昨年から大谷は何が変わったのか。そして、このまま打者としてシーズンを終えるべきなのか。それとも、残り1か月でやはり投手として復帰を果たすべきなのか。その場合、どのような形での復活が望ましいのか――。■大谷の残りシーズンの起用法は…投手か打者…

昨年から大谷は何が変わったのか。そして、このまま打者としてシーズンを終えるべきなのか。それとも、残り1か月でやはり投手として復帰を果たすべきなのか。その場合、どのような形での復活が望ましいのか――。

■大谷の残りシーズンの起用法は…投手か打者か「ウルトラC」か

 投打二刀流で日本球界の常識を覆してきた日本ハムの大谷翔平投手が、打者での出場を続けている。

 大谷は今季、投手として17試合に登板し、8勝4敗、防御率2.02。開幕から白星に恵まれず、8試合終了時点で1勝4敗、防御率3.34と苦しんだものの、その後は本来の力を発揮して7連勝を挙げた。しかし、7月10日のロッテ戦で投球中に右手中指のマメをつぶすと、同24日のオリックス戦で中継ぎ調整したものの、いまだに先発復帰はできていない。

 ただ、その間は野手での出場を続け、打線を牽引。最近は調子を落としているものの、打率.326、20本塁打、54打点と堂々の成績を残している。最大11.5ゲーム差を離されていた首位ソフトバンクを猛追している日本ハムだが、打者・大谷がいなければ不可能だったと言えるだろう。

 では、打者として打率.202、5本塁打、17打点に終わった昨年から大谷は何が変わったのか。そして、このまま打者としてシーズンを終えるべきなのか。それとも、残り1か月でやはり投手として復帰を果たすべきなのか。その場合、どのような形での復活が望ましいのか。

 ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーした野球解説者の野口寿浩氏はまず、打者・大谷の“成長”の要因は、打撃フォームの変化にあると指摘する。

「ちょっと(昨年から)バッティングフォームが変わりましたね。膝を曲げて、重心が下がったように見えます。あとは、少しグリップを前に出して、懐を広く取るようしているなと感じます。それがいい方向にいっていますね。元々、バットコントロールは柔らかくてうまいものをもっているので、重心を下げたことによって、下半身の力の伝達がうまくいくようになったんだな、という印象ですね。あれだけヒットが出て、逆方向の打球が飛べば、手はつけられない。

 野村克也さんもおっしゃっていますが、打球を飛ばす力というのは、天性です。遠くに飛ばすのは、天性の力がある。大谷は、その持っている天性の力を引き出せる打ち方になった。重心を下げて、懐を広く構えることによって、自分の持っているものが出しやすくなった。そういうことだと思います。元々の天才的な打撃の能力にプラスして、そういう思考も加わり始めたということでしょうね。じゃあ、完成したらどうなってしまううんだろう、と思いますね」

■日本ハムにとって悩ましい大谷の起用法

 昨年の大谷は、低めの落ちるボールに脆さを見せることが多かった。追い込まれてから落ちるボールで空振り三振、もしくは引っ掛けて内野ゴロという場面が目立ったが、今季は低めのボールをスタンドまで運ぶ場面も目立つ。明らかに“進化”していると言えるだろう。野口氏は続ける。

「その(落ちるボールへの)対策で重心を下げた、ということもあるかもしれないですね。ずいぶん低く構えてるな、という感じがします。もちろん、重心を下げれば、低めのボールに自分から少し近づくことになるので、見極めもしやすくなります。だからといって、あれよりも下げてしまうと打った時に力は伝わりづらくなるでしょうし、色々と考えているでしょうね。大谷の打撃が出来上がってしまったら、本当に恐ろしいです。本人もまだまだ完成形ではないと思っているだろうし、そう思っていてほしいですよね」

 これだけの打者だけに、日本ハムとしては打線から外しづらい。一方で、163キロを投げる日本球界ナンバー1投手でもある。右手中指のマメで離脱したが、すでに患部は問題ないとされており、本人も「もうマウンドに戻れる状態です。『いけ』と言われたところでいけるようにするだけです」と話している。

 ただ、悩ましいのは、大谷が先発ローテーションに復帰した場合、打者としての起用に制限が出ること。登板2日前から投手としての調整に入るため、打線から外さなくてはいけない。先発登板時は“リアル二刀流”で中軸に入るとしても、週に2試合は打者・大谷を欠くことになる。日本ハムとしは当然、痛い。どうするべきなのか。

 野口氏は「もう(投手として)行けるのなら、投げたほうがいいと思います。絶対に投げたほうがいい。あれだけのピッチャーですからね」と断言する。そのための「ウルトラC」として挙げたのは、日ハムの栗山監督も示唆しているリリーフ起用だ。

「3番・DHで出て、最終回に投げる。ただ、日本ハムは今、クローザーのマーティンが安定しているので、その前のセットアッパーでもいいですよね。それで、最終回は外野に行く。投げ終わった後なら(外野守備につくのは)大丈夫ではないでしょうか。1イニング守った後にアイシングしたって、大きな影響はありません。どうせ、彼が全力で1イニングを投げたら12、3球で終わりますからね」

■DH先発からのリリーフ登板は「チーム事情を考えたら、あり」

 野手として先発出場して、セットアッパーとしてマウンドに上がる。これこそが、大谷の二刀流を生かす最大の策となるのか。1995年5月9日のオリックス戦で、DHで先発していた当時西武のオレステス・デストラーデが、大差がついてからマウンドに上がったという前例があることは、すでに日本のメディアでも報じられた。実現の可能性は決して低くない。

「それが許されるなら、やるべきでしょうね。抑えだった増井が先発に回って、安定した投球を続けています。加藤や高梨も先発で頑張っています。だから、大谷はセットアッパーでもクローザーでもいいのではないかと。『大谷クローザー』を私は以前から推してきましたが、そろそろやってくれないかなと思います。指名打者の大谷がピッチャーに入るなら、ピッチャーを下げればいいだけの話ですからね。

 今の日本ハムのチーム事情を考えたら、ありですよね。むしろ見たい。ブルペンがベンチのすぐ裏にある球場ならできますよ。札幌ドームならすぐ裏にブルペンがあるから可能です。特にDHならば、打順が回ってこないところで投げて肩を作っておけます。あれだけのピッチャーですから、先発だろうが、中継ぎだろうが、抑えだろうが、投げたほうがいい」

 もちろん、まずは大谷のコンディションに最も気を遣わなければいけないだろう。実現すれば、チームのためとはいえ、まさにフル回転となる。故障してしまっては元も子もない。ただ、それだけのことを期待してしまうほど、大谷が投打両方で圧倒的な力を示してきたとも言える。打撃でこれだけの成績を残しているだけに、来季以降、日本ハムがどのような形で起用していくかにも注目が集まるところだが、野口氏は二刀流を貫くべきだと主張する。

「一昨年、栗山監督に話を聞いた時は、『自分で決めさせる』と言っていたので、大谷本人が『両方やる』と言ったら、いつまでも両方やるということでしょうね。160キロも捨てがたいし、あのバッティングも捨てがたい。今回のマメで投げられないというのは二刀流とは関係ないですし、体が続く限り二刀流で頑張ってほしいですね」

 毎年、違う姿を見せて、日本球界の歴史に新たな1ページを刻んでいく大谷。今季は「1番・投手」で先発し、初球先頭打者ホームランという漫画でも描かれないような離れ業をやってのけた。逆転優勝を目指す残りの1か月で、またしても仰天の場面が訪れるのだろうか。