レッドブル・ホンダが1カ月半ぶりに表彰台に上がった。 予選はポールポジションから0.067秒差の3位。決勝はトップから5.002秒差の3位。その結果だけを見れば、シーズン後半戦に低迷していたレッドブル・ホンダの速さが復活したようにも思…

 レッドブル・ホンダが1カ月半ぶりに表彰台に上がった。

 予選はポールポジションから0.067秒差の3位。決勝はトップから5.002秒差の3位。その結果だけを見れば、シーズン後半戦に低迷していたレッドブル・ホンダの速さが復活したようにも思えた。



レッドブル・ホンダの速さが復活したように思えたのだが......

 しかし、チームの見方は違った。

 ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは表彰台のあとにもかかわらず、厳しい表情でこう述べた。

「対メルセデスAMGで見れば、今日は完全についていけない状況でした。1ストップと2ストップに分けてきた2台のメルセデスAMGに対して、我々は勝ったボッタスと同じ2ストップ作戦でしたが、2台ともに前に行かれてしまった。戦略的な問題というより、実力の差による結果かなと思います」

 メルセデスAMG勢と接戦を演じているように見えたが、実際は違った。

 早々にタイヤがタレて13周目にピットインしたマックス・フェルスタッペンに対し、メルセデスAMGは首位バルテリ・ボッタスが戦略を変更してピットインし、確実にフェルスタッペンの前を抑える作戦に出た。

 そして、3位のルイス・ハミルトンは1ストップ作戦のまま首位に浮上して走り続け、最終的に残り4周でボッタスが逆転して優勝。しかし後方のフェルスタッペンはしっかりと抑え切って、メルセデスAMGはワンツーフィニッシュで締めくくった。

 つまり、レッドブル・ホンダは同じ2ストップ作戦のメルセデスAMGに敗れ、1ストップ作戦のメルセデスAMGにも負けた。これは戦略ではなく、純粋な速さでの敗北だ。

「バックストレートで黄旗が出ていたせいでDRS(※)が使えなかったからね。あれがなければ(ハミルトンを抜いて)2位になれたと思う」

※DRS=Drag Reduction Systemの略。追い抜きをしやすくなるドラッグ削減システム/ダウンフォース抑制システム。

 フェルスタッペンはそう語ったが、メルセデスAMGはそれも織り込んだうえで最後の数周を戦っていた。ターン12で追い抜きが禁止されているのであれば、そこでエネルギーを使う必要はなく、追い抜きの可能性がわずかに残るターン1やターン11に全エネルギーを集中すればいいからだ。ターン12で抜けそうに思えたのは、メルセデスAMGがあえてそうしていたからにすぎない。

 優勝したボッタスとの5.002秒という差も、ボッタスが最後まで本気でフルプッシュすればどうなっていたのかわからない。少なくとも、ハードタイヤに交換したあとのフェルスタッペンは、1周1秒近く速いペースで逃げていくボッタスに「彼は速い。僕はこのペースでは走れないよ」と無線で嘆いていた。

 ハミルトンが「セッション後には頭痛がして横にならなければならなかった」というほどひどくバンピーだった今年のサーキット・オブ・ジ・アメリカズで、もともと脚回りが硬いメルセデスAMGはマシンが跳ね回って苦戦した。それを金曜夜の間に実走データをもとに修正して土曜日に速さを取り戻したが、バンプへの対応のために普段以上に妥協を強いられたセットアップだったことも確かだ。

 一方のレッドブル・ホンダは、イニシャルセットアップから大きく方向性を変えることなく好調に走ることができた。もともとバンプや縁石の乗り越えに強く、しなやかな脚回りを持っており、初日からスムーズにバンプを乗り越えていた。それが、サーキット・オブ・ジ・アメリカズでの好走につながったのだ。

 そんな背景もあって、予選では0.067秒差まで迫ったが、決勝では差が開いてしまった。これは、レッドブル・ホンダが抱え続けているタイヤに優しくないマシン特性のせいでもあった。

 レッドブル・ホンダはメルセデスAMGやフェラーリに比べて、タイヤの性能低下が進みやすい。それが決勝での苦戦につながっている。それも含めて、アメリカGPではメルセデスAMG勢に戦略でも純粋な速さでも完敗を喫したというわけだ。

「保たないものを保つようにするために(タイヤを労りながら走って)マネジメントをしていますが、マネジメントすればいいというものでもありません。それは基本的にマシンがもともと持っているキャラクターですから。今日のメルセデスAMGのタイムを見ても、決していいとは言えませんよね。でも、それがすべてひっくるめた実力です。今日はその実力で負けたということです」(田辺テクニカルディレクター)



アメリカGPでのフェルスタッペンは3位に入るのが精一杯

 レースペースでメルセデスAMG勢に及ばなかったことは、フェルスタッペン自身も認めている。

 ただし、フェルスタッペンはマシンにダメージを負っていたため、それがレースにどれだけ影響したかはわからない。フェルスタッペン自身はマシン挙動に違和感を持ち、それをなだめすかしながらの走行だったと言う。

「レース序盤はとても変な感じのオーバーステアがきつくて苦しんだ。(ターン1でのボッタスとの接触で)小さなパーツを失っていたので、チームからはフロントウイングのダメージのせいだと言われたけど、レース後に見てみるとリアタイヤ前方のフロアの大きなパーツも失っていたから、その影響はかなり大きかったね。

 いつ壊れたのかはわからないけど、レース序盤のかなり早い段階からマシンの挙動は変だった。今までに経験したことのないような挙動だったんだ。ちょっと不運だったし、それがなければ今日はもっと力強いレースができたはずだよ」

 オースティンは風が強く、突風が吹いてマシンがあおられる場面もあった。シーズン序盤のレッドブルは風で空力性能が不安定になりがちだったが、強風のコンディション下でそのセンシティブさが改善できていたとクリスチャン・ホーナー代表は説明した。

「シーズン序盤の我々の空力パッケージは風の影響をひどく受けてしまっていたが、それを大幅に改善した効果が表われたと思う。それが今週末を通してコンペティティブだった理由のひとつだ。予選でもターン1でロックアップがなければ、ポールポジションを獲得できていたはずだよ」

 アメリカGPの土曜の朝にFIAから出されたテクニカルディレクティブ(技術指示書)によって、燃料流量センサーの隙間を突いた燃料流量増大が違法と明確化された。その影響により、フェラーリは速さを失ったと言われた。

 しかし予選では、依然としてポールポジション争いに加わった。ところが、燃料総量が決められていてトリックが使えないはずの決勝では、サスペンショントラブルとタイヤ温度をうまく維持できないという問題で失速した。

 ただし今回のケースは、このサーキット特有の条件下での話だ。フェラーリの予選一発の速さについては、まだまだトリックがあると言われている。今後のレースでもフェラーリが沈んだままだとは考えにくい。

「三つ巴に見えましたけど、『近いところで戦えるようになってきた』というくらいで、三つ巴とまでは言えないと思います。結局のところ、今回の予選でもフェラーリとメルセデスAMGに次いでのポジションという位置関係は変わっていませんから。(タイムが僅差になったのは)勢力図全体の差が小さかっただけで、トップに近づいたという話では全然ありません」(田辺テクニカルディレクター)

 メキシコGP、アメリカGPと特殊な条件下でのレースが続き、そこでレッドブル・ホンダの速さが復活した。ただ、それが特殊環境によるものだったのか、それともチームの進歩によるものだったのか――。残り2戦で彼らがどのような戦いをするのかを見てみないと、それを断言することは難しい。