スタート直後の1コーナーで、観客席は悲鳴と溜め息に包まれた――。好スタートで3位に浮上したかに見えたマックス・フェルスタッペンが、フェラーリのシャルル・ルクレールに押し出されて最後尾に落ちてしまったからだ。「あれはいったい何だ!? ア…
スタート直後の1コーナーで、観客席は悲鳴と溜め息に包まれた――。好スタートで3位に浮上したかに見えたマックス・フェルスタッペンが、フェラーリのシャルル・ルクレールに押し出されて最後尾に落ちてしまったからだ。
「あれはいったい何だ!? アンダーステアを出して僕のマシン横に突っ込んできたんだ!」
アクシデントに巻き込まれて早々にリタイアしたフェルスタッペン
フェルスタッペンは無線でそう叫び、レース後の審議で自分の非を認めたルクレールには接触とその後の危険走行で、計15秒の加算ペナルティが科された。だが、フェルスタッペンが失った順位は、もう元には戻らない。
結局、フェルスタッペンはマシンのダメージが大きく、ダウンフォースを失って挙動が極端に不安定になったため、リタイアを強いられた。
「僕はハードなレーシングが好きだよ。でも、これはハードレーシングじゃない。ただの無責任なドライブだ。スタートが悪かったからそれを何とか取り戻そうと必死だったんだろうけど、長いレースなんだから、ほかにいくらでもやりようはあったと思う。僕はイン側にスペースを残していたし、僕としてはあれ以上どうすることもできなかった」
そして、レッドブル・ホンダのもう1台、アレクサンダー・アルボンはスタートでホイールスピンを喫してマクラーレンの2台に抜かれ、挽回すべくランド・ノリスのインに飛び込んだところで接触。その後もカルロス・サインツを抜いて4位でフィニッシュするのが精一杯で、表彰台争いに加わることができなかった。
地元グランプリで大勢の人々から応援の言葉をかけられたというホンダの田辺豊治テクニカルディレクターも、その声に応えることができなかったと大きく肩を落としていた。
しかし、これが現状のレッドブル・ホンダの実力だと、田辺テクニカルディレクターは語った。
「予選では各チームが2台ずつ並びましたから、現状の実力どおりの結果だったと思います。ホンダにとってはホームレースで残念な結果になりましたが、総じていえば、我々の実力のなかで持てる力を出せたレースだったかなと思います」
フェルスタッペンが生き残っていれば表彰台に立つことはできたかもしれないが、2強チームとの差は予選ではっきりと見せつけられてしまった。そのことがレッドブル・ホンダに大きな影を落とした。
フェラーリに0.787秒、メルセデスAMGに0.558秒。Q3最後のアタックで急にマシン挙動が変わってタイムを伸ばせなかったとはいえ、予選を通して2強チームとの差は想像以上に大きく、決勝でも彼らと戦えるレベルにはなかった。
「今週末はもう少し力強いパフォーマンスが発揮できればと思っていたんだけど、実際にはそこまでの速さがなかったと言わざるを得ない」(アルボン)
鈴鹿サーキットは中高速コーナーが連続してマシンの空力性能が問われる一方で、全開区間が長くパワーユニット性能も求められる。タイヤに厳しいサーキットであり、今年も予想以上のデグラデーション(性能低下)に悩まされたように、タイヤの扱いとレース戦略を組み立てる能力が問われる。
そしてもちろん、ドライバーの腕も試される。まさに、チームとしてのパッケージのすべてが高い次元で求められる。それが鈴鹿サーキットだ。そんなサーキットだからこそ、レッドブル・ホンダの抱える弱点がより克明にさらけ出されてしまった。
「今日のレース結果を見ても、各チームの差がものすごく大きかったと思います。一発の速さも当然ありますが、タイヤマネジメントも含めて車体パフォーマンスがもともと高いところにあるうえ、安定して走れるクルマが強い。
シーズン中盤戦あたりからこういった形のレースになってきていましたが、今日のレースを見ると、やはり鈴鹿は車体セットアップもパワーユニットのセットアップもドライバーも含めて、難しいサーキットです。実力の差が出やすいサーキットで、その実力がはっきりと出たかなと。我々がまだトップ2を追いかける立場だということが、予選・決勝の結果に表われたと思います」
鈴鹿のレース週末を前に、田辺テクニカルディレクターは「ミスなく力を発揮しきりたい」と目標を述べていた。
予選Q2ではフェルスタッペンのアタック中にエネルギーマネジメントの想定が狂い、ERS(エネルギー回生システム)のディプロイメントが切れる場面があった。だが、すぐに計算し直して数分後のQ3では問題なくアタックを完遂することができた。
また、新たに持ち込まれたエクソンモービルの燃料にも、きちんと合わせ込んでセッティングを煮詰め、想定どおりのパワーアップ効果を引き出すことができた。
ホンダとしては、この新型燃料とスペック4でメルセデスAMGに追いつくつもりだった。だが、まだ後れを取っているのが現状だと、開発責任者の浅木泰昭執行役員は語る。
「新型燃料はスペック4の燃焼特性に合わせたもので、自分たちが年頭に想定していた開発目標は達成することができました。それで、メルセデスAMGと肩を並べることができると思っていました。しかし実際には、他社のパワーの伸びが我々の想定より大きかったのかもしれません」
車体側も、シーズン前半戦にトップに追いつけなかったうえに、後半戦に入っても開発のペースは2強チームに後れを取った。
鈴鹿に投入予定だった新型フロントウイングは開発が遅れ、ウイング下の整流フィンの改良程度にとどまった。そして、持ち込んだ新型リアウイングはライバルに比べて明らかに薄く、ダウンフォースが足りずにマシンバランスが不安定になり、FP2では早々に旧型に戻して走ることになった。
アップデートが十分に機能せず、開発の遅れはさらに広がった。レッドブル・ホンダはマシンパッケージとチーム力、ドライバーのすべてを引き出したものの、その結果が0.787秒差という大きな差だった。
スペシャルな気持ちで臨んだ鈴鹿でのこの結果を、チーム全体が深刻に受け止めている。
今シーズンは、もう残り4戦と少ない。だが、同じレギュレーションで戦う来年に向けて、ここでしっかりとマシンの問題点を洗い出し、来季型のベースを仕上げておかなければならない。
「オーストリアでいい結果を得たこともあって、トップに追いついてきたなという手応えを感じていました。ですが、それはすべての条件が揃った時に、うまく回って優勝という結果に結びつけられただけです。
夏休み明けから各チームがアップデートを入れてきて、さらにそのギャップが開いてきたかと思っています。我々はパワーユニットのパフォーマンスと車体パフォーマンス、その両方を合わせたパッケージとしてのパフォーマンスアップが必要です」(浅木執行役員)
難攻不落の鈴鹿だからこそ浮き彫りにされた、レッドブル・ホンダの現在地。本当の勝負である2020年に飛躍するためにも、鈴鹿が与えてくれた教訓をしっかりと心に刻み、成長し、力強い姿で1年後の鈴鹿に戻ってきてもらいたい。