ヤクルトの山田哲人内野手が2年連続のトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)達成という史上初の偉業に“王手”をかけている。背中に死球を受けた影響で一時離脱したが、24日の中日戦から1軍に復帰すると、28日までの6試合で22打数7安打…

ヤクルトの山田哲人内野手が2年連続のトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)達成という史上初の偉業に“王手”をかけている。背中に死球を受けた影響で一時離脱したが、24日の中日戦から1軍に復帰すると、28日までの6試合で22打数7安打4打点と早速、チームを牽引。

■400発打者を唸らせる高い能力、「あんな打者は過去にいなかった」

 ヤクルトの山田哲人内野手が2年連続のトリプルスリー(打率3割、30本塁打、30盗塁)達成という史上初の偉業に“王手”をかけている。背中に死球を受けた影響で一時離脱したが、24日の中日戦から1軍に復帰すると、28日までの6試合で22打数7安打4打点と早速、チームを牽引。26日の阪神戦では2盗塁を決めて今季29盗塁として、30盗塁にあと「1」とした。すでに今季33本塁打を放ち、打率も.328と3割台でシーズンを終えることは確実な状況。昨年に続くトリプルスリーはかなり高い確率で達成されるだろう。

 今季は開幕から力の違いを見せつけ、打率、本塁打、打点、盗塁、出塁率の5冠も現実味を帯びていた。しかし、一時離脱の影響で、7月に16本と本塁打を量産したDeNAの筒香(37本)には現在4本差をつけられて2位。打点もトップの広島・新井(91打点)と3差の88打点で2位タイ、打率は巨人・坂本(.345)と.017差の2位となっており、6差で1位の盗塁以外は追う立場となっている。

 ただ、ここから全ての部門でトップを奪い返す可能性は十分にある。ヤクルトは3位DeNAと2.5ゲーム差の4位につけており、山田が本来の力を発揮すれば、逆転のクライマックスシリーズ(CS)進出も十分に可能だ。すでに球史に名を刻んでいる若き打者の凄さはどこにあるのか。

 中日、楽天で活躍し、通算403本塁打を放った野球解説者の山崎武司氏は、「あんな打者は過去にいなかった。バッティング技術がメチャクチャ高い」と絶賛する。特に、決して大きいとは言えない体で本塁打を量産する「技術」に、同じホームランバッターとして凄みを感じるという。

■小柄な体型を補うスイング、「バッティング技術がめちゃくちゃ高い」

「一番はバットのスイングの軌道が大きいよね。(打球が)飛ぶということは、普通のバッターよりも振る軌道が大きいというのが一番。もう1つ、俺とか中村剛也(西武)みたいなホームランバッターと言われる選手との決定的な違いは、確率が高いということ。ヒットとか、ボールの芯に当てて打つ確率が高い。例えば、中村とか外国人バッターは打ち損じでもホームランにしなきゃいけないんだけど、哲人の場合は打ち損じのホームランじゃなくて、自分の形、ナイスバッティングでホームランにするのが強み。どんな形でもね。イコール、バッティング技術がめちゃくちゃ高い。

 簡単に言ったら、俺が現役の時には、打撃練習で柵越えをポンポン打てていた。哲人はあれを試合でやっちゃう。『あ!』とか『抜けた!』とかじゃなくて、自分のバッティング練習でポンポン打っている感覚が(試合でも)常にあるってことだね。普通は、試合になったらああいう(打撃練習のような)バッティングをなかなかさせてもらえない。でも、哲人はあのバッテイングをやれる確率が高い。イコール、技術が半端じゃない」

 山田はプロ野球選手として決して体が大きい方ではない。身長180センチはプロでは平均的で、体重76キロも細身と言える体型だ。ただ、打球の飛距離は他の打者を圧倒している。昨年11月の世界野球「プレミア12」でチームメートとして戦ったソフトバンクの松田宣浩は、「本当に腕が細いんですよ。そんなんで打てるのって言うくらいの体なんですよ。『腕細いやん、テツ』とかいうけど、飛ばすので、体のキレと身体能力が凄いんだなと思って」と感心していたことがある。

 そんな体型を補っているのはスイングの軌道の大きさだと、山崎氏は分析する。そこに、打球を芯で捉える技術の高さが融合しているという。

■山崎氏も驚く「天才的」な打ち方とは…

 そして、山崎氏がさらに感心するのは、山田のインコースをさばく技術だ。これこそが他のホームラン打者と大きな差をつけている部分だと力説する。

「やっぱりインコースのさばきがうまいよね。どっちかというと、ホームランバッターはインコースをさばくのが下手くそなバッターが多い。俺なんかもそうだった。でも、哲人はインコースに(ボールが)来てもクルッと回れる。その打ち方は天才的なものがある。

 アウトコースはみんな打つんや。でも、インコースが打てない。哲人はインコースを打つからね。例えば、去年の日本シリーズの千賀から打ったホームランとかさ。あんなのもクルッと回れるでしょ。普通は回れないから。ああいうところが天才的だよね」

 昨年の日本シリーズ第3戦。山田はソフトバンクの先発・中田から2打席連続本塁打を放つと、1点を追う5回2死一塁の場面では、当時中継ぎだった千賀からも逆転2ランを放った。148キロの内角高めへの直球を完璧に捉えた打球は左翼席へ着弾。1試合での3打席連続本塁打は日本シリーズ史上初だった。この偉業を完成させた一発にこそ、山田哲人の「天才的」な能力が凝縮されていたという。

 もちろん、山田がさらにスペシャルな存在となっているのは“足”があるから。本塁打を打ちながら、ハイアベレージを残す選手はいたが、本塁打を量産しながら盗塁でも球界トップクラスの数字を積み上げるプレーヤーはいなかった。昨年の本塁打王と盗塁王の同時獲得は、史上初の快挙だっただけに、山崎氏も「あんな選手は過去にいなかった。足が速くてホームラン王なんて初めての話だから。今年は3冠とは言わず、長打率とか、安打数とか、あらゆる部門で1位になってほしいね」と期待を寄せる。

 まだ24歳。来年以降も毎年、歴史を塗り替えるような活躍を続ける可能性は高い。山田はいったいどこまで進化するのか。末恐ろしい選手であることは確かだ。