ダルビッシュが投げるボールの「質」については、右肘負傷前と明確な違いが見て取れるという。MLB公式サイトのコラムニスト、マイク・ペトリエロ氏がフォーシーム(直球)のスピン量や球速がアップしていることに着目。レンジャーズの球団公式サイトに特集…

ダルビッシュが投げるボールの「質」については、右肘負傷前と明確な違いが見て取れるという。MLB公式サイトのコラムニスト、マイク・ペトリエロ氏がフォーシーム(直球)のスピン量や球速がアップしていることに着目。レンジャーズの球団公式サイトに特集記事を掲載した。

■米記者が検証、進化するダルビッシュのフォーシーム

 レンジャーズのダルビッシュ有投手は、右肘靭帯再建手術(通称トミー・ジョン手術)から復帰した今季、11試合登板で4勝3敗、防御率2.91とまずまずの成績を残している。右肩違和感での一時離脱もあったが、無事に復帰。トミー・ジョン手術は復帰から2年目以降により力を発揮できるようになるともされていることを考えれば、上々の再スタートを切ったと言えるだろう。

 一方で、ダルビッシュが投げるボールの「質」については、右肘負傷前と明確な違いが見て取れるという。MLB公式サイトのコラムニスト、マイク・ペトリエロ氏がフォーシーム(直球)のスピン量や球速がアップしていることに着目。レンジャーズの球団公式サイトに特集記事を掲載した。元々、直球にも定評のある右腕だが、MLBで最大の武器となっていたのは、スライダーやカーブを初めとした多彩な変化球だったと言える。しかし、右肘手術後にストイックにリバビリに励み、肉体改造に取り組んで復帰してからは、強烈な直球でメジャーの猛者を抑え込んでいるという。

「2015年、野球ファンはダルビッシュの不在を嘆いた。なぜなら彼は健康であれば興味深く支配的な投手の一人であるからだ」

 こんな一文から始まる記事では、ダルビッシュの直球が投球全体の40%を占めていることを紹介した上で、スピン量が「同程度の直球を投じている199投手の内、8番目に相当する」と伝えている。

 記事によると、MLBの投手が投じる直球の1分間の回転数の平均は、2263回だという。今季、350球以上を投げている投手では、ジャスティン・バーランダー(タイガース)の2561回転がトップで、マックス・シャーザー(ナショナルズ)の2555回転、アロルディス・チャップマン(カブス)の2547回転と速球派の名前が続き、8番目にダルビッシュが2485回転で登場する。

■空振り奪取率は2位の数値、「感銘を受けずにはいられない」

「確かに回転量が全てではない。しかし、高回転の直球は奪三振やフライを打たせることに関連性があるとされている。回転によって重力に逆らい、打者の予想を欺くことにつながる」

 回転数が多い直球は、伸びがあるとされる。上原浩治(レッドソックス)は88、89マイル(約142、143キロ)の直球でメジャーの打者から空振りを奪うが、地元紙「ボストン・グローブ」は以前、その理由について分析する記事を掲載。ある分析家の説明として、上原の直球は1分間で2700回転を記録していると伝えていた。上原はこのランキングに入ってもダントツの回転数を誇ることになるが、ダルビッシュも直球の質を向上させているようだ。

 特集ではさらに、「ダルビッシュが今季、直球での空振り奪取率で上位に名を連ねていることには感銘を受けずにはいられないだろう」と言及。200球以上を投げた投手の中で、ダルビッシュの直球による空振り奪取率は2位の31.2%を記録しているという。1位はリッチ・ヒル(ドジャース)の34.7%、3位はデビッド・プライス(レッドソックス)の30.3%となっている。いかにキレのあるボールを投げているかを示す数字だと言えるだろう。

 また、ダルビッシュの直球の平均球速が手術後に上がっていることは、すでに複数のメディアで指摘されているが、この特集でも球速アップが空振りを奪う上でもう1つの重要な要素になっていると分析。過去3シーズンは、12、13年が91.5マイル(約147.3キロ)、14年が91.2キロ(約146.8キロ)であったのに対して、今季は93.1マイル(約149.9キロ)と3キロほどアップしているそうだ。

 もちろん、いい直球を持っていても、使わなければ意味がない。記事では、ダルビッシュの直球の割合が増加していることにも注目。復帰直後の5月には28%だったが、8月は45%になっており、直球主体の投球を引き出しているのは、トレードで加入したジョナサン・ルクロイだと伝えている。

■直球を生かす新女房役の存在、変化球もさらに効果的、「全く公平ではない」

「ダルビッシュはルクロイへの多大な信頼をメディアに語っており、ルクロイもダルビッシュに対してシンプルに取り組むことの重要性を語っている。その結果、シーズンが進むに連れ、ダルビッシュが直球を投じる機会は増加していき、いい結果を生んでいる。直球の被打率は.190しかない」

 直球の質が上がれば、変化球はさらに効果的になる。まさに「鬼に金棒」だ。地区優勝が確実な今季も、球団史上初の世界一を目指す重要なシーズンとなるが、手術明けのダルビッシュにとってはまだまだ「助走期間」とも言える。実際に、投球全体としては苦しむ試合も多く、本領を発揮するのはこれからとなりそうだ。それでも、1つ1つのボールの質自体はすでに見るものに強烈な印象を植え付けており、特集は以下の文章で締めくくられている。

「おそらくこれは7種類の変化球を操ることで有名な投手からは期待していなかった事実だろう。しかし、これだけ素晴らしく、高回転、そして手術前よりも球威のある直球があれば、それらも必要ないのかもしれない。いまだに規格外のスライダーや効果的なカーブも操れる。全く公平なものではない」

 リハビリ期間中には肉体改造に取り組み、進化を遂げて戻ってきたダルビッシュ。すべての要素が噛み合い始めれば、とんでもないピッチングを見せるかもしれない。