シーズン前半の苦戦がウソのように、サマーブレイク明けの第13戦ベルギーGP以降は見違えるような速さを発揮しはじめた後半戦のフェラーリ。タイトル争いに絡むにはさすがに遅すぎたが「ようやく勝てるマシンを手に入れたフェラーリが、今年の鈴鹿で…

 シーズン前半の苦戦がウソのように、サマーブレイク明けの第13戦ベルギーGP以降は見違えるような速さを発揮しはじめた後半戦のフェラーリ。タイトル争いに絡むにはさすがに遅すぎたが「ようやく勝てるマシンを手に入れたフェラーリが、今年の鈴鹿でどんな戦いを見せてくれるのか?」。これは、今年の日本GPの大きな見どころだった。



日本GPで上位争いを繰り広げたフェラーリとメルセデス

 多くのドライバーが「世界最高のサーキットのひとつ」と認める鈴鹿。ここで勝つためにはドライバーのテクニック、マシンの戦闘力と信頼性、セッティング、そして、レース戦略とタイヤマネジメントなど、すべての要素を高レベルでまとめ上げる必要がある。

 2週間前、ソチで行なわれたロシアGPでは少しばかり躓いたものの、フェラーリが今の勢いを維持し、この鈴鹿でもライバルを上回る速さと強さを見せられるなら、残るシーズンの戦いはもちろん、来季への期待も大きく膨らむ。

 だが、予選でセバスチャン・ベッテルとシャルル・ルクーレルが1-2を決め、フェラーリがフロントロウを独占したにも関わらず、日曜午後のレースを支配したのはまたしてもメルセデス。バルテリ・ボッタスが今季3勝目を挙げ、メルセデスが「6年連続のコンストラクターズ・チャンピオン」を決めた。

 今回の日本GPを改めて浮かび上がってきたのは、絶対王者メルセデスと、未だに「発展途上」にあるフェラーリのコントラストだ。

 ベルギーGP以来、5戦連続のポールポジション獲得という結果が示すように、少なくとも予選一発の速さという点でいえば、今回もフェラーリには一定のアドバンテージがあったと見ていいだろう。一方で、レースペースやタイヤマネジメント関しては「メルセデス優位」との見方が強かったが、それでも、フロントロウの2台がレース序盤できっちりとポジションをキープできれば、ストレートラインの速さという武器を持つフェラーリにはレースをコントロールするチャンスがあると思っていた。

 ところが、ベッテルとルクレールは共にスタートに失敗してポジションを落とし、さらにルクレースは直後の1~2コーナーでアウト側を走っていたレッドブル・ホンダのマックス・フェルスタッペンに接触! フェラーリはレース開始からわずか数秒で「勝利へのシナリオ」を台無しにしてしまう。

「スタートの失敗は単なる自分のミス。(スタートシグナルより)一瞬、早くクラッチをつなげてしまい、止まろうとしたせいで、普通のスタートミスより酷いコトになってしまった」とベッテル。「フロントのダウンフォースを失い、アウト側に膨らんで(フェルスタッペンに)接触してしまった……」とルクレール。

 いずれも「単純なミス」と言えばそれまでだが、その代償は大きく、フェラーリの出遅れに乗じてトップに立ったボッタスは、その後、楽々とトップを快走して優勝。ベッテルはボッタスのテールを脅かすことすらできなかった。

 レース後「今週末は結果的にメルセデスの速さが上回っていたと思う」とベッテルは語っていたが、そのベッテルがレース終盤、ニュータイヤで背後から猛追するハミルトンを辛うじて抑えきり、チェッカーまで2位を守り抜いたことからもわかるように、ストレートの速さで勝るフェラーリをコース上でオーバーテイクするのは容易ではない。もし、スタートで2台のフェラーリが確実にメルセデスの前でポジションをキープできていれば、レース展開はまったく違うものになっていた可能性はあった。

