F1第18戦・メキシコGPの決勝後、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは思わず両手で顔を覆い、その手を何度も上下させて大きく息を吐いた。「まるでジェットコースターのようでしたから……」 レッドブル・ホンダは…

 F1第18戦・メキシコGPの決勝後、ホンダの田辺豊治テクニカルディレクターは思わず両手で顔を覆い、その手を何度も上下させて大きく息を吐いた。

「まるでジェットコースターのようでしたから……」



レッドブル・ホンダはメキシコシティで予想外に速かった

 金曜フリー走行からマシンの仕上がりはよく、ほとんどセットアップの変更も必要ないほどスムーズに週末を進め、予選では最速タイムを記録して今季2度目のポールポジション獲得――。

 まさに絶頂まで登り詰めていったが、マックス・フェルスタッペンは予選最後のアタックで前走車バルテリ・ボッタス(メルセデスAMG)がクラッシュして黄旗が振られた区間でスロットルを戻さなかったとして、3グリッド降格ペナルティを科されてしまった。

 そして決勝では、スタート直後にルイス・ハミルトン(メルセデスAMG)と交錯してコースオフを余儀なくされ9位まで後退。そこから挽回を図るなかで5周目、ボッタスを抜いた直後にフロントウイングを当てられ、右リアタイヤのパンクに見舞われて最後尾に落ちた。

 ジェットコースターのように絶頂から急転落し、レッドブル・ホンダは勝てたはずのレースを失った。

「金曜・土曜の結果、速さをレース結果に結びつけられなかったのが残念です。ポールポジションからスタートしていれば、スタートで順位が下がることはなかったと思います。

 後ろからぶつけられたりせずに、ターン1をクリアに抜けていれば、その後の展開はかなり違った。クルマは速かったですし、先頭を走ればタイヤのオーバーヒートも出ませんし、いろんな意味で有利ですから。何を言っても、タラレバになりますけどね」

 悔しさを押し殺すように、田辺テクニカルディレクターはそう語った。

 メキシコシティでのレッドブル・ホンダは速かった。

 いつもならばフェラーリに大差をつけられるストレートでもその差は小さく、標高2200メートルの空気の薄さのなかで、ホンダのパワーユニットがライバルメーカーよりもパワーダウンが小さかったのは明らかだった。ホンダジェットの技術が注ぎ込まれたターボチャージャーが大きく貢献したのだ。

 ホンダのパワーユニットが熱に強いというのも、もうひとつの要因と言えたようだ。

 冷却系の油温・水温がある程度上がっても、攻めて使うことができる。空気が薄く冷却性能が落ちる高地のメキシコシティでは、多くのチームがいつも以上にカウルに大きな穴を開けて対策していた。だが、レッドブル・ホンダのそれは他チームに比べて小さかった。そのおかげで空力性能のロスも小さくて済んだ。

「油水温が厳しいところでもがんばれるパワーユニットだから、空力的に(カウルを)ガバッと開けなくて済んでいるという点では、車体パッケージとして効いているところがあります。エンジンが(高温でも)がんばれるから空力性能を高めるほうに振ることができる、という面もあるわけです」

 スペック3投入直後の第8戦・フランスGPでは、ややマージンを残した使い方をしていたが、その実走データをもとにセッティングを煮詰め、より過酷な条件でもパワーが落ちないようにした。その効果が発揮されたのが、異常な暑さに見舞われた次戦オーストリアGPでの優勝だったが、空気が薄く冷却が厳しいメキシコシティでもそれが働くことになったのだ。

 加えてレッドブルの空力パッケージの素性、そしてメカニカル性能が組み合わさって、予選では最速のマシンとなった。

 金曜から決勝だけを見据え、タイヤマネジメントを最優先にマシンを仕上げたからこそ、予選一発でのここまでの速さは、チーム自身も想像していなかった。

「ここ数戦の僕らはストレートラインでかなりロスをしていて、ほとんどのサーキットではストレートで失った分をコーナーで取り戻せなかった。メキシコでもストレートでのロスは大きいものの、ここはコース自体のグリップがすごく低いので、空力だけでなくメカニカルグリップも普段以上に重要になるんだ。

 シンガポールGPではセットアップをミスしてしまったけど、あれがなければ僕らはシンガポールですごく速かったはずだ。シンガポールで多くを学んだことで、ここのレースに向けてシミュレーターでしっかりと準備を整えることができた。だから今週末は、現場でセッティングをあれこれ変える必要がなかった」(フェルスタッペン)



ハミルトンはメキシコでも勝利して王座獲得目前

 これならば勝てる――。かなり強い手応えを掴んだレッドブル・ホンダは、3グリッド降格ペナルティが科されようとも、まだ逆転の可能性を信じていた。

 しかし、スタートからわずか5周で、その可能性は完全に潰えた。

 ターン1でハミルトンとの激しいバトルのなか、フェルスタッペンがややワイドに膨らんでハミルトン車に接触。それがきっかけとなってハミルトンは姿勢を崩し、フェルスタッペンはそれを避けるために芝生を大きく突っ切ってコースに戻るしかなかった。

 そして5周目のターン13でボッタスのインに飛び込んだ際には、抜き去った後にラインが交錯してフロントウイングで接触を受けた。こちらは不運と言ってもいいインシデントだったが、接触でパンクを喫したりマシンにダメージを負ってしまっては、勝利を狙うことはできない。

 いくら自分に非がなかろうと、致命的な接触やコースオフは避けなければならない。王座獲得目前のハミルトンが今季の全ドライバーで唯一「全戦完走・全戦入賞」という結果を残しているのは、まさに彼が純粋な速さだけでなく、そんな安定感を身に着けているからに他ならない。

 それと比較すれば、メキシコでのフェルスタッペンの予選最終アタックや決勝序盤のドライビングは、不用意だったと言わざるを得ない。シーズン後半戦に入ってからそんな場面が増えているのも、やや気にかかる。

 結果としてレッドブル・ホンダは、低迷が続いていたシーズン後半戦において千載一遇のチャンスと言えた、特殊条件下のメキシコGPを落とした。

 ハードタイヤで66周を走ったにもかかわらず、フェルスタッペンのペースは上位勢と遜色のないものだった。

「今日のマシンには勝てるだけの力があった。我々の速さから考えれば、そう思うよ。マックスはピットアウト後、上位勢よりも1周2秒も速いペースで走っていた。レース中盤には30周も古いタイヤで上位勢と同等のペースで走っていたんだから、最後尾から挽回した彼の走りは本当にすばらしかった。ペースがよかっただけに、本当に残念だよ」

 クリスチャン・ホーナー代表はそう述べて悔しがった。

 来季、最速のマシンパッケージを作りあげて王座への挑戦を期しているレッドブル・ホンダだが、その頂点に辿り着くためには、もうひとつ超えるべき課題がある。それを知らしめてくれたメキシコGPだった。