプリ(GP)ファイナル進出を決めた羽生結弦。大会後には今シーズンのここまでをこう振り返っている。「とにかく、ケガなく終えたことが一番の収穫かなと思います。ショー…
3年ぶりのグランプリファイナル制覇を目指す羽生結弦
NHK杯で優勝してグランプリ(GP)ファイナル進出を決めた羽生結弦。大会後には今シーズンのここまでをこう振り返っている。
「とにかく、ケガなく終えたことが一番の収穫かなと思います。ショートは納得できる形ではなかったけど、まずはまとめられた。フリーは、回転不足はあったとはいえ、ワンミスにとどめられたのはよかったんじゃないかと思います。ファイナルへ向けて、いい一歩になったと思います」
スケートカナダのあと、「GPシリーズを乗り切って、ファイナルや全日本選手権でしっかり戦いたい」と話していた羽生。NHK杯では、昨季まで2年続けてファイナル出場を逃して、かなり気持ちの中に溜まっていたものがあったとも話していた。
「去年のケガは事故的なもので、避けようのなかったケガだと思っています。その前年のケガも、調子が良くない中で(4回転)ルッツをやってしまったという反省はもちろんあるんですけど、やっぱりジャンプのケガは僕らにとってはつきものなので、しょうがないという風に思っています。
だからこそ、ファイナルは『行きたいのに行けない』という気持ちがすごくありました。それまで自分が4連覇していましたし、もっと連覇記録を伸ばしたいという気持ちも強かった。ずっとあそこに君臨していたいと思っていたので。出られなくなってからはネイサン(・チェン)選手が連覇をして、今年は3連覇を狙うまでになった。そういう状況の中で、タイトルを奪還したいという思いは強くあります」
それは昨季の世界選手権が2位だったからこそ強くなったとも言う。
「あの時は、演技内容自体もショートは良くなかったけど、フリーはそこそこよかった。それでも勝てなかったですが、それは記憶には残っても記録には残らない。それでは意味がないと思うんです。しっかり記録に残ってこそナンボだと思うので、しっかり結果を残したい。そういう強い気持ちはあります」
今、ファイナルで勝つために最も必要なものは何か?という問いに、羽生は「コンディションづくり」だと言い切る。GPシリーズ第3戦で進出を決めたチェンが中4週とスケジュールに余裕を持って調整できているのに対し、羽生はNHK杯から中1週でファイナルに臨まなければいけない。
羽生は、これまでもタイトなスケジュールのなかでファイナルを戦ってきたが、ここ2年間はそれを経験できなかった。だからこそ、コンディションを整えることが一番重要だと考えるのだろう。
「ここから全日本までは3連戦ですが、移動が多いので時差の問題もある。もちろん僕は、試合で出し切るタイプで、どこかで(力を)抜くということは絶対にない。だからとにかくいいコンディションで臨むことが重要です。自分にとっては、今回のファイナルはネイサン・チェン選手との戦いだとしか思っていないんですけど、やっぱり勝ちたいし、勝つことに意味があると思っている。
たしかに今シーズンは、2戦とも点数では彼に勝っています。NHK杯も満足しきれる内容ではなかったですが、それでも勝てたのでその自信は持ちつつ、ただネイサン選手もこれまでのような得点にとどまっているわけではないというのもわかっています。スケートカナダや今回以上にいいコンディションで臨めるようにしたいな、というのが一番の対策というか、一番すべきことと思っています」
また、コンディション自体は、NHK杯に向けて合わせてきたというが、結果的には調子のピークはファイナルに合うのではないかという感覚も少しあるという。
「実はオータムクラシックのあとはコンディションがよくなくて、うまく練習ができなかったんです。だから、スケートカナダはけっこうフラストレーションがたまっている状態での試合だった。そこでいい演技ができたということは、いい練習ができたということだと思うんですけど、もっと安定していい演技ができるようにしたいと思ったし、もっと基盤を作りたいと考えたんです。
だから、スケートカナダからNHK杯までの道のりは、そういった意志で練習はできたんじゃないかなという感覚はあります。もちろんフリーではミスや回転不足があったし、ショートの滑りも完璧だったとは言えないけど、まとまった演技が、一か八かではなく、安定した演技がだいぶできるようになってきたなという感じもします」
さらに自分では、「このプログラムでは4回転ループを跳べない」という印象が強くなっていたが、それもなんとか払しょくして壁を越えられた。その成功体験で大きな自信を得られたという手応えもある。
また、今回のファイナルが、2006年にトリノ五輪が開催された会場で行なわれることにも羽生にとって大きな意味がある。
「トリノ五輪ではジョニー・ウィアさんが、フリーで『秋によせて』をやったと思います。『あの時は4回転をやって無茶苦茶になったのですごく悔しかった』と言っているのを聞いた記憶もあるけど、僕にとってウィアさんのあの演技はすごく特別で。『この選手に憧れてよかったな』と思って見ていましたし、彼のすばらしさをあらためて感じた試合のひとつでした。またトリノは、エフゲニー・プルシェンコさんが金メダルを獲った場所でもある。『秋によせて』と『Origin』は両方とも(ふたりへの)リスペクトをすごく掲げているプログラムなので、その意味でもあのプログラムたちとともにいい演技をして、僕自身もそこで金メダルを獲れたらいいなと思っています」
ファイナルのジャンプ構成に関して、羽生はまだ明らかにしていないが、4回転ルッツも練習では跳べている状態で、氷のコンディションによっては入れる選択もできるとも言う。だがそこは、その時の体調やコンディションなど、すべてを加味して決定していくと決めている。
そして、羽生自身が思い描くスケーター・羽生結弦の理想像は、「全日本ノービスを勝って自信の塊みたいになり、何でもできると思っていた9歳の頃の自分」だと言う。自分が心から好きだと思うことに熱中し、その自信に対して「すごく素直でいられたあの頃の自分」だと。
そんな自分に、少しでも近づきたい。そう思う羽生にとって、3年ぶりのGPファイナルは勝つために出場する大会だ。彼のその思いは明確になっている。