「今の状況を見ると、どれだけ大きな嵐だったのかがわかる」。マーリンズの球団関係者は笑いながら首を振った。イチローがメジャー通算3000安打を達成した後、日米の大勢の報道陣が去り、マーリンズは静けさを取り戻している。■「大きな嵐」去ったマイア…

「今の状況を見ると、どれだけ大きな嵐だったのかがわかる」。マーリンズの球団関係者は笑いながら首を振った。イチローがメジャー通算3000安打を達成した後、日米の大勢の報道陣が去り、マーリンズは静けさを取り戻している。

■「大きな嵐」去ったマイアミ、本当の勝負はここから

「今の状況を見ると、どれだけ大きな嵐だったのかがわかる」。マーリンズの球団関係者は笑いながら首を振った。イチローがメジャー通算3000安打を達成した後、日米の大勢の報道陣が去り、マーリンズは静けさを取り戻している。

 イチローの偉業は多くの球団関係者やチームメート、そしてマイアミのファンに興奮をもたらした。だが、2003年以来のプレーオフ進出を目指すチームにとっての本当の戦いはこれからだ。28日(日本時間29日)時点でナ・リーグ東地区2位につけているが、首位ナショナルズが独走状態のため、ワイルドカードでの出場を狙うことになる。

 主砲ジャンカルロ・スタントン外野手が今月14日に足の付け根を痛めたため故障者リスト入りし、今季中の復帰が微妙な状況。これにより、イチローの出場機会が一気に増えていたのだが、チームは24日の試合後、ブレーブスから右打者のジェフ・フランコア外野手をトレードで獲得。マッティングリー監督は2人を併用して起用するプランを明かしており、イチローの出場機会が減る可能性が高くなった。

 だが、それは42歳のベテランにとって悪いことばかりではなさそうだ。4番目の外野手として迎えた今季、前半戦で打率3割3分5厘をマークし、オールスター出場を推薦する声が出るほど復活を印象付けていた。だが、8月は月間打率1割9分6厘とバットが湿っている。後半戦では3試合以上スタメンを外れた直後の試合で必ず安打を放っており、適度に休ませながらフレッシュな状態を保った方が好打を期待できそうだ。右翼が本職のフランコアは左に強いことから、左投手相手にベンチを温める機会が増えることが予想される。

■チームの痛手となった主砲離脱、指揮官が掲げる野球とは

 チーム最多の25本塁打を放っているスタントンの離脱は確かに痛い。だが、指揮官の目指す野球を実現する上で、三振が多く粗さが目立っていた主砲の離脱は良いきっかけになるかもしれない。

 25日まで17試合続けて3点差以内の接戦となり、8勝9敗と負け越した。マッティングリー監督は「得点力不足は今シーズンの課題で、接戦で勝てていない原因。若いチームにありがちなこと。誰もがヒーローになろうと力んでしまう」と分析。今後の戦い方として、ジャイアンツやロイヤルズといった近年のワールドシリーズ覇者をお手本に挙げる。

「ホームランを打った選手がヒーローになるとは限らない。四球を選び、ヒットでつないで、進塁打で走者を進めるといった打撃をする打者が我々に必要なヒーローだ」

 球団史上2度のワールドシリーズ制覇に貢献しているOBで球団アドバイザーのジェフ・コーナイン氏もプレーオフ進出が懸かる終盤につなぎの野球への転換の必要性を説き、百戦錬磨のベテランが果たす役割は大きいと見ている。

■「イチローのような経験豊富なベテランは頼りになる」

「この時期は春先と同じ打撃をしていてはいけない。走者を進めたり、待球したり、状況に応じた打撃が必要とされる。スタントンという打線の柱を失った今、つなぐ意識が重要となる」と分析。その中で「イチローのような経験豊富なベテランは頼りになる」と話す。

 23日のロイヤルズ戦でイチローはその言葉を実践している。4回1死一塁で、1ボールから外寄りの球を強引に引っ張り、二塁前に転がした。若干打球が二塁ベース寄りに飛んだため、走者を進めることはできなかったが、ベテランが手本を示すことで、意識はより大きくなる。26日のパドレス戦でも9回1死二塁で冷静に四球を選び、サヨナラ勝ちにつなげた。

 コーナイン氏は「マーリンズは実績の少ない若い選手が多い。イチローやプラードが常々しっかりと手本を示していることはチームに大きい」と期待を寄せる。

 ワールドシリーズには縁のないイチローだが、2001年と2012年に出場したポストシーズンでは走攻守に活躍。通算打率3割4分6厘をマークしている。日米通算安打でのピート・ローズ超えにメジャー通算3000安打到達と、イチローの輝かしいキャリアに改めてスポットライトがあたったシーズン。10月の短期決戦で再び、51番がプレーすることになればレジェンドのワールドシリーズへの挑戦として注目を集めるはず。嵐の過ぎ去った後の南フロリダを引き続き見守りたい。

伊武弘多●文 text by kouta Ibu