「技術のぶつかり合いではなくてプライドのぶつかり合い」。鈴木捷太副将(スポ4=群馬・太田)は、早慶定期戦(早慶戦)をそう表現した。伝統の一戦であり、一年間の集大成でもあるこの試合。早大はホームで2連覇を達成したいところであったが、6—7で…

 「技術のぶつかり合いではなくてプライドのぶつかり合い」。鈴木捷太副将(スポ4=群馬・太田)は、早慶定期戦(早慶戦)をそう表現した。伝統の一戦であり、一年間の集大成でもあるこの試合。早大はホームで2連覇を達成したいところであったが、6—7で惜敗。4年生の花道を勝利で飾ることはできなかった。

 開会式後最初に行われた形演武では、永田一紗(スポ4=茨城・水城)が個人形を、猪越優蘭(政経4=埼玉・早大本庄)、永田、細田悠乃(社3=沖縄・開邦)、益田恵里花(創理1=東京・早実)が団体形を披露。このメンバーでは最後となる演武で、観客を沸かせた。その後約束組手、高校自由組手を経て、大学自由組手が開幕。両校の応援の熱気や緊張感で、早稲田アリーナは異様な雰囲気に包まれた。先鋒に抜てきされたのは、天野陽仁(政経4=東京・早大学院)。序盤は連続で突きを奪うも、忠告の影響で動きが制限。ラスト30秒を切ったところで3点差を追いつかれてしまう苦しい展開となった。それでも、ここから天野が意地を見せる。「上ばかりに集中している」と対戦者の動きを読み、中段突きでポイントを連取。追いすがる相手選手を振り切り、8—6で粘勝した。「2年目にして最後ですが、チームに貢献できたと思うので、そこは良かった」。元々日本拳法部に所属していたが、膝のけがの影響で転部した天野。駆け付けた友人たちの声援に応え、2年間の有終の美を飾った。


優秀選手に選ばれた天野

 こうして幸先のよいスタートを切った早大だったが、続く次鋒戦で波乱が起こる。登場したのは長沼俊樹(スポ1=東京・保善)。全日本学生選手権にも出場した実力者だが、今試合では終始相手に押され、なかなか技を決めることができない。結局一度もリードを奪うことができず、2—5でまさかの敗北を喫した。さらに、三峰戦、四峰戦でも連敗。連覇へ向け暗雲が立ち込めた。この悪いムードを断ち切ったのが、吉田翔太(スポ2=埼玉・栄北)。相手選手に一切の隙を見せることなく4連続で突きを決め、完封勝利を収めた。すると、ここから早大は流れを取り戻す。野澤颯太(法1=長野・松商学園)が接戦を制し、試合を振り出しに戻すと、伊坂夏希(スポ2=鳥取・米子東)は6点差をつけ圧勝。再び1勝のリードを奪い、後半戦に突入した。


得点を決めた野澤

  このまま白星を積み重ねていきたいところであったが、そう簡単にはいかない。六将戦以降は苦戦を強いられ、3連敗。残り3戦を残し、慶大に王手をかけられた。この後がない状況を任されたのは鈴木。形が専門で組手の練習を十分に積めていない中でも、果敢に挑んだ。だが、「どんどん自分で追い込んでしまった」。先制点こそ奪ったものの、以降は上段蹴りなどを食らい2—8で完敗。2戦を残し、優勝の可能性がついえてしまった。このままでは終われない。ここで意地を見せたのがエース・芝本航矢(スポ3=東京・世田谷学園)と、チームを一年間けん引してきた笹野由宇主将(スポ4=東京・世田谷学園)。芝本は昨年苦戦を強いられた新井拓巳(2年)と対戦。「自分はこんなもんじゃないぞとしっかり見せるつもりでやった」。鋭い突きでポイントを6連続で奪取し、7—1と圧倒。1点差の辛勝で不完全燃焼に終わった昨年のリベンジを果たし、勝利を決めた瞬間は大きくほえた。そして迎えた大将戦。「大将ですし、チームが負けても自分が最後を締めれば、チームはまた来年につながる」(笹野)。早稲田の大将として、そして主将としての誇りを胸に臨んだこの試合。前半から積極的に上段を狙い、4ポイントを奪う。最後は1ポイント差まで迫られたものの、一度もリードを許すことなく勝利。「正直、やり切ったかな」。競技生活のラストマッチを終え、笑顔でマットを後にした。