 一方、スタート直後、1~2コーナーでの接触でフロントウイングにダメージを負ったルクレールは、その後、ノーズ交換で最後尾まで転落。そこから鬼神の追い上げを見せ4位でフィニッシ……と、攻撃的なドライビングで鈴鹿の観衆を沸かせた。

 だが、レース終了後に「フェルスタッペンとの接触」のペナルティで5秒加算。「ウイングが壊れたままの危険な状態で3ラップ目まで走り続けたこと」のペナルティで10秒加算と、合計15秒加算で7位降格……。ここではルクレールの未熟さと、チームの判断ミスが重なった。

「もし、スタートが成功していれば」「もし、オープニングラップの接触がなければ」、「あの時ダメージを受けたルクレールのマシンをすぐにピットインさせていれば」……。こうした小さな「ミス」と、いくつもの「もし」の向こう側で、目の前にあるチャンスを確実に刈り取れずにいるのが現在のフェラーリだ。その代償はシーズン後半に入りSF90の戦闘力が高まるつれて、むしろ、大きくなりつつある。

「全員が最大限の努力を続けていることは疑いようもないし、その成果も確実に出ている。その一方で、僕たちはまだ、小さなミスによってチャンスを失うことが多い。メルセデスと対等に戦うためには、チーム全体がすべての面でさらにレベルアップする必要があると思う」とレース後のベッテルは語っていた。

 彼自身のミスも含め、チーム全体の仕事の質を高め、「ミスを最小限に抑える」という部分で、現状、メルセデスとフェラーリの間には依然として大きな差があるのは事実だろう。

 もうひとつ、今回の日本GPで興味深かったのは、メルセデスがふたりのドライバーに採った「レース戦略」だ。スタートでトップに立ったボッタスが17周目、36周目とオーソドックスな2ストップ作戦を選択したのに対し、レース序盤、ベッテルに次ぐ3位につけていたハミルトンは、最初のピットストップを21周目まで引っ張ってから、ミディアムタイヤに交換。31周目にベッテル、36周目にボッタスが2度目のピットストップを行なうとリードを奪い、そのままトップを走り続ける。

「もしかすると、タイヤマネジメントに長けたハミルトンが、このまま1ストップで走り続けるのか?」一瞬、そんな思いが頭をかすめたのは、チームメイトのボッタスも同じだったようで、「ルイスは本当に2度目のピットインするんだよね?」と無線でチームに確認する一幕もあったほどだ。

 結局、ハミルトンは42周目に2度目のピットインを命じられ、3位でコースに復帰することになるのだが、ハミルトン自身は最初のタイヤ交換でハードタイヤを選択し、そのまま1ストップで走りきれば、自分が勝てるチャンスがあったと考えていたようで「チームが最適な戦略を採っていれば1-2フィニッシュも可能だった」と明らかに不機嫌だった。

 たしかに「2台とも2ストップ」という当初の作戦を柔軟に変更し、3位を走るハミルトンを1ストップ作戦に切り替えれば、ハミルトン、ボッタスの1-2フィニッシュとなる可能性はあっただろう。だが、その場合、ボッタスはまたしても「ナンバー2の憂き目」に遭い、スタートでトップに立ち、チームの指示どおりに走りながら、勝利をハミルトンに献上するというコトにもなりかねない。

 時に冷徹な「チームオーダー」を発令し、ライバルに対して2台のマシンを使ったチーム戦を仕掛けることが多いメルセデスだが、その際、「エース」ハミルトンのために犠牲になることが多いボッタスの「やる気」を維持することも、長いシーズンを戦い抜き、チームとして確実にポイントを稼いでいくうえでは重要なポイントとなる。

日頃のチーム戦略が「ハミルトン優先」で動くことが多いからこそ、時には「あえてエースに我慢させる」という選択が採れるあたりも、メルセデスが6年連続コンストラクタ―ズタイトルを獲得できた秘密のひとつなのかもしれない。