主将としてチームを引っ張ったSHの斎藤直人主将 まさに「信は力なり」である。RWC(ラグビーワールドカップ)でも大学ラグビーでも、チームの要諦(ようてい)はそこにある。関東大学対抗戦の全勝対決。早大がロスタイム、信頼のつなぎからSH(ス…



主将としてチームを引っ張ったSHの斎藤直人主将

 まさに「信は力なり」である。RWC(ラグビーワールドカップ)でも大学ラグビーでも、チームの要諦(ようてい)はそこにある。関東大学対抗戦の全勝対決。早大がロスタイム、信頼のつなぎからSH(スクラムハーフ)斎藤直人主将の劇的トライで帝京大に34‐32と逆転勝ちし、開幕5連勝を飾った。

「もう必死でした」。

 記者会見。アカクロジャージ姿の斎藤主将は逆転トライの場面を笑顔で振り返り、”みんなのトライ”と強調した。氷のビニール袋で巻かれた右足首が痛々しい。
 
「最後のトライは自分が(ボールを)グラウンディングしたというだけで、チーム全員ががんばってくれたお陰だと思います。全員で地道にコツコツと戦い続けようという話をしていて…。みんなで逆転できたことが、すごくうれしいです」

 10日、快晴下の東京・秩父宮ラグビー場。ロスタイムは「4分」だった。電光掲示板の数字は「43:08」。点差は3点。右中間の敵陣ゴール前10m地点の早大ボールのスクラムだった。ほぼ満員の2万人余のスタンドから、「ワセダコール」と手拍子が沸き起こった。

 斎藤の述懐。

「絶対、楽に獲ろうとしないようにしようと。(トライを)獲り切る自信はありましたけど、焦らず、フェーズを重ねて、地道に、地道に、ゲインしていこうと考えていました」

 まずはフォワード(FW)が、ガチッとスクラムを組んで、いいボールを出した。準備していたサインプレーを仕掛ける。SH斎藤が左オープンのCTB(センター)中西亮太朗へ。ラックから斎藤が右に持ち出し、途中から交代で入ったWTB(ウイング)梅津友喜にクロスパス。今度はラックから斎藤が右に鋭く長いパスを放り、SO(スタンドオフ)岸岡智樹の前にいたPR(プロップ)小林賢太がボールを捕って、タテに出た。

 ラック。斎藤が素早く右オープンのFB(フルバック)河瀬諒介につなぎ、内側のNo.8(ナンバーエイト)丸尾崇真に渡し、またラック。右サイドの甘いディフェンスを逃さず、斎藤がインゴールにダイブした。「チームの思いが彼(斎藤)に乗った」(相良南海夫監督)トライだった。
 
 斎藤が思い出す。

「岸岡に(パスを)呼ばれていて、獲り切れると思ったんですけど、なぜか小林(賢太)君にボールが渡ってしまって…。でも、流れ的にもいけると思って。最後は前が空いていたので、自分で飛び込みました」

 早大は昨季、大学選手権準決勝で明大に競り負けた。ここ一番でトライを獲り切ることができなかった。今季のチームもディフェンスからチーム作りがなされたが、タレントが並ぶバックスの攻撃力は大学随一だろう。練習では「仕留める」ことを意識してきた。

 この試合、ラスト10分、帝京大にトライを奪われ、8点をリードされた。インゴールでの円陣で、斎藤主将はこう、チームに声をかけた。「攻め急ぐ必要はない。一歩一歩、まずは1本(トライを)獲って、ラストチャンスにかけよう」と。

 ラスト5分、早大はラインアウトからモールを押し込んで、1トライを返した。左隅からのゴールキックは外れ、3点差のままとなった。これで逆転勝利のためにはもう、トライを奪うしかないと意思統一できた。

 攻めにリズムが生まれ、最後の最後に執念の逆転トライ。2010年以降、対抗戦、大学選手権などの公式戦で敗れてきた帝京大についに雪辱した。

 斎藤主将は向上心のかたまりだ。素材も文句なしで、1年生からレギュラーのアカクロジャージを着てきた。昨年は日本代表候補にも学生で唯一、名前を連ねた。今年2月に始動したワールドカップトレーニングスコッドキャンプのメンバーからは漏れたが、その練習にひとり、見学にきてもいた。

 出身の神奈川・桐蔭学園高校の先輩で、RWCで大活躍したWTB松島幸太朗が先日、斎藤をこう、評していた。

 「すごくハングリー精神がありますよね。ハーフ(SH)もすごくいい選手が増えているので、(日本代表の)レギュラー争いがオモシロくなるんじゃないかと思います」

 その言葉を伝えると、斎藤は「うれしいです」と顔をくしゃくしゃにした。

 斎藤は春に腰を痛めたこともあり、RWCメンバーには選ばれなかった。日本代表が躍進した試合はスタジアム観戦したほか、ほとんどの試合をテレビ観戦した。「まあ、悔しさはありました」と正直に漏らす。

「恥ずかしいですけど、本気で(RWC日本代表を)狙ってはいたんです。4年後(RWCフランス大会)、絶対、出場したい気持ちが強まりました」

 とくに南アフリカ代表のSHファフ・デクラーク(172cm)、ハーシェル・ヤンチース(167cm)ら小柄な選手の活躍に刺激を受けたようで、165cm、75kgの斎藤は「サイズは言い訳にはならない。自分も努力次第で、十分(世界で)戦えるんだと思った」と言う。

「(日本代表の)みなさんが言う、”信じ続けること”がすごく大事だなと感じましたし、自分たちを信じるためにも並大抵ではない努力が必要なんだなと思いました」

 仲間を信じ、己を信じ、勝利を信じる。斎藤はキャプテンとして日々、そのために鍛錬を積んでいる。パスのスキルが上がったからだろう、プレー選択の判断がより的確になっている。ナチュラルにプレーできている。

 モットーが『その時その時、100%を出し切ること、出し切るために準備を怠らないこと』。謙虚さを大事にし、選手やスタッフと話をしたり、歴代の早大主将からアドバイスをもらったりもしている。
 
「歴代のキャプテンの方は対抗戦の間、悩むことが多いと言われていたんですけど、今のところは(悩みが)ないので、それでいいのかなって。ハハハ」

 ゴールはここじゃない。目標は大学選手権の覇権奪回である。斎藤は語気を強めた。

「あくまで目標は日本一です。次は早慶戦。まずは自分たちのやるべきことを見つめ直して、その後に慶応の分析をして、準備していきたいと思います」

 勝ち切れたことでチームの自信と信頼が強まったことだろう。23日の早慶戦、12月1日の早明戦、そして全国大学選手権へ。一戦一戦、一歩一歩。斎藤がリードする早大が11年ぶりの大学日本一へ、突き進んでいく。