最後は笹野で締めた

  両校のプライドがぶつかり合う早慶戦。結果的に早大は負けてしまったものの、1点差の白熱した試合で健闘を見せてくれた。この試合をもって4年生は引退。芝本を主将に据えた新体制が発足する。「『絶対に勝つ』というどん欲な気持ちを常に持った、執念の強いチームを作っていきたい」(芝本)。高みを目指し、新チームは歩みを始める。そして、1年後。今度は挑戦者として、宿敵を撃破してくれるはずだ。

(記事 宇根加菜葉 写真 名倉由夏、河原琴未、江藤華)

結果

▽大学自由組手

早稲田 6-7 慶応 優勝 先鋒 天野陽仁(政経4=東京・早稲田) ○8-6 次鋒 長沼俊樹(スポ1=東京・保善)     ●2-5 三鋒 佐川開人(商4=埼玉・早大本庄)    ●6―12 四鋒 土谷菜々子(スポ1=北海道・札幌北)  ●5―9 五鋒 吉田翔太(スポ2=埼玉・栄北)  ○4-0 六鋒 野澤颯太(法1=長野・松商学園)   ○11―10 中堅 伊坂夏希(スポ2=鳥取・米子東) ○9-3 六将 土居笙太(商2=東京・早実)     ●4―6 五将 謝勁文 (修士2=台湾・第七)  ●0―6 四将 永田一紗(スポ4=茨城・水城)     ●4―10 三将 鈴木捷太(スポ4=群馬・太田)   ●2―8 副将 芝本航矢(スポ3=東京・世田谷学園)○7―1 大将 笹野由宇(スポ4=東京・世田谷学園)○4-3

▽優秀選手賞

天野

コメント

笹野由宇主将(スポ4=東京・世田谷学園)

――今の率直な気持ちをお願いします

正直、やりきったかなって感じはします。

――きょうのオーダーはどのような意図で組みましたか

最初の先鋒は天野で勢いづかせようかなと思いました。あえて長沼を置かなかったのは天野のやる気もありましたし、そこをしっかり自分たちも見ていたので、先鋒で(勢いを)作って。そこからは大体誰がどこに来るだろうと想像しながら、こっちのメンバーを決めていきました。

――チーム全体の試合運びを振り返っていかがでしたか

先鋒の天野は勝つと思っていました。オーダーが出た瞬間に天野が勝つなと思っていて、これだったら上手く行く、早稲田が勝つんじゃないかと思っていたですが、慶應もそこそこやるなと。負けてしまったのですが、いい試合だったなと思います。

――次に個人についての話に移ります。大将ということで敗北が決定した中での試合となりましたが、どのような心境で臨みましたか

負けが決まっていたので、自分が4年間やってきたことを出すだけだな、出し切ろうと思って臨みました。

――個人としては大学最後の試合を勝利することができました。そこについてはいかがですか

やはり負けられないので。自分も大将ですし、チームが負けても、最後自分が締めれば、チームはまた来年に繋がります。そういった意味でも主将は負けられないって気持ちは強かったです。そこはしっかり勝ててよかったです。

――昨日から連続での試合となりましたが、疲労はありましたか

昨日も帰ったのが11時くらいだったので、ご飯食べて寝るだけで気づいたらきょうの朝で。結構疲労がたまっていたんですけど、それでも残り1日だし、やれることをやるだけだなと思って全てを出し切りました。

――早慶戦はやはり独特の雰囲気があると思いますが、それについてはいかがですか

やはりまだ1年生や2年生などは雰囲気に飲まれている人が多かったですね。これは来年だったりとか再来年だったりとか数を重ねるごとに分かってくると思うので、そこは自分からは言わずに、慣れていってくれればいいのかなと思いますね。

――早大空手部の4年間振り返って今どんなことを思いますか

楽しかったですし、早かったです。あっという間でしたね。ついこの前入学して、気付いたら卒部みたいな。4年間きっちりやったのですが、結構早かったなという思いがあります。目標達成というのはできなかったのですが、それを後輩たちが受け継いで、悔しい気持ちを来年にぶつけてくれるんじゃないかなと思います。

――今年1年チームをともに引っ張ってきた同期についてお願いします

いい仲間です。いい同期でしたね。自分は結構きっちりしているタイプで、同期は結構個性が豊かです。猪越優蘭(政経4=埼玉・早大本庄)はチームの雰囲気づくりだったりとか、鈴木捷太(スポ3=群馬・太田)はきっちりしている方ではないですがチームを和やかにしてくれて、逆に自分がそこを締めたりして。本当にいろんな場面で同期が一人一人関わってくれたと思いますね。

