11月2日、横浜国際総合競技場にてラグビーワールドカップ決勝戦が行なわれる。 最後の舞台に駒を進めたのは、イングランド代表(世界ランキング1位)と南アフリカ代表(同2位)。16年ぶりにイングランド代表を決勝まで導いたのは、2015年大会で…

 11月2日、横浜国際総合競技場にてラグビーワールドカップ決勝戦が行なわれる。

 最後の舞台に駒を進めたのは、イングランド代表(世界ランキング1位)と南アフリカ代表(同2位)。16年ぶりにイングランド代表を決勝まで導いたのは、2015年大会で日本代表を率いて「ブライトンの奇跡」を起こしたエディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)である。



エディー・ジョーンズHCの発言にはいつも注目が集まる

 前回大会、イングランド代表は予選プールで敗退し、ホスト国ながら初めて決勝トーナメント進出を逃すチームとなってしまった。当時、日本代表を率いていたジョーンズHCは、「イングランド代表はルーキーのコーチを選んでしまった」と発言し、大いに話題を呼んだ。

 そんな屈辱を味わった「ラグビーの母国」に2016年、イングランド代表初の外国人指導者としてジョーンズHCが就任する。ジョーンズHCは就任会見で、「イングランドは2019年のワールドカップで優勝します!」と宣言。さらには初陣の時にも、「ワールドクラスの選手はひとりもいない。でも、4年で選手たちはワールドクラスになります!」と言い放つなど、いきなりメディアを驚かせた。

 だが、その言葉は有言実行になりつつある。準決勝で3連覇のかかった「オールブラックス」ニュージーランド代表を19-7で破り、決勝へと駒を進めたのだ。なお、9回目を迎えるワールドカップ決勝の舞台で外国人指揮官が指揮をふるうのは、ジョーンズHCが初である。

 ジョーンズHCと言えば、ウィットに富むが、ちょっと毒舌--。その表現方法は日本にいた頃から耳目を集めていたが、それはイングランド代表HCになっても変わっていない。

 2016年にLO(ロック)マロ・イトジェを代表メンバーに抜擢した時には、「マロは頭がいい子だが、今はまだ(イギリスの大衆車)ボクスホールのようだ。彼をBMWにしたい。やるべきことはたくさんあるが、彼には可能性がある」と語った。イトジェはこの数年で大きく成長し、ニュージーランド代表との準決勝ではプレーヤー・オブ・ザ・マッチに選ばれている。

 南アフリカ代表との決勝戦でも先発する23歳のサム・アンダーヒルと21歳のトム・カリーの若いFL(フランカー)コンビについては、「彼らは身体が傷つくことを顧みず、相手を切り裂き、我々の先頭に立ってディフェンスをする。ふたりを『カミカゼ・キッズ』と呼んでいます」と高く評価。今大会での彼らの活躍は、イングランド代表を決勝に導く原動力になっている。

 神戸で行なわれた予選プール2戦目・アメリカ代表戦のあと、No.8(ナンバーエイト)ビリー・ヴニポラが足首を痛めると、「神戸牛を食べ過ぎたのだろう」とコメント。危険なタックルを受けたキャプテンCTB(センター)オーウェン・ファレルに対しては、「彼の鼻の一部がどこかに行きました。誰かが見つけてバーベキューにしたのかもしれません。でも、彼にはもう妻子がいるので心配はないでしょう」と冗談を飛ばした。

 台風19号の影響で予選プール最後のフランス代表戦が中止になると、イングランド代表は宮崎でミニキャンプを行なうことにした。その時もジョーンズHCは、「私たちは宮崎牛の消費者です。今回はビリー(・ヴニポラ)にも少し食べさせてもいいでしょう」と笑いを誘った。

 大分で行なわれた準々決勝・オーストラリア代表戦の前には、「後ろに丘(石垣原の戦い跡地)が見えますね? サムライが住んでいたところです。戦うたびに生き延びる人もいれば、死ぬ人もいました。(私たちのチームにはメンバーの)23人。さらに洞穴(メンバー外)には8人います」とコメント。選手たちをサムライに例えて士気を高めた。

 そのオーストラリア代表戦では、SO(スタンドオフ)ジョージ・フォードを先発から外し、ファレルを10番で起用した。「フォードを控えに落としたのか?」と聞いたイングランド記者に対し、ジョーンズHCはちょっと怒り気味にこう答えた。

「外してなんかいません。彼の役割を変えただけです。あなたは報道のやり方を変えたほうがいいのでは? ラグビーは変わった。現代ラグビーは23人でやるものですよ。あなたも現代ラグビーに参加しに来てください。メールをいただければ招待状をお送りします」

 日本代表がなかなか勝てない時、ジョーンズHCがこう言っていたのを思い出した。

「トヨタ自動車のクルマは30年経って大きく進化したのに、なぜ日本ラグビーは同じように変わらないのか?」

 世界中のラグビーファンが注目したニュージーランド代表との一戦。準決勝の前に、ジョーンズHCはまたも独特な言い回しで笑いを取っていた。

「サムライは日本の歴史において、神秘的なキャラクターです。オールブラックスについても同じで、だから日本人はハカが好きなのです。多くの日本人が(ニュージーランド代表)黒いジャージーを持っています。(日本人の)私の妻もそうです。彼女にオールブラックスを応援するのをやめさせないといけませんね」

 また、ニュージーランド代表戦に向けて練習をしていた時、ジョーンズHCは練習場のとなりの高層マンションから望遠レンズで撮影していた人に気づいたという。すると、「誰かが撮影していました。ファンかもしれませんが、誰かはわかりません」と発言し、相手にスパイ容疑をかけて挑発してみせた。

 ニュージーランド代表に快勝したあとも、エディー節は変わらない。

「(スティーブ・ハンセンHCが)オールブラックスの指揮官じゃなくなるのは寂しいが、トヨタ自動車で(HCを)やると聞いています。トヨタ(のチーム)は速くなるでしょうね。(ワールドカップのオフィシャル)スポンサーじゃない企業の名前を挙げてしまってトラブルになるかもしれないが、日本ラグビーのためになる」

 相手チームの指揮官の去就を暴露したのである。

 ジョーンズHCは時事ネタも織り交ぜて話すことが多く、それも人々の関心を誘う。アメリカ代表戦の前には「相手チームには15人のトランプ大統領がいる」と話し、勝利したあとは「(イングランドのEU離脱問題を指す)Brexitでゴタゴタしているイングランドに明るい話題が提供できてうれしい」と語った。

 2016年11月、テストマッチで南アフリカ代表との対戦を控えたジョーンズHCは、こう発言した。

「スプリングボクス(南アフリカ代表)は(フィジカルが強くて)いじめっ子です」

 イングランド代表は約10年、南アフリカ代表に勝っていなかったからだ。だが、結果は37-21。発言がどう影響したかはわからないが、ジョーンズHCは見事に勝利を飾った。

 勝ったとしても、負けたとしても、南アフリカ代表とのワールドカップ決勝戦を終えたあと、ジョーンズHCからどんな言葉が飛び出すのか--。今から楽しみでならない。