あぁ、夢のような楕円球の祭典が終わった。日本初開催のラグビーワールドカップ(RWC)は、大型台風の影響で48試合中3試合が中止となったが、日本代表の活躍もあって、国中を沸かせた。ワールドラグビー(WR)のビル・ボーモント会長は総括会見…

 あぁ、夢のような楕円球の祭典が終わった。日本初開催のラグビーワールドカップ(RWC)は、大型台風の影響で48試合中3試合が中止となったが、日本代表の活躍もあって、国中を沸かせた。ワールドラグビー(WR)のビル・ボーモント会長は総括会見で「もっとも偉大なワールドカップとして記憶に残る大会となった」と評価した。


東京・有楽町の

「ファンゾーン」で日本代表を応援して盛り上がる人たち

【多様性とワンチーム】

 大会組織委員会が目標に掲げていた「全会場満員」はほぼ達成された。観客動員数が170万4443人(台風による中止の3試合を除く)で、1試合平均3万7877人だった。チケットは販売した約185・3万枚のうち約184万枚が売れた。実に99・3%だ。

 横浜国際総合競技場での決勝では7万103人の観客を記録し、2002年サッカーワールドカップ決勝を上回った。大観衆の中、11の公用語を持つ多民族国家の南アフリカ代表が結束し、イングランド代表を圧倒し、3度目の頂点に輝いた。

 同国初の黒人主将、FL(フランカー)のシヤ・コリシがダイバシティ―(多様性)に富む南ア代表をリードした。貧困地帯出身の28歳は勝利後、言った。「違うバックグラウンドの選手たちが団結すれば、すばらしいことが達成できることを証明できた」

 ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)が率いた日本代表のスローガンもまた、『ワンチーム』だった。選手31人中15人が海外出身という「多国籍チーム」。ニュージーランド出身のリーチ マイケル主将は「君が代」をみんなで歌う練習をしたり、広島や長崎へ原爆を投下された日本の歴史などを学んだりすることで、チームの融合と覚悟を促した。

 日本代表はティア1(伝統ある世界10チームのトップグループ)のアイルランド、スコットランドも破り、1次リーグ4戦全勝で初の決勝トーナメント(ベスト8)進出を果たした。ティア1以外の、ティア2(世界の第2グループ)で決勝トーナメント進出は2007年大会のフィジー以来だった。

 日本は準々決勝で南アに完敗した。リーチ主将は一夜明け会見でこう、言った。

「ジェイミーがワンチームを作り上げた。この強さを継続することが大事」

 リーダーグループの一人、SH(スクラムハーフ)の流大はベスト8入りの理由を聞かれ、「ワンチームになれたことです」と言い切った。

【ティア1との対戦の確保が必要】

 日本の躍進はもちろん、いい素材、ハードワーク(猛練習)、戦術、プランの徹底、遂行力もあったからだ。チーム強化においては、スーパーラグビー(SR)へのサンウルブズとしての参入、強豪国とのマッチメイク、長期合宿(今年は約240日)も効果的だった。

 日本は2016年6月のスコットランド戦から今年9月の南ア戦までにティア1全10チームと対戦してきた。やはり実戦経験は「財産」となる。ならば今後の代表強化にも、ティア1とのマッチメイクはマストだろう。

 日本代表は来年、7月に日本でイングランドと、11月には欧州遠征でスコットランド、アイルランドと対戦することになっている。

 継続的な機会確保としては、来年で撤退するサンウルブズのSR復帰や、北半球の欧州六カ国対抗(英4協会とフランス、イタリア)、南半球のザ・ラグビー・チャンピオンシップ(南ア、豪州、ニュージーランド、アルゼンチンの各国代表のリーグ戦)に参入の話題も飛び交う。

 日本ラグビー協会の森重隆会長は、アルゼンチンが2007年RWCで3位に躍進した後にザ・ラグビー・チャンピオンシップに加入したことに触れ、こう説明した。

「次の2023年(RWCフランス大会)にはもっと十分な成績をとって、ザ・チャンピオンシップに申し出たいと思っています」

 一方、ワールドラグビー(WR)もまた、日本だけでなく、他のティア2の国々との対戦の機会を増やしたい意向を示している。ラグビーの世界展開を考えた場合、ティア1とティア2の実力差解消により好ゲームが増え、ラグビー普及、市場拡大に寄与するからだ。

 WRのブレット・ゴスパーCEOは「(今大会の)ティア1とティア2の得点差が30・5と下がってきた」と歓迎した。ただ、この数字は日本代表の健闘がそのまま反映した結果だ。ここは、日本以外のティア2の国々にも強豪チームとの交流機会を増やす支援をしていくべきだろう。

【今後へのレガシー】

 ラグビー人気は予想をはるかに超え、あちらこちらで沸騰した。RWC前にあったラグビーの人気テレビドラマ『ノーサイド・ゲーム』も無縁ではなかろう。日本代表の快進撃が始まると、ルールを知らない”にわかファン”も急速に増えてきた。喜ばしいことだ。

 試合時のスタジアムはどこもほぼ満員、テレビ視聴率も急上昇し、日本代表の第4戦のスコットランド戦は平均で39・2%、瞬間最高で53・7%に跳ね上がった(いずれも関東地区、ビデオリサーチ調べ)。準々決勝の南ア戦は平均で41・6%にまで上昇した。

 これまで日本代表戦といえば数%だったことを思えば、もう奇跡としかいいようがない。外国チーム同士の対戦となった準決勝もそれぞれ、平均視聴率は20%近い高い数字を、そして決勝戦ではついに20%超えとなった。

 大会組織委員会によると、全国16カ所に設置したチケットなしでも楽しめる「ファンゾーン」の来場者は約113万7千人だった。訪日客は約40万人と推定され、経済効果は4370億円で前回RWCの23億ポンド(約3220億円)を超えたという。

 大会組織委の嶋津昭事務総長は「品位、情熱、結束、規律、尊重の、ラグビーが持つ価値が日本人の心をわしづかみにした」と語り、12の試合会場、55カ所の公認キャンプ地での交流も大会を盛り上げたと強調した。

 大会のレガシーを聞かれると、日本協会の森会長は「ラグビーの良さをみなさんに知ってもらったこと」と言った。

「日本ラグビーにとっては、(今大会が)新たなスタートとなる。この盛り上がりをどうやってつなげていくのかがラグビー協会の仕事だと思っている。一層の強化はもちろん、アジア全域でのラグビー普及・育成を先頭に立って行ない、競技人口を増やし、芝生のグラウンドを増やすなどしていかなといけない」

 日本協会としては近く、プロリーグ構想を打ち出す見通しだ。肝心なのは目的の明確化と、スポンサーなどの財源確保、現実的な仕組みづくりだろう。加えて、国内ラグビーの年間スケジュールもどうするのかをきっちり決めておかなければならない。

 日本代表強化とプロリーグが成功すれば、日本は再び、RWC招致に乗り出すことになる。次のRWC日本開催はいつ頃になりそうかと聞かれると、森会長は「ビル(ボーモントWR会長)に聞いてくれ」と笑った。

 ボーモント会長も笑った。「グッド・アンサー!(いい答えだ)」

 RWCはスポンサーの関係で2大会に1回は欧州で開催されることが慣例化している。そう考えると、2043年ぐらいに再び、日本で開催されることになるかもしれない。