アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は2日目、男女のシングルス1回戦が行われ、日本勢は錦織圭(日清食品)と奈良くるみ(安藤証券)、日比野菜緒(LuLuLun)が登場。錦織は世界ランク96位のベンジャ…

 アメリカ・ニューヨークで開催中の「全米オープン」(8月29日~9月11日)は2日目、男女のシングルス1回戦が行われ、日本勢は錦織圭(日清食品)と奈良くるみ(安藤証券)、日比野菜緒(LuLuLun)が登場。錦織は世界ランク96位のベンジャミン・ベッカー(ドイツ)を6-1 6-1 3-6 6-3で下し、2年ぶりにここで勝利を挙げた。奈良は世界ランク100位のステファニー・フォーゲレ(スイス)を6-0 7-5で退け、4年連続の初戦突破。しかし日比野はクリスティーナ・ムラデノビッチ(フランス)に4-6 5-7で敗れ、グランドスラム初勝利はまたお預けとなった。

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 世界ランキングは7位だが、4位のロジャー・フェデラー(スイス)の欠場で第6シードとして出場する錦織は、ベッカーを相手にそのシードにふさわしい立ち上がりを見せた。最初の2セットの内容からは、その後、セットを奪われてさらにワンブレークダウンという展開になるとは予想しにくかったが、5セットマッチではどこかで大なり小なり波が立つもの。波をすぐに静めることができるか、より大きな波を招いてしまうのか、その違いを生むのが、経験値であったり精神力であったりするのだろう。

 第1セット、錦織が多彩に散らすショットにベッカーはミスを連発し、ラリーもほとんど続かない状態だった。6-1 6-1で連取した最初の2セットは合計しても50分足らず。しかし、ベッカーは約2年ぶりに対戦する錦織のプレーに体が慣れ始めたのか、錦織いわく「前にどんどん入ってアグレッシブにプレーしてきた」。このまま終われないという35歳の決意が感じられた。

 ベッカーといえば、今なおテニスファンの記憶に残っているのが10年前の全米オープン。それを最後に引退を決めていたアンドレ・アガシ(アメリカ)を破り、カリスマ的元王者の最後の対戦相手になったのだった。“なぜ最後がベッカーか”と当時は言われたものだが、それから10年間アップダウンはあったものの、今もトップ100を維持してきたベテランの力をたやすく侮ってはならなかった。

 第3セットの第8ゲーム、錦織はこの試合で初めて握られたブレークポイントをしのぐことができず、セット終盤の嫌なところでブレークを許す。第9ゲームでブレークバックのチャンスはあったが生かせず、セットを与えると、第4セットも第3ゲームでブレークを許す。すぐに追いつくが、第4ゲームは「ほぼ彼がくれたゲーム」とあとで振り返ったように、3つのダブルフォールトをもらってのブレークバックだった。

 これには、スコアをイーブンにした以上の意味があった。ふたたび優勢に立った錦織は第8ゲームでブレークに成功し、そのまま次のゲームで試合を締めくくった。 「苦しい試合でしたけど、プレーの内容はよく、ブレークしてから集中力を上げていけたと思います」

 次の相手は予選上がりの20歳の新鋭、カレン・カチャノフ(ロシア)。ランキングはベッカーと同じ90位台だが、年齢はもちろん、キャリアの中での立ち位置がまったく異なる。その挑戦にはまた違った怖さが潜んでいるのかもしれない。

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 奈良のグランドスラム初戦突破はこれで7大会連続。この全米オープンでは一度も初戦で敗れていない。うれしい記録の更新に加え、「体のどこも痛くない状態で戦えているのがうれしい」と話した。それは、テニスプレーヤーにとって実は稀なことなのだ。

 体の状態がよければ自ずと精神状態も上向きになる。それを証明するような第1セットだった。奈良のテンポのいい正確なショットがおもしろいように決まり、失ゲームはゼロ。「このまま終わらないだろうなとは思っていた」という奈良の覚悟通り、第2セットはシーソーゲームとなり4-4からブレークを許したが、すぐにブレークバックすると、さらに2ゲームを追加した。リードしようがされようが、最初から最後まで強く自信を持って戦えた。

 2回戦の相手は18歳のアナ・コニュ(クロアチア)。両者に共通するグランドラム自己最高成績、4回戦への到達は譲りたくない。 (テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)