レッドブルは昨年のような速さをブラジルで見せることができるか 昨年のブラジルGPでマックス・フェルスタッペンは首位を快走し、周回遅れのエステバン・オコン(フォースインディア)に接触するまでは、優勝は間違いない速さを見せつけていた。 ただ…



レッドブルは昨年のような速さをブラジルで見せることができるか

 昨年のブラジルGPでマックス・フェルスタッペンは首位を快走し、周回遅れのエステバン・オコン(フォースインディア)に接触するまでは、優勝は間違いない速さを見せつけていた。

 ただし昨年と今年では、レッドブルのマシンは大きく異なる。空力性能ではメルセデスAMGに後れを取り、パワーではメルセデスAMGとフェラーリの2強に追いつけていないのが今年のレッドブルだ。

 チームは好結果を期待しつつも、実際に走ってみるまでは慎重な姿勢を崩さない。

「今年もコンペティティブであることを願っているよ。普通なら(昨年優勝目前だったという)それは今年も勝てることを意味するからね。

 ただ、現時点で今年のレースがどうかを語るのはトリッキーだと思う。まずは走ってみてマシンバランスを合せ込んで、どこをどれだけインプルーブ(改善)できるかを見てみないとね」

 フェルスタッペンがたびたび口にするのが、このマシンバランスだ。

 オーバーステア傾向のレッドブルのマシンは、バランスが完璧に仕上がらなければ、ドライバーが限界まで攻めてパフォーマンスをフルに引き出すことができない。セットアップが決まらなければたちまち速さを失ってしまうのは、シンガポールGP(第15戦)や日本GP(第17戦)の結果を見ても明らかだ。

 逆にセットアップさえ決まれば、今もレッドブルはトップ争いを繰り広げる速さがあるとフェルスタッペンは言う。

「夏休み明け直後を振り返ると、たとえばモンツァ(第14戦)では予想外にコンペティティブだった。だけどエンジンペナルティを消化しなければならなくて、後方からの追い上げを余儀なくされたから5位が最大限だったし、とてもよかったようには見えなかったと思う。

 シンガポールGPではセットアップをミスしてしまった。鈴鹿はかなり特殊で、セットアップを完璧に仕上げられるかどうかが予選で大きな差を生むんだけど、あまりセットアップが満足できる状態ではなかったからいい走りができなかった。それでもスタートがよくて3位まで浮上したのに、ターン2で押し出されてしまった。

 あれがなければ、鈴鹿でもいい結果が得られていたはずだ。全体的にマシンはそんなに悪くはなかった。結果が出ていれば、この数戦の戦闘力の高さについてのみんなの見方も違ったはずだよ」

 ただし課題は、タイヤをいかに保たせるか、ということだ。

 シーズン後半戦に入ってからのレッドブルは、その点でメルセデスAMGやフェラーリと比べて苦労している。昨年の後半戦に急浮上した要因のひとつがタイヤマネジメントの優位性で、予選5位から決勝で怒濤の追い上げを見せたブラジルGPも、まさにそんな展開だった。

 昨年はメルセデスAMG勢もブリスターに苦しんだが、昨年よりも硬いタイヤが持ち込まれた今年は、それほどタイヤを気にせずプッシュすることができるようになると予想される。これがレッドブルにとって、プラスになるのかどうかが重要なポイントだ。

 インテルラゴス・サーキットはセクター1とセクター3が75%を超える全開率を誇り、実質的な最終コーナーであるターン12からターン1までは約1.2kmにわたって全開時間が続く。

 その一方で、セクター2では全開率が50%を下回るほどコーナーが多い。距離ではストレートのほうが長いが、走行する時間ではコーナーのほうが長い。そして2本の長いストレートではDRS(※)が使えることから、どのチームもダウンフォースをつけてセクター2を速く走るセットアップを採る傾向にある。これも、パワーでやや後れを取るレッドブルにとっては追い風だ。
※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 そして標高2200メートルのメキシコほどではないにせよ、800メートルのインテルラゴスではターボと冷却が強いホンダのパワーユニットの利点も生きてきそうだ。ましてや、日曜は強い陽射しが降り注いで暑くなりそうで、まさしくレッドブル・ホンダが勝ったオーストリアGPのような状況とも言える。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「標高2200メートルのメキシコではきちんと走れていますし、標高660メートルのオーストリアでもちゃんと走れていました。ここは800メートルでそれよりも少し高いですが、パワー的なところでも車体側のクーリング面でも十分にカバーできると思っています。

 日曜は陽が出て路面温度も高くなるようですが、それもきちんと状況を見てセッティングしていかないといけない。ここまでのデータの積み重ねで準備はできています」

 レッドブルは、リアカウルの上方にルーバーを切って排熱口を設けた仕様も用意し、金曜フリー走行の段階から日曜の高温を想定してデータ収集を行なう予定だ。オーストリアでは暑さと空気の薄さによる冷却不足がメルセデスAMGに打撃を与えたが、今回もそういった状況になる可能性もある。

「温度の関係も込みで言えばそうですね。メキシコの状況を見ると、他社さんもそんなに影響ないレベルだとは思いますけど……。ターボの仕様の問題とクーリングの攻め度合いにもよりますから、走ってみないとわかりません」

 そしてもうひとつの追い風は、アメリカGP(第19戦)に続いて今回もFIAからパワーユニット運用に関する技術指示書が出されたことだ。これによって、フェラーリが予選で使用していると疑われていた、インタークーラーなどからオイルをエンジン吸気に混入させて大幅にパワーを絞り出す手法が「違法である」と明確にされ、彼らの予選での勢いがさらに削がれる可能性は高くなった。

「もともとレギュレーションはありますが、それですべてをカバーすることはできないので、ああいう物が出されるわけです。レギュレーションは法の精神が定められたもので、それを噛み砕いて非常に細かいレベルで説明するのが技術指示書です。

 この先、FIAがどういうやり方で監視していくかが出されたわけで、それが明確になると全員がレギュレーションを守り、F1というスポーツを公正に行なえる。それは好意的に受けとめています」

 こうした状況のなか、レッドブルが優勝を強く意識していることはフェルスタッペンのコメントや表情からも伝わってくる。

「マックスがそう言っているなら、彼はそう思っているんでしょうね。ここのところメルセデスAMGはきっちりとレースをしていますし、フェラーリは今回どうかわからないなか、我々は持てる力を最大限に発揮して優勝争いに絡んでいけるような戦いができればと思っています」

 セットアップを完璧に仕上げてポテンシャルのすべてを引き出すことができれば、優勝の可能性も高まってくる。それだけにまずレッドブルに課された使命は、金曜フリー走行の180分間を最大限に生かすことだ。