アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の5日目、男子シングルス2回戦。 重い雨がアーサー・アッシュ・スタジアムの閉じた屋根を叩き始めたとき、第2シードのアンディ・マレー(イギリス)…

 アメリカ・ニューヨークで開催されている「全米オープン」(8月29日~9月11日/ハードコート)の5日目、男子シングルス2回戦。

 重い雨がアーサー・アッシュ・スタジアムの閉じた屋根を叩き始めたとき、第2シードのアンディ・マレー(イギリス)は、テニスの試合で通常聞こえる様々な音を聞き取ることができなかったという。マレーによれば、もっとも重要なこととして、対戦相手のラケットのストリングからくるボールを打つ音、あるいは自分のそれが、マルセル・グラノイェルス(スペイン)に対する2回戦の試合の間、まったく聞こえなかったというのだ。彼は結局、6-4 6-1 6-4でその試合に勝った。

 1億5000万ドルをかけて設置した開閉式の屋根が、メインスタジアムをよりうるさくしている。その構造ゆえ、雨のときだけでなく、屋根が開いているときでさえ、スタジアムの観客たちのお喋りの音が、より中にこもるのだ。

 ほかのすべてのコートで数時間プレーを遅らせた驟雨のために屋根が閉じると、その屋根が、客席からのすべての雑音を倍増させた。さらに、第2セットで雨が強く降り始めると、騒音はこれでもかというほど大きくなった。

 「何も聞こえやしないんだ」とマレー。「ラインコールさえ聞こえない」。

 しかし……そうなのだから、仕方がない。

 マレーとグラノイェルスがプレーを続ける中、ポイント間に絶え間ない騒音があった。土砂降りの雨が屋根の上を叩く音と、壁に反響する観客のおしゃべりの混合。ベースラインと並行する10列目の席から聞いたところでは、貝を耳に当てたときに聞こえる音の、より音量の大きなバージョンに聞こえ、ラケットがボールをとらえるときのインパクト音は掻き消されてしまっていた。

 それは、グランドスラムの試合として聞きなれないサウンドトラックだというだけではなく、競技に影響を与え得るものといえる。

 「僕らはプレーするときに耳を使う。使うのは眼だけではないんだ。音は、ボールのスピードやスピン、相手がどれくらい強くボールを打ったかを判断する助けとなる。僕が耳をふさいだり、ヘッドフォンをつけたりしてプレーし、相手が耳をふさいでいなければ、それは相手にとって大きなアドバンテージとなる」とマレー。彼の次の相手は、世界ランク40位のパオロ・ロレンツィ(イタリア)だ。

  「なかなか骨が折れるよ。それでもプレーすることはできるけれど、間違いなく、より難しい」

 グラノイェルスも似通った見解を示した。

 「ああいう音の中でプレーすることに慣れていない。ボールを正しく打っている、という感触を覚えられなかった。また集中するのも難しかったよ。すごくプレーしにくかった」とグラノイェルス。「屋根が閉まると、より騒音がするけど、でも雨が(強く)降っていなければ、まあ大丈夫だ。雨が降っていると、さすがにうるさすぎたね」。

 マレー同様、グラノイェルスもまた、プレーヤーは順応することを学ぶ必要があるということを認めた。

 「雨が降っているときには、いつもより音がします」と言ったのは全米テニス協会のゴードン・スミス。騒音に対する選手のコメントについて尋ねられてこう答えた。

 「音を減ずるために可能な対策があるか調査してみます。以前より騒音が大きくなることは、私たちも知っていました。それは、プレーヤーも、ファンも対処しなければならないことです」

 吉報もある。少なくとも、マレーやグラノイェルス、そしてそのほかの数人が、屋根のあるコートでプレーできたということだ。雨はこれまでも頻繁に、全米オープンのスケジュールを乱してきた。2008年から2012年まで5年連続で、男子シングルス決勝は延期されてきたのだ。

 木曜日に降った雨のため、屋根のないほかのコートでのプレーは制限されたが、アーサー・アッシュ・スタジアムの屋根の下では、試合が行われ続けた。セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)がバニア・キング(アメリカ)を6-3 6-3で破った試合も、そのひとつ。この勝利で、セレナはグランドスラム大会306勝という、マルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)が持つオープン化以降の最多勝利記録に、タイで並んだ。それ以上の307勝を記録しているのは男子のロジャー・フェデラー(スイス)だ。

 「アーサー・アッシュ・スタジアムの屋根が閉じていると、少し感じが違うわね」とセレナは言った。彼女はその試合で13本のサービスエースを決めたが、キングのファーストサービスからの40ポイントのうち、13ポイントしか取れなかったことには、不満を感じている様子だった。「でもそれでもやはり、気分はよかったわ」。

 主審のアリソン・ヒューズは観客に、静かにするよう繰り返し頼んでいた。

 「あなた方の声はコートまで聞こえます。みなさん、選手に敬意を払ってください。静かにしていてください」。

 勝ち上がった選手の中には、2009年の全米チャンピオンであるフアン マルティン・デル ポトロ(アルゼンチン)、第3シードのスタン・ワウリンカ(スイス)、第6シードの錦織圭(日本/日清食品)、第8シードのドミニク・ティーム(オーストリア)、第14シードのニック・キリオス(オーストラリア)、第22シードのグリゴール・ディミトロフ(ブルガリア)らがいる。しかし、第16シードのフェリシアーノ・ロペス(スペイン)は、ジョアン・ソウザ(ポルトガル)に2-6 4-6 6-1 5-7で敗れた。

 3度にわたる左手首の手術のあと、ランキングを100位以下に落とし、この全米で本戦入りするのにワイルドカード(主催者推薦)を必要としたリオ五輪の銀メダリスト、デル ポトロは、第19シードのスティーブ・ジョンソン(アメリカ)を7-6 (5) 6-3 6-2で破った。その試合のデル ポトロは、ジョンソンが放ったロブを追いかけ、ネットに背を向けて両脚の間から打ったショットによって1ポイントを獲得している。

 セレナの姉で、グランドスラム大会優勝7度のビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)は、ユリア・ゲルゲス(ドイツ)を6-2 6-3で下し、2011年全米優勝者のサマンサ・ストーサー(オーストラリア)は、ジャン・シューアイ(中国)に3-6 3-6で敗れた。

 また、第5シードのシモナ・ハレプ(ルーマニア)は、最初から最後まで閉じた屋根の下でプレーした初めての試合で、ルーシー・サファロバ(チェコ)を6-3 6-4で退けた(屋根は水曜日に行われたラファエル・ナダルの試合の最中に初めて閉じられた)。

 デル ポトロとジョンソンの試合は、屋根が開いた状態でプレーされ、第1セットの最中に、短い雨によって10分弱中断された。

 デル ポトロが勝ったあとには、メインスタジアムでの試合はもうなかった。通常は、アーサー・アッシュ・スタジアムの最後のナイトマッチが、その日の最後の試合となるのだが、今回は、より早い時間帯に雨で試合が中断されたため、深夜に近づこうというときに、ほかのコートでまだプレーが行われていたのだ。

 最終的に全試合が終了したのは午前1時少し前。13番コートで、2013年全仏準優勝者のダビド・フェレール(スペイン)が、昨年の全米女子の優勝者、フラビア・ペンネッタ(イタリア)の夫、ファビオ・フォニーニ(イタリア)に対して、6-0 4-6 5-7 6-1 6-4の逆転勝利を収めたときに、すべての試合が終了した。(C)AP