専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第227回 ゴルフコースが出来立ての時は、林間コースといえども、樹木が細くて頼りない感じがしますよね。個人的には、「こんな細木じゃあ、お尻が隠れないじゃないか!?」ってR…

専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第227回

 ゴルフコースが出来立ての時は、林間コースといえども、樹木が細くて頼りない感じがしますよね。個人的には、「こんな細木じゃあ、お尻が隠れないじゃないか!?」って……また用足しの話ですかぁ~。

 たしかに、うっそうと樹木が茂ったコースのほうが、何かと隠れやすいです。その深い茂みのおかげで、ボールもよく紛失します。たとえボールが見つかっても、うまく脱出できないことも……。だから、円熟した林間コースは「難しい」と言われるのです。

 じゃあ、コースが開業して何年目あたりがベストなのか?

 おそらく、30~40年目ぐらいじゃないですか。それ以上となると、木が生えすぎて、逆に弊害が出てきます。

 とまあ、今回はそんなコースの”円熟”や、コースの設計についての話をしたいと思います。

 どのコースも、開業時は恐ろしく木がやせ細っていて、本当に大丈夫なの?って感じに見えます。実際、細い木のそばにボールを打ってしまうと、樹木保護の名目で”青杭扱い(修理地)”になるので、そこから外に出して打ってください、というケースになることが多いです。

 そういう意味では、今の時代はすばらしいです。だって、新設コースなんて、ほとんどありませんからね。

 コースが出来上がってからは、いろいろと管理も重要になってきますが、そこでは設計家の力量が試されます。

 まず、水はけ。名設計家のコースはデザインが注目されますが、それ以上にコースの基礎構造、そこがしっかりしているんですよね。ゆえに、雨が強く降っても、グリーンの水はけがものすごくいい。

 ちなみに、私の元ホームコースだった鶴舞カントリー倶楽部などを手がけた名匠・井上誠一は、ほとんどのグリーンが砲台。砲台グリーンの下は、細かな砂や砂利などが幾層にもなっていて、排水関係はバッチリです。

 水は、上から下に流れます。だから、砲台グリーンは、水が下に浸透しやすく、水はけがいいのです。

 さらに、名設計家のすごさがわかるのが、マウンドの設計です。どんな設計家も、コース内の要所、要所に2mぐらいの小山、俗に言う「マウンド」を造りますが、それが、台風ぐらいでは土砂が崩れません。地面は斜めになっているのに、土砂が流出しないのには恐れ入ります。

 もちろん、ダメな設計家が造るマウンドは、大雨で崩れることも……。あれも、不思議です。

 とにかく、井上誠一設計のコースで、崩れたマウンドなんて見たことがないです。

 加えて、芝付き。開業5年ぐらいしたコースでも、相変わらず芝付きが悪く、まったく芝が生えない、といったコースがあります。それは、単に木陰などに覆われて日照時間が少ないなどの問題ではないようです。

 そこには、設計的な問題もあって、最終的には土壌の問題にまで発展していきます。そういう芝付きの悪いコースは、そっくり土を入れ替えて、土壌を改良する場合もあるみたいです。

 あと、ビジュアルね。こちらは管理の話になりますが、たとえばフェアウェーにも、順目と逆目があるって、知っていますよね。ティーグランドから見て、明るいフェアウェーが順目で、暗いのが逆目です。これは、芝刈り機の進行方向で芝目がつきます。

 芝刈り機で、フェアウェーを横に行ったり来たりすれば、ゼブラ模様の、まるでシマウマのボディのようなフェアウェーになります。

 つまり、ディーグラウンドから見て、左側は順目、右側は逆目といったようにきれいに整えるとしたら、芝刈り機で計画的に刈る、という面倒なことをしなきゃならないわけです。

 その点、名門系のコースはしっかりしています。順目と逆目のフェアウェーが左右に分かれていて、非常に見やすくなっている場合が多いです。このひと手間が、コースの美観を左右するってもんです。

 さて、新設コースはさまざまな問題を抱えていますが、一方で開業40年を経て、風格が増してきたコースはどうなのでしょうか。たしかに立派で円熟しているのですが、弊害も多々あります。

 まずは、樹木が成長しすぎて、かえって邪魔になっていることがあります。狭いショートホールでは、左右の樹木がせり出しすぎて、上の部分がくっつきそうになっているところも……。そんなね、樹木でアーチを作ってどうするの?