――そのような同期の中で1年間主将をやられて、いかがでしたか

楽しかったですけど、最後の1ヶ月くらいは本当にきつかったですね。10月の関東団体(関東大学選手権)からが結構厳しくて、正直心折れるんじゃないかって思ったりもしました。それでもみんなでメニューを組んだり共有して、足りないところを補ったので、なんだかんだみんなの力があってここまで来られたと思ってます。

――笹野さんにとってこの4年間を過ごしてきた早大空手部とはどんな存在ですか

成長させてくれた場所ですね。こういう経験って人生でないと思います。他の大学だとスポーツをやっていても早慶戦もないですし、こんな独特の雰囲気でやることもないです。本当に楽しくできたなと思いますね。

――後輩へメッセージをお願いします

この悔しさを感じたのは自分や負けた人だけじゃないと思います。来年は芝本航矢(スポ3=東京・世田谷学園)の代になりますが、くじけるのではなくきょうの反省を活かして、きょうの悔しさを来年一年間どうすべきか、どんなことをやれば勝てるのかと考えて稽古していってほしいなと思います。

鈴木捷太副将(スポ3=群馬・太田)

――最後の大会・早慶戦が終わって、今の率直な気持ちをお願いします

ふがいないの一言ですね。最初の試合の展開的に点を取れたのでいけるかなと思ったのですが、途中から早慶戦のムードで会場が高まってきて、だんだん視野が狭くなってきてしまいました。自分ができることもできなくなってきたり、試合内容は集中しすぎて覚えていないのですが、自分の勝敗ではなくて、チームの勝敗がかかっていた場面でああいう展開を自分でやってしまったことは副将についてる身からするとふがいないと思いますね。

――プレッシャーなどはありましたか

急にありましたね。いきなり4-6で回ってきたので。「これやばいやつだ」ってどんどん自分で追い込んでしまったところもありました。試合では強気で挑めたのですが、結果は負けてしまって申し訳なかったなと思います。

――元々形の選手だと思うのですが、組手へのプレッシャーとかはありましたか

昔組手をやっていたので抵抗はないのですが、大学生になってあまり練習時間を確保できていないので、そこには不安はありました。

――では副将の一年を振り返っていかがでしたか

副将の仕事ってなにすればいいんだっけって考え続けた一年でした。振り返ってみて偉業や大きなサポートはできなかったのですが、少しずつ小さいサポートはできたかなと。これまでの副将は偉大な方が務めてきたのでそれには及ばないかなとは思うのですが、自分なりに達成できた部分もあるかなと思います。

――4年間を振り返っていかがですか

高校ほど結果を残せなくて、充実していたとはいえなかったのですが、この4年間でいろいろな出会いがありました。最後の早慶戦で負けてしまったのですが、そういう悔しさを体験できるのはこれで最後なので。結果は充実してはいなかったのですが、人間の内面的な成長やいろいろな人と出会いもあり充実した4年間だったかなと思います。

――では悔いはないってことでしょうか

悔いは最後負けてしまったのであるといえばあるのですが、やりたくはないかなって(笑)。

――鈴木選手にとっての『早慶戦』とは

どっちも伝統校で技術のぶつかり合いではなくてプライドのぶつかり合いだと思っています。我を強く出した方が勝てると思っていて、空手の試合っていうよりはプライドの戦いだと思っています。

――後輩へ一言お願いします

きょうの試合を見ていて、いい動きをしていて接戦で勝った人圧勝した人などいろいろな人がいて、結果負けてしまったのですが、悔しさをバネにできる時間が1年、2年、3年あるのでそのことを幸せに思って頑張ってほしいと思います。これまでの部活動の中で伝えられることは伝えられたと思うので、そういったことを感じて今後時間があることに感謝していってほしいですね。

天野陽仁(政経4=東京・早大学院)

――今の気持ちはいかがですか

やり切った気持ち半分、悔しい気持ち半分という感じですかね。

――接戦だったと思いますが、試合を振り返っていかがですか

序盤は結構点数を取れましたが、後半反則がたまり自分の動きが制限される中で、相手に流れをつかまれかけてしまったという印象です。でも、最後に2ポイント取れたのは良かったと思います。

