さあ、決戦である。ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会で初めて8強入りした日本代表は20日、東京スタジアムで南アフリカとの準々決勝に挑む。何と言っても、南アの強みはでかくてフィジカルの強いFW(フォワード)。日本が勝つためには、FW…

 さあ、決戦である。ラグビーワールドカップ(W杯)日本大会で初めて8強入りした日本代表は20日、東京スタジアムで南アフリカとの準々決勝に挑む。何と言っても、南アの強みはでかくてフィジカルの強いFW(フォワード)。日本が勝つためには、FW戦で踏ん張らないといけない。



南アフリカ戦では、No.8としてスタメン出場する姫野和樹(写真中央)

 日本はW杯前の9月6日、南アに7-41で完敗した。トライ数が1本対6本。スクラムを起点とされ、南アにうち2本をとられた。1本は相手ボールのスクラムの時、日本がコラプシング(故意に崩す行為)の反則によるアドバンテージをとられたあとだった。日本はその試合から先発メンバーを5人入れ替えて、準々決勝に臨む。

 対する南アは、先発メンバーでは、W杯前の試合からFWを3人だけ入れ替えてきた。平均身長が192cm(日本は188cm)、平均体重は116kg(同109kg)。とくに両LO(ロック)は200cm台と高くて重い。ラインアウトの安定感は抜群で、その後のラインアウトモールで押し込んでいくのが得意パターンだ。

 この強力FWにどう対抗するのか。この試合のキーマン、HO(フッカー)の堀江翔太は「(FWの)8人全員が同じ方向を向けるかどうか」と言った。堀江はW杯前の南ア戦には出場していなかった。

「スクラム、ラインアウト、モールと、(南アは)どれも強いと思う。僕たちは、しっかりとしたプランを持って、そのプラン通りにやらなあかん。スクラムに関しては、ひとりでも力を抜いてしまうとやられてしまう。ラインアウトも、(マイボールは)頭を使って、捕るところを選ばないといけない」

 日本のプラン通りのスクラムとは、長谷川慎スクラムコーチに指示を受けた「8人一体」のディテール(細部)にこだわる「キメ細かい」スクラムのことを指す。

 スクラムのリーダーのPR(プロップ)稲垣啓太によると、一人ひとりのディテールというのは、数cm単位の芝にスパイクを打ち込む足の上げ下げ、ひざの角度、上体の位置、姿勢などのことである。後ろ5人からのウエイトの押しは、W杯に入って、試合ごとに大きくなってきた。待つのではなく、前に組んでいくことで、フロントロー陣の足は数cm前に動き、姿勢を保つことになる。

 要は、8人がコンパクトにまとまって、どれだけ組めるかということだ。何もスクラムを全部、押し切る必要はない。エリアによって力の入れ具合も微妙に変わってくる。ピンチ、チャンスでの集中力。80分間、ディテールを遂行できるかどうか、だろう。

 大会公式記録をみると、日本は一次リーグでマイボールスクラムを21本組んで、1本だけ相手にとられた。マイボールのラインアウトの成功率は41回中37回と成功率は90%となっている。この数字は維持したい。

 嫌な展開と言えば、相手ボールのスクラムでペナルティーを犯すことだ。これは避けたい。こうなると、自陣のラインアウト、モールと悪循環をたどることになる。あまりセットプレーに時間を費やし、体力を奪われると、フィールドプレーに悪い影響をおよぼすことになる。

 堀江は「いつも通りにやることが大事」と強調した。

「冷静な部分と激しい部分を持ちながら、80分間、やり続けることができるのか。(ベスト8に)満足せず、気持ちを高めながら、落ち着かせながら。そのバランスが大事になる」

 加えて、大事なのは日本のディフェンスである。南アは「からだが大きくて、ボールキャリーを好むチーム」(スコット・ハンセン/ディフェンスコーチ)ゆえ、その突進をどう止めるのか。しっかりとボールキャリアの前にからだを持っていき、できるだけ、ふたりで対応(つまりダブルタックル)できるのかがポイントとなる。

 南アの得点力は高い。1次リーグでは、全20チーム中で最多得点(185点)、最多トライ(27本)をマークしている。対する日本は、総得点が参加チーム中8位の115点、総トライ数は11位の13本。日本としては、練習してきた前に出るラッシュディフェンス、ダブルタックル、細部にこだわるタックルスキルなどの精度が試されることになる。

 ブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)では、激しいフィジカルバトルは必至だろう。25歳のNo.8姫野和樹はW杯前の対戦には出場しなかっただけに、準々決勝を楽しみにしている。

「自分がどれだけ、南アフリカのフィジカルに対し、前に出ていけるのか。自分自身に期待しています。チームに期待しています。ワクワクしています」

 またW杯前の対戦では、南アはハイパントを多用し、キックしたボールの再獲得を狙ってきた。ここはバックスリー(両WTB=ウイング、FB=フルバック)のキャッチングの正確さもあろうが、周りのサポートプレーのはやさ、戻りも意識したい。

 日本は1次リーグでは、計13トライ中、うち9本を松島幸太朗(5本)、福岡堅樹(4本)の両WTBがマークした。それも、スクラム、ラインアウト、ブレイクダウンとFWの奮闘があったからだ。南ア戦も、FWの奮闘なくして勝利はない。

 南アのバックスにも強力ランナーが並ぶ。ハーフ団のキック、パス、ランの判断能力も高い。とくに170cmと小柄な”ポケットロケット”ことWTBチェスリン・コルビのスピードは抜群。175cmの”スピードスター”福岡とのマッチアップは見応え十分だろう。

 日本列島が熱狂する中、準々決勝は日曜日、午後7時15分にキックオフされる。この日は奇しくも、日本ラグビーの発展のために貢献した平尾誠二さん(2016年死去、享年53)の命日となる。また台風で被害を受けた人々への特別な思いもあろう。

 3大会連続のW杯出場となるSH(スクラムハーフ)田中史朗は、言葉に実感をこめた。

「”日本のために”という思いはチームみんなが持っている。日本のみなさんに勇気を届けられるよう、からだを張って戦いたいと思います」

 勝っても、もう番狂わせではない。4年前のW杯での歴史的な南ア戦勝利の歓喜をホームで再び、味わえるのか。チームのため、ラグビー界のため、日本のため。日本代表のキーワードは、「ONE TEAM」である。