高校時代から磨いてきたタックルを何度も見せた。50メートル5秒台の自慢の快足を生かし、ゴール前にも迫った。だが、世界の強豪のゴールラインは遠かった……。 多くのベテラン選手が代表引退を示唆するなか、韋駄天WTB…

 高校時代から磨いてきたタックルを何度も見せた。50メートル5秒台の自慢の快足を生かし、ゴール前にも迫った。だが、世界の強豪のゴールラインは遠かった……。

 多くのベテラン選手が代表引退を示唆するなか、韋駄天WTB(ウィング)福岡堅樹(パナソニック)も15人制ラグビーの代表引退をあらためて公言した。「やり切ることができました。何ひとつ思い残すことはありません!」。27歳の福岡は、今大会で完全燃焼した。



試合後、南アフリカの選手と健闘を称え合う福岡堅樹

 10月20日、ラグビーワールドカップで初のベスト8を決めた日本代表(世界ランキング6位)は、東京スタジアムで行なわれた準々決勝で南アフリカ代表(同5位)と激突した。前半ではいいシーンを何度か作り、ハーフタイムを3-5で折り返した。だが、後半は相手のフィジカルの前にタックル、スクラム、モールで圧力を受けて、最終的に3-26で敗れた。

 予選プールで3戦連続計4トライを挙げた松島幸太朗(サントリー)と「ダブルフェラーリ」を組んだ福岡は、好調を維持して南アフリカ代表戦に臨んだ。4年前に34-32で勝利した「ブライトンの奇跡」ではメンバー外。だが、この再戦では11番をつけて先発出場を果たした。

「自分たちのラグビーを世界に示してきた。チームとして自信を持っているし、経験を踏まえたうえで準備もできている。そういう意味で、前と違った戦い方を見せたい。

 トライが獲れているのは、内側の選手たちが崩して、いい形でボールをつないでくれているから。自分たちらしい試合をして、記憶に残るようなゲームにしたい」

 初戦のロシア代表戦こそケガの影響で出場できなかったが、予選プールを4連勝で終えた福岡は大きな手応えを感じていた。

 南アフリカ代表戦のテーマは、「スマートに戦う」ことだったという。キックで大きな相手FW陣を背走させつつ、スペースをパスやキックで攻める狙いがあった。前半9分のグラバーキックには、ボールを拾い上げることはできなかったものの、福岡がすぐさま反応していた。

 そして前半14分、最大のチャンスがやってくる。

 日本代表は今大会、何度も見せてきた素早いパスさばきで左に展開。ライン際にいた福岡は、持ち味の急加速で相手ひとりを抜くと、そのまま快足を飛ばして30メートルほど走った。だが、後ろからのタックルで倒され、惜しくもトライを獲ることはできず……。「いいチャンスだったが、相手のディフェンスの厚さを感じた」。

 その後、ワールドカップ優勝2回を誇る南アフリカ代表FWがモールやスクラムでプレッシャーを強めてくると、日本代表WTB陣に見せ場が回ってくることはなかった。

 そして、ノーサイド。福岡は最後までピッチに立ち続けた。

「やりたいことさせてもらえなかった。南アフリカ代表がいかに本気で潰してくるか、すごく伝わってきた試合でした。準々決勝から上にいくチームとは、埋められない部分が多少あるのも事実かな……」

 大会前から自国開催のワールドカップを「15人制ラグビーの集大成」と決めていた。「最後だからこそ、きついこともがんばれたし、ケガしても前向きになれた。今回のワールドカップは、自分の人生のなかで最高の大会になりました」。

 祖父が医者、父が歯医者という医師一家に生まれた福岡は、福岡高校時代に左右のひざのじん帯を断裂したことをきっかけに、医師の道を志すようになった。「ラグビーもできて、医学部もある大学」ということで筑波大を目指したが、医学部に合格することは叶わなかった(筑波大・情報学群に合格)。

 筑波大に入学後すぐにスピードスターとして頭角を現した福岡は、当時の日本代表監督エディー・ジョーンズHC(ヘッドコーチ/現イングランド代表HC)に見出されて、大学2年時に代表初キャップを獲得。大学4年時には2015年ワールドカップのメンバーにも選ばれた。そして、今大会では4トライを奪取。15人制日本代表において、通算38キャップ・25トライという数字を残した。

 医師になるために、福岡はこれから本格的に「ラグビーから勉強にシフトする」。だが、その前に目指すものがある。それは、7人制ラグビー「セブンズ」に転向し、東京五輪にチャレンジすることだ。

「2019年ワールドカップ、2020年東京五輪に出場して、キャリアを終える」

 南アフリカ代表戦が終わり、スタンドのファンに向けて挨拶をして回った福岡は、最後に東京スタジアムのグラウンドに寝転がった。

「15人制日本代表への思い入れも強かったので、終わったなって……ちょっと寂しくなる気持ちがありました」

 試合後、そう本音を吐露したが、決意が揺らぐことはなかった。

「(15人制ラグビーもセブンズに)つながっている。今回のワールドカップで自信をつけることができました。勝つためのマインドセットや準備の仕方を、今度はセブンズのチームメイトとも共有して、『ONE TEAM』を作りあげることができたら……」

 東京五輪のセブンズの会場も、奇しくも同じ東京スタジアムである。ワールドカップでひと回り大きくなった福岡は、「セブンズで(東京スタジアム)に帰ってきます!」と力強く宣言した。