巨人・坂本勇人が好調を維持し、首位打者獲得も視界に入ってきた。本塁打では2010年の31本、打率では2012年の.311をピークにここ3年は打撃成績を落としており、停滞感は否めなかったが、今季はそれを払拭し、頼りがいのある主軸として活躍して…
巨人・坂本勇人が好調を維持し、首位打者獲得も視界に入ってきた。本塁打では2010年の31本、打率では2012年の.311をピークにここ3年は打撃成績を落としており、停滞感は否めなかったが、今季はそれを払拭し、頼りがいのある主軸として活躍している。
■より「強く」「遠くへ」― 坂本の好調を支える“変化”とは
巨人・坂本勇人が好調を維持し、首位打者獲得も視界に入ってきた。本塁打では2010年の31本、打率では2012年の.311をピークにここ3年は打撃成績を落としており、停滞感は否めなかったが、今季はそれを払拭し、頼りがいのある主軸として活躍している。
ある報道によると、昨季216安打を放ったヒットメーカー、西武の秋山翔吾からアドバイスを受け、スイングの軌道をアッパー気味に調整したとも伝えられている。そのあたりが好調に影響しているのだろうか? 坂本の打撃データを多角的に分析し、好調の理由を探った。
過去3年間の坂本勇人(巨人)のフライ打球に関するデータ
まず、今季の坂本の大きな変化としてうかがえるのが、フライ打球の質的な変化だった。3つの数字を挙げたい。
昨季までの坂本のフライは、内野へのポップフライが多かったが、それが減少したとみられる。すべてのフライ(※1)のうち、内野に飛んだフライの割合を示す内野フライ%(※2)は、昨季の11.7%から5.9%へと半減した。
さらに、外野に飛んだフライ(※3)がアウトになった割合、外野フライアウト%は73.9%から70.6%に減少。つまり、より多くの外野フライがヒットになっている。また、全てのフライ打球に占める本塁打の割合(HR/FB:Home Run to Fly Ball rate)を、6.1%から11.9%へと倍増させてもいる。
この3つの数字の変化から推測できるのは、坂本のフライが「強く」「遠くへ」飛んでいるということである。
■来年以降の活躍も期待できることを示唆する“兆し”とは
3つの数字が示唆する坂本の変化を、打球の分布図からも見てみよう。
昨季(2015年)と今季(2016年)、坂本が放ったゴロを除く全飛球(フライ+ライナー)の「落下地点」「滞空時間」「結果」を図示したのが2つの図だ。
今季の分布図はシーズン途中のものであり、打球の合計数が異なるので少しわかりにくいが、赤い×印で示した滞空時間4.5秒以上をかけて捕球された飛球などが、打席に近い位置で減少している様子が見て取れる。
「滞空時間3秒以上の飛球(赤とオレンジのプロット)」について見たとき、図でグレーの地色を敷いたゾーンに飛んだ、「内野のやや後方までのゾーンに飛んだ」ものは、昨季は全体の31.1%、今季は17.6%と減少としている。内野に上がるポップフライは、間違いなく減っているようだ。
また遠くに飛ばしているだけでなく、飛球が安打になるケースも増えていた。昨季、滞空時間3秒以上を記録した飛球は196本あり、そのうち安打になったのは39本(19.9%)。今季は139本のうち45本(32.4%)が安打になっている。
坂本の飛球が「強く」「遠くへ」飛んでいることは、打球の分布状況からも見て取ることができる。
もちろん、このデータだけでは「内野フライにしてしまっていた球を、外野にまで運ぶことで安打が増えた」と言い切ることはできない。「内野フライの減少」と「外野へのフライの増加」という結果の互いの関係性までは確認できないからだ。
それでも、ポップフライが減り、外野への飛球が増えれば、安打、特に長打が生み出される可能性は高くなることが多く、悪くない傾向といえる。坂本の今季の好成績が1年限りのものに終わらず、来年以降も継続しそうであることを示唆する、ひとつの兆候ではある。
■内角への強さはそのままに外角への対応も向上の兆し、打者としてのピーク近づく
最後に、投手の投球に対する坂本の対応も見ておこう。図は投手視点のもので、1枚目がこの3年間のゾーン別の打率、2枚目が同じくISO(Isolated Power)を示したものだ。ISOは長打率から打率を引いた数字で、長打をどれだけ打てているかをつかむためのものだ。
坂本が内角球に強い印象はあると思うが、全般的にその通りの結果が出ている。内角に寄れば寄るほどに長打が生まれており、ボール球すらも長打にしている。このあたりの傾向は、今季何かが大きく変わっている様子はあまりないようだ。
ただ、打率の図からは、外角も含めやや広いゾーンのボールを安打にできている様子が多少うかがえる。ISOの図からも、これまではあまり見られなかった、外角低めの球を打って長打が出ていることがわかる。ISOが0.139を示している外角低めのストライクを、今季はすでに5回二塁打にしている。昨季は年間で1回、2014年は2回だったことを考えると、うまく打てている様子はある。
得意な内角にボールが来なくても、安打を打つ力をつけつつあることに加え、ボールゾーンスイング率(ボール球をスイングしにいく割合)を2014年から29.4%→28.0%→26.1%と年々低下させ、それにともない四球の数も増やしている。フライの質の向上の件とも合わせ、対戦相手からすればかなり攻略が難しい打者となってきている。打者としてのピークが近づいてきているといってよさそうだ。
※1 「すべてのフライ」とは、全打球をゴロ、フライ、ライナーに分けたうちのフライ打球を指す。フライとライナーに関しては、バットに当たってから捕球、もしくはグラウンドに落ちるまでの滞空時間を用いて分別している。
※2 ここでいう内野フライは、「内野手が取ったフライ」ではない。本塁から外野フェンスまでを8等分にゾーン分けし、そのうち本塁に近い3つのゾーンで捕球されたか、グラウンドに落ちたフライ打球を「内野フライ」と規定している。
※3 外野フライは本塁から外野フェンスまでを8等分にゾーン分けし、そのうちの遠いほうからの5つのゾーンに飛んだフライ打球を意味する。
【了】
DELTA●文 text by DELTA
DELTA
2011年設立。セイバーメトリクスを用いた分析を得意とするアナリストによる組織。書籍『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート1~4』(水曜社刊)、電子書籍『セイバーメトリクス・マガジン1・2』(DELTA刊)、メールマガジン『Delta’s Weekly Report』などを通じ野球界への提言を行っている。最新刊『セイバーメトリクス・リポート5を2016年5月25日に発売。集計・算出したスタッツなどを公開する『1.02 – DELTA Inc.』もシーズン開幕より稼働中。