 コース側は、難易度を高めたい考えもあって、わりと樹木を伐採することには消極的です。

 現に、コースレート(ゴルフ場の難易度を示す数値)って、10年に1回ぐらい算定し直しますが、開場40年も経つと、当初のコースレートが「72」だったら、「73」くらいにアップします。要は、難易度が増すのです。

 ただそうやって、木が勝手に成長したことで「バンザ~イ! うちのコースも難易度が上がって、名門の仲間入りだ!!」なんて喜んでいると、束の間、各方面からどんどん弊害が報告されてきます。

 樹木が茂りすぎてコース内に日陰が多くなり、グリーンの芝生が育たないとかね。冬場は、グリーンに日が当たらないと、カチカチのままで、プレーに支障をきたします。

 グリーンって、樹木に囲まれているわりには、日光もきちんと当てなきゃいけない。案外、そこが難しいところです。

 また、時間の経過とは恐ろしいもので、いつの間にか、設計家が目指した「本来のコースの姿から逸脱しているんじゃないの?」という意見も出てきます。

 たとえば茨城県にある、とある超名門コースでは、バンカーの上に松の枝が横からせり出して来ていて、せっかくバンカーから脱出できたと思ったら、ボールが松の枝に当たって、またバンカーなんてことがありました。

 ビジターで行くには面白いと思いましたし、それが”名物”になっているようでしたので、とやかく言いませんが、今はどうなっているんでしょうかねぇ……。ちょっと気になります。

 というわけで、開場50年を迎えるあたりになると、「そろそろ改造しますか」といった動きが出てきます。もちろん、予算がある場合の話ですよ。そこで、いろいろな意見が出て、さまざまな方向性に進んでいきます。

 そうすると、名門の多くは、新しい売れっ子の設計家にリニューアルを依頼して、近代的なコースへと変貌を遂げるほうに向かいがちです。

 その一方で、井上誠一のような名設計家によって造られたコースは、”文化遺産”的に、開業当時の設計思想に戻して、そのコース様式を後世に伝えていこうとする動きが出てきます。

 別に設計当時に戻すからって、樹木を苗木に変えるわけではありません。余計な気を伐採し、見晴らしをよくし、アマチュアゴルファーが楽しめる環境作りをする、ということです。



こんなコースがあっても面白いですけどね...

 この夏、帝国ホテルなどを手がけた、近代建築の「巨匠」と言われるフランク・ロイド・ライトの代表作、『落水荘』(家の中に滝が流れている家)など8建造物が世界遺産に登録されました。

 そして今、ゴルフコースもひとつの文化遺産と見る動きがあります。そう考えると、日本の名コースが、世界遺産をはじめ、近代文化遺産みたいな扱いを受ける日も、そう遠くはないかもしれません。

 実際、英国ではセントアンドリュース市の、旧市街地とオールドコースを、世界遺産の登録申請(2011年)をしていますからね。結果はまだ出ませんけど、あながち夢物語ではない話です。

 もしそれが実現したら、日本のコースで登録申請するのは、やっぱり廣野ゴルフ倶楽部(兵庫県)か、川奈ホテルゴルフコース(静岡県)かなぁ。チャールズ・H・アリソン設計のコースは、世界的にも評価が高く、まず外せませんよね。

 ならば、井上誠一設計のコースはどこか?

 大洗ゴルフ倶楽部(茨城県)か、龍ヶ崎カントリー倶楽部(茨城県)か。

 そういう観点でラウンドするのも、楽しいものです。「オレのコース、世界遺産なんだぜ!」――そう言える日が、まもなくやって来ると思いますよ。