2015年にF1に復帰して以来、標高2200メートルのメキシコでホンダは苦戦を強いられ続けてきた。 平地に比べて空気は約20%も薄く、そのままではエンジンに入る空気の量も20%少なくなるため、パワーも20%低下する。そこで、ターボチャ…

 2015年にF1に復帰して以来、標高2200メートルのメキシコでホンダは苦戦を強いられ続けてきた。

 平地に比べて空気は約20%も薄く、そのままではエンジンに入る空気の量も20%少なくなるため、パワーも20%低下する。そこで、ターボチャージャーの過給圧をいつも以上に上げてより多くの酸素を取り込み、パワーダウンを最小限に抑えなければならない。



ホンダのターボは今年こそメキシコで結果を残せるか

 復帰当初の2015年はその想定が十分ではなく、レギュレーションの上限である毎分12万5000回転まで上げても補い切れなかった。ターボから発電するMGU-H(※)の回生量を大幅に抑えなければ、過給圧が落ちてまともに走れないような状態だったのだ。

※MGU-H=Motor Generator Unit-Heatの略。排気ガスから熱エネルギーを回生する装置。

 徐々にその状況は改善されてきたとはいえ、結果として2017年(マクラーレン)と2018年(トロロッソ)の10位入賞がこれまでの最高位であり、メキシコとの相性は決してよくない。1965年に第1期ホンダが初優勝を上げた場所であり、当時は自然吸気エンジンであったために各エンジンが大きくパワーを落とすなか、航空機エンジンの知見を生かした混合比セッティングで優位に立って勝利したことを思えば、皮肉な状況と言えた。

 しかし今年のホンダには、スペック3から投入された新型ターボチャージャーがある。周知のとおり、ホンダジェットの知見を生かして設計されたターボだ。

「航空機部門に協力してもらったのは、より少ないエネルギーで高い圧力や空気流量を出したりといった、空気力学的な設計に関する部分。ターボのタービン(羽根)、カタツムリの形をしたコンプレッサーといった空気が流れる部分です。IHIさんが設計したものをベースにして、さらに改良を加えた形ですね」

 開発責任者の浅木泰昭執行役員はこう説明していたが、ターボ効率がいいということは、それだけパワーユニット全体としても効率のいい使い方ができるということだ。

 現場の運営を取り仕切る田辺豊治テクニカルディレクターはこう語る。

「ターボの効率が上がっている分、当然効果はあります。圧力比の高い動作点で使わなければならない状況下でも、以前のものよりも効率のいいところで使えます。

 当然、ターボの回転数を上げていくわけですが、際限なく上げるわけにはいきませんから、(MGU-Hの回生やEブーストも含めて)いろんな要素のキャリブレーションの妥協点のベストを選んで使うわけで、ターボが果たしてくれる貢献も大きいわけです。パフォーマンスの落ちを小さくするという点で貢献してくれます」

 しかし、それが対他競争力という点でどれだけのアドバンテージをもたらすかについては、実際に走ってみなければわからない。ライバルメーカーの今季型パワーユニットがメキシコでどれだけパワー低下を余儀なくされるのか、それはまだわからないからだ。

 フェラーリは予選で驚異的なパワーを発揮し、ストレートで稼ぐ。約1.2kmの全開区間があるメキシコシティでは、これが大きな優位になる。

 その一方で、車体の不安もある。

 過去2年は2連勝を挙げているレッドブルとマックス・フェルスタッペンだが、それは空気が薄くダウンフォースが減るメキシコシティでは、レッドブルのメカニカル性能のよさがアドバンテージになったからだ。

 しかし、今年は低速コーナーの速さを見るかぎり、その点においてメルセデスAMGに劣っている。

 フェルスタッペンも、今年は従来よりも苦戦を強いられることを覚悟している。

「僕らのクルマはずっとメカニカルグリップが強力だったけど、今年はこれまでに比べて少し厳しくなるとは思う。フェラーリやメルセデスAMGと比べると、今年はマシン的なアドバンテージがそれほどないし、フェラーリはストレートで死ぬほど速い。

 だから、そのゲインをコーナーで取り戻すのはかなり厳しい。とくに予選ではね。決勝ではパワー差はあるとはいえ、そこまでの差はないから、決勝では少しチャンスがあるかもしれないけどね」

 そのためには、タイヤをうまく使うことが重要になる。とくに昨年は、タイヤにグレイニングというささくれ症状が発生したため、これをうまく使ったレッドブルが優位に立った。

 しかし今年は、タイヤマネジメントにも光るところがない。

「僕らはストレートでタイムを稼いでいるのではなく、コーナーでプッシュして稼がなければならない。だからタイヤを酷使することになるし、タイヤマネジメントの点ではアドバンテージにはならないんだ」(フェルスタッペン)

「メルセデスAMGは最後までペースが落ちないし、フェラーリも以前は落ちていたのが、最近はかなりタイヤに優しくなってきて落ちなくなった。そんななかでレッドブルは落ちが大きいので、ちょっとつらいですよね……」(田辺テクニカルディレクター)

 そこにパワーの差もある。フェルスタッペンはこう言う。

「メルセデスAMGやルノーと比べれば十分に強力と言えるし、その差はそれほど大きくない。メルセデスAMGは僕らよりダウンフォース量が多いけど、僕らがかなり追いついてきているのも事実だし、それ自体は大きな達成と言ってもいいと思う。

 しかし、フェラーリはパワー面で大きくゲインしてきたので、マシンで0.5秒速かったとしても、彼らを予選で打ち負かすのは無理だ。それはフェラーリと比べてマシン性能で勝っているはずのメルセデスAMGが、予選で打ち負かせないのを見れば明らかだろう」

 パワーでも車体でも負けているレッドブル・ホンダにとって、勝機を見出すのはかなり難しいのが現状だ。

 スペック3のターボが標高2200メートルの高地で、どのような効果を発揮するか。それがライバルメーカーと比べてどのくらいの優位をもたらすか。そこに大きな期待がかかる。