「試合巧者」という言葉は、鹿島アントラーズのほうがふさわしいと思っていた。しかし、ゲームを巧みにコントロールしたのは、川崎フロンターレのほうだった。 猛烈な台風が日本列島を襲った翌日、カシマスタジアムで行なわれたルヴァンカップ準決勝・第2戦…
「試合巧者」という言葉は、鹿島アントラーズのほうがふさわしいと思っていた。しかし、ゲームを巧みにコントロールしたのは、川崎フロンターレのほうだった。
猛烈な台風が日本列島を襲った翌日、カシマスタジアムで行なわれたルヴァンカップ準決勝・第2戦は、川崎がしたたかな試合運びを披露して鹿島を撃破。10月26日に行なわれるファイナルへの切符を掴んだ。
復帰した大島僚太はいきなり鹿島戦で輝きを放っていた
ホームで行なわれた第1戦を3−1でモノにしていた川崎に、精神的なゆとりがあったことはたしかだろう。勝ちか引き分けならもちろん、1点差以内の敗戦でも勝ち上がりが決まる状況である。唯一のネックは、アウェーゴールを与えていたこと。0−2の敗戦であれば、決勝進出は叶わない。
考えられる策は、ふたつあった。ひとつは守備的な姿勢を保ち、リードを守り抜くこと。もうひとつはアウェーゴールを奪い、相手にとどめを刺すことだ。
2点のリードを考えれば、前者を選択するのが常套手段かと思われた。
しかしそこは、攻撃スタイルを標榜する川崎である。早めに追いつきたい鹿島をあざ笑うかのように、圧倒的なボール支配で相手を押し込んでいく。鬼木達監督が「今日のゲームはアウェーゴールを獲ろうという形でスタートした」と明かしたように、川崎がまず示したのは、第1戦で許したアウェーゴールをチャラにしようという姿勢だった。
一方で川崎は、ただ闇雲に攻めたわけではない。彼らに見えたのは「やり切る」という意識。ボール回しに固執せず、パスが滞れば作り直すのではなく、多少強引にでもシュートに持ち込んでいく。
「鹿島は攻撃的になりすぎると隙を突いてくるのがうまいチーム。そこのリスク管理は意識しました」
中村憲剛が振り返ったように、いかに隙を与えないかがこの試合の川崎のテーマだった。悪い形でボールを失うのであれば、シュートで終わらせる--。そんな割り切りが、川崎のプレーからは垣間見えた。
また、ベテランふたりの献身性も見逃せない。第1戦で温存された中村と小林悠である。前線で縦関係を組む重鎮コンビは、攻撃で違いを生み出すだけでなく、相手ボールになれば執拗なプレスで出しどころを封じた。小林は言う。
「憲剛さんとふたりで相手のボランチをチェックするところは徹底しました。点を獲りにいく意識はありましたけど、失点しないことも重要。前線の守備だったり、そういうところはうまくできたと思う」
アウェーゴールを狙って攻撃しつつ、守備もしっかりして相手に隙を与えない。そのアンビバレントなテーマを両立できたのは、川崎に備わるボール支配のテクニックに加え、チーム全体に行き渡ったリスク管理の意識があったからに他ならない。とりわけ、前半は完璧とも言える内容で、本来は攻勢を仕掛けたかった鹿島の気勢を削ぎ、1本のシュートも打たせなかった。
加えて、川崎にとって大きかったのは、大島僚太の復帰だろう。
故障で長期離脱を強いられていたナンバー10は、4日前に行なわれた第1戦で復帰すると、途中出場からいきなり決勝点を演出する活躍を披露。この日も57分からピッチに立つと、卓越した技術と戦術眼を駆使し、わずかに鹿島側に傾きかけた流れを引き戻すパフォーマンスを見せつけた。
大島のパスワークを起点に、川崎は終盤にも多くの決定機を生み出した。本来であれば、負けているチームがなりふり構って攻め込む時間帯である。しかし、川崎は最後までボールを支配することで、相手に攻撃の時間を与えなかった。結局試合はスコアレスドローに終わったものの、まるで危なげない戦いぶりで、試合巧者の鹿島を完全に寄り切った。
「個人的に、鹿島は憧れというか、ああいうチームになりたいという思いを持っていた。今日は隙のない試合運びや結果にこだわるところを、自分たちも出せたと思う」
小林が話したように、川崎の戦いぶりは、勝つべきチーム、結果を出せるチームの風格を携えていた。
ただ、リーグ戦では2連覇を達成している川崎だが、このルヴァンカップのタイトルはまだない。これまでに決勝に4度コマを進め、すべて敗れている。川崎が長く「シルバーコレクター」と呼ばれてきたゆえんである。
個人としては3度、決勝で敗れている中村は、「全部負けているんで、悔しい思い出しかない」と言う。しかし、「喜びに変えるチャンスが来た。(決勝の相手である北海道コンサドーレ札幌は)攻撃的でアグレッシブなチームだと思います。守り合いにはならないと思うし、攻撃的な戦いになると思うので、楽しみにしています」と、決勝に向けての意気込みを語っている。
リーグ戦では首位の鹿島に勝ち点8差をつけられており、3連覇の実現は厳しくなっている。ACL、天皇杯も敗れるなか、このルヴァンカップがタイトル獲得の最後のチャンスとなるだろう。試合巧者の資質を手にしたチームは、果たしてほろ苦いカップ戦の歴史に終止符を打つことができるだろうか。