――最後まで気持ちが切れたりすることはありませんでしたか

きょうは友達も応援に来てくれたので、声援が力になりました。

――中段突きが多かったと思いますが、その点についてはいかがですか

相手が上ばかりに集中しているというのが途中から分かったので、(相手の突きが)出てくるタイミングで合わせようと狙っていました。

――先鋒で勝ち点を取り、優秀選手賞にも選ばれました

観客受けする試合をしたので、優秀選手賞になったのかなと思っています(笑)。でも自分に関わってくださった方には感謝しかないです。

――3年生から入部されたと聞きました

元々日本拳法部に2年生まで入っていまして、膝のけがもあって転部させてもらいました。2年目にして最後ですが、チームに貢献できたと思うので、そこは良かったです。

――その2年間を振り返っていかがですか

ベタになりますが、長いようであっという間だったなと。空手部だけでなく他の部や親など多くの人に恵まれて、いい最後だったと思います。

――最後に後輩に一言お願いします

きょうの悔しさを忘れずに、頑張ってほしいと思います。来年は必ず勝ってくれると信じています。

芝本航矢(スポ3=東京・世田谷学園)

――まずは今の率直な気持ちというのをお願いします

まだ悔しいっていう気持ちですね。この悔しさを1年間持ち続けて、悔しさをバネにやるしかないなっていう気持ちです。

――芝本選手の前で勝敗は決まってしまいましたが、試合に臨んだときの心境はいかがでしたか

決まっていたのですが、そこに試合がある以上はやっぱり負けるというのは、嫌でした。何がなんでも『絶対勝つ』というのは気持ちは変えずに、『圧倒的に勝つ』という気持ちで挑みました

――個人の試合で、自分自身の試合では、快勝を収めたと思うのですが、試合を振り返っていかがでしたか

昨年は同じ相手にふがいない試合してまた今年もということで、今度こそは圧倒的に勝ってやると気持ちで挑みました。もう次は自分と当たらせないようにするぐらいの相手を抑え込むくらいの気持ちで挑みました。

――昨年度のリベンジを果たせましたか

一応昨年は勝ったは勝ったんですけれども、内容が自分の納得いくようなものではなくて。相手にちょっと自信をつけさせてしまったかなというのがありました。今年も当たることができたので自分はこんなもんじゃないぞというのをしっかり見せるつもりでやりました。

――昨日から試合は続きましたが、疲労などはありましたか

疲労は当然ありますが言い訳にもならないですし、絶対勝つという気持ちを変えず、試合に臨みました。

――試合に入っていない時に何か心がけたことというのはありますか

早慶戦というのは結構独特の雰囲気で冷静さを失ってしまう場面も多くあるので、「一つ一つ取るんだよ」、「落ち着いて」だとかの声かけは心がけました。あまりかっかしてしまうと自分の思うように組み手もできない選手もいるので、冷静さを保てるように後ろから声かけたりなどはしましたね。

――これで4年生との試合できる機会が最後となりますが、芝本さんにとって4年生の存在というのは

本当にお世話になりっぱなしで。これが最後かと思うと、あと1、2年くらい一緒にいれないかなという気持ちですね。でも最後という日はきてしまうので、1年生から3年間一緒にやってきたので、その先輩方が築いてきたものを、引き継いでいきたいなと思います。笹野先輩(スポ4=東京・世田谷学園)に関しては、高校からもお世話になっていてほんとに数えきれないほどの感謝しかないです。その感謝を忘れずに、ずっと心の中に持って、来年自分が幹部としてチームを引っ張っていけたらなと思います。

――次は、芝本選手が次期主将となりますが、主将としてどんなチームを作っていきたいですか

やるときはやるというオンオフの切り替えがうまいチームに作りたいと思っています。どんな試合も『絶対に勝つ』というどん欲な気持ちを常に持った、執念の強いチームを作っていきたいと思っています。また練習中から自分が一番になるんだっていう思いを持てるようにしていきたいです。それがチーム内での切磋琢磨(せっさたくま)にもなって全体のレベルが上がると思うので。みんなで一つに『勝つ』という思いを持てるようなチームを作りたいなと思います。

――最後にチームとしての意気込み、個人としての意気込みをお願いします

団体としては日本一という目標を一番に置いています。でも今のままじゃ絶対日本一というのは難しく、絶対無理だと思います。なのでチームとして日本一を狙う気持ちと自分でしっかり点を取るという気持ちを常に持つという一年にしたいと思っています。個人としても全ての試合を勝つつもりで、一試合も落とさないつもりで来年1年間、大学生活も最後なので思いっきりやりたいと思います。こうやって空手に一生懸命打ち込める時期ももう1年間しかないので、そういう思いもしっかり胸にしまって来年しっかり戦いたいなと思います。