西日本選手権に出場した本田望結「アクセル(の失敗)は悔しいです。練習で苦手意識がついてしまっていて。ただ、(失敗の)理由はわかっているので、(気持ちは)モヤモヤはせず、悔しいだけで」 本田望結は手を前に組んで、無念さを隠さずに言った。本業の…



西日本選手権に出場した本田望結

「アクセル(の失敗)は悔しいです。練習で苦手意識がついてしまっていて。ただ、(失敗の)理由はわかっているので、(気持ちは)モヤモヤはせず、悔しいだけで」

 本田望結は手を前に組んで、無念さを隠さずに言った。本業の一つである女優のように、拵えた表情ではない。本田は完全なる競技者として、その場に立っていた。

 11月2日、滋賀県立アイスアリーナ。西日本選手権で次代を担うフィギュアスケートのジュニア女子、ショートプログラムが午後1時半からスタートしていた。本田は4番目の滑走だった。

 ジュニア女子の試合は、午後5時近くまで続いている。

 約3時間半、少女たちが順番に入れ替わるように会場へ来ては去っていった。お化粧し、髪を整え、やや緊張した面持ちで会場にやってくる選手がいた。その一方、演技後は一人で悄然として去る者がいて、充実感を滲ませながら帰る選手もいた。光と影が同時にそこに浮かんだ。

 会場の外では、選手がそれぞれウォーミングアップを入念にしていた。マットを敷いて体幹トレーニングや柔軟体操をしたり、短いダッシュを何本も繰り返したり、イヤホンで外界と聴覚を遮断し、ジャンプの入り方を確認する。どれも不安を振り払い、自らを鼓舞するかのようだった。

 リンクが、彼女たちの”舞台”だ。

 この日、その舞台の主役に躍り出たのが、中学3年生の河辺愛菜(関西大KFSC)だった。冒頭、3回転ルッツ、3回転トーループの連続ジャンプでGOE(出来ばえ点)もしっかり獲得。その後のジャンプも、3回転ループ、ダブルアクセルを成功し、ポテンシャルの高さを示した。64.18点は立派な数字だ。

「(近畿選手権)ブロックより点数が上でよかったです。自分が思ったよりも上で。ループは軸が斜めになって降りてしまったんですが、6分間練習ではパンクしてしまっていたので、それが出なくてよかったです」

 河辺は声を低く抑え、丁寧に自分の言葉で説明した。そして次の日のフリーに向け、意欲的だった。日本のトップスケーターが武器にしてきたトリプルアクセルを、プログラムに入れる準備もあるという。

「アクセル(ジャンプ)は(練習で)近くで跳んでいるのが紀平梨花ちゃんなので。その練習を参考に、自分もこんなジャンプがしたい、と思いながらやっています。トリプルアクセルをちゃんと練習で始めたのは、今年の5月くらい。一回、跳べるようになったんですが、また、跳べなくなってしまって。膝をケガしてしばらくは練習していなかったんですが。前日の練習では、3本中2本、成功しました! 最初は怖かったですが、だんだん怖くなくなってきています。でも、シニアのトップ選手を見ていると、もっと確率を上げないといけないなと。練習では絶対に成功できるようにしたいです」

 河辺はあどけない表情ながら、背筋を凛と伸ばしてこうも続けた。



西日本選手権SPで首位に立った河辺

「4回転も練習はしています。回転が足りていないですが、両足では立てるようになっていて。トーループも練習していましたが、(今挑戦しているのは)サルコウです」

 世界のフィギュアスケート女子は男子同様、「4回転時代」に突入している。ロシアではアレクサンドラ・トゥルソワが、ジャパンオープンで4本の4回転をすべて着氷。グランプリシリーズ、スケートカナダでは3本の4回転を成功させ、2本のトリプルアクセルを決めた紀平を退け、圧倒的な優勝を遂げた。他にも、同じロシア人のアンナ・シェルバコワがスケートアメリカで、難易度の高い4回転ルッツを2本成功させ、やはり大会を制覇している。

 この事態に、紀平も4回転サルコウに着手。世界中で、挑んでいる選手が増えていると言われる。今後は王座の決め手になるかもしれない。

 フィギュアスケートの時代が激しく変わりつつある中、西日本選手権でも日本の少女たちが切磋琢磨していた。それぞれが競い合うことで、技術は向上する。年端のいかない選手ばかりだが、少しも甘えた様子はなかった。

 取材エリアの隅にある長椅子に座った本田は、スケート靴を脱ぐと黒いスニーカーに履き替えていた。そして粛々と道具を磨く。それは2日後(11月4日)のフリーへの準備のはずだった。ショートは無念の17位に終わったが、フリーに進んでいた。

「去年の出来(全日本ジュニア選手権出場)は偶然のもの。ただ、偶然を必然と考えると面白くなる。一つ一つ、必然と楽しみながらやりたいなと思っています」

 本田は野心を捨てていなかった。

「笑顔で終われるようにしたい」

 多くの少女たちが言う。彼女たちは氷上で華麗に舞い、優しく笑みを浮かべる。打ちひしがれることもあるだろう。コインの表裏が出る。

 その彼女たちが切実な今日を戦い抜くことで、明日に望みはつながる。ライバルの存在に、お互いが刺激される。その競争こそ、日本女子フィギュアスケートの拠り所だ。