トーナメント形式の高校野球でベスト8が激突する準々決勝は、最も見ごたえのある一日だと言われる。夏の大会では、それがお盆の休日や夏休みに重なってくるため、スタンドも例年満席となる。この夏も満席の甲子園で準々決勝が行われたが、その第3試合。北海…
トーナメント形式の高校野球でベスト8が激突する準々決勝は、最も見ごたえのある一日だと言われる。夏の大会では、それがお盆の休日や夏休みに重なってくるため、スタンドも例年満席となる。
この夏も満席の甲子園で準々決勝が行われたが、その第3試合。北海と聖光学院の試合では、一塁側アルプススタンドの北海応援席のぽっかりと穴が開いたままの状況で試合が始まった。北海の応援ブラスバンドが事故渋滞に巻き込まれ、予定通りに到着しなかったのだ。それでも試合はそんなことにお構いなく始まってしまう。
■ブラスバンドのない応援
北海応援席は、とりあえず声だけの応援でしのいでいたが、広い甲子園では相手のブラスバンドの音に対してあまりにも非力だ。だからということでもないのだろうが、北海は初回の守りでエースの大西健斗君が連続死球を与えるなどピンチを招いて、たちまち3点を失ってしまっていた。聖光学院応援席からのブラスバンドの音が容赦なく北海ナインを攻め続けていた。
それでも北海は2回にすぐに2点を返した。しかし、まだアルプス席の一部は空席のままだった。観ているこちらも「果たして試合中に間に合うのだろうか」と、何だか心配になってきた。試合も北海が相手に主導権を奪われているような感じだけに、余計に同情していた。
3回の攻撃途中にようやくブラスバンドが到着。一塁側アルプス席では、控えの野球部員たちも手伝って慌ただしく態勢が整っていき、4回からの攻撃に備えた。その応援に乗って下方忠嗣君が右前打で出る。9番鈴木大和君も上手に一二塁間に転がして一死一二塁。二死となったが、菅野伸樹君がブラスバンドの声援に乗って右前打して同点。
さらに3番佐藤佑樹君はブラスバンドによる懐かしい美空ひばりのヒット曲『真赤な太陽』のアレンジマーチに乗って、中前タイムリー打を放って逆転した。応援ブラスバンドが到着したことで反撃した北海。この勢いは5回も続いて、川村友斗君が右中間へソロアーチ。さらに、チャンスを作ってセーフティースクイズでもう1点加えた。
北海は8回にも川村君の右中間二塁打でダメ押しともいえる1点を加えた。序盤、ブラスバンドが遅延となっているなかで不安のまま始まった試合は、ミスや思わぬ死球もあって3点ビハインドという最悪のスタートだった。それがブラスバンドの到着とともに同点となり、さらに逆転。
試合の主導権を奪い返したのだが、こういうシーンを見ると「高校野球はアルプススタンドと一緒に戦っている」ということを改めて感じさせられる。北海はブラスバンドとともに創部116年目にして初めて、夏の甲子園の決勝進出を果たした。新しい歴史を作った伝統校だったが、『真赤な太陽』のアレンジマーチが妙に印象的で、昭和の匂いを残した伝統校の香りもしていた。
■止むことのない手拍子
スタンドの応援力といえば、こんな試合もあった。大会8日目の第3試合、八戸学院光星対東邦。7回表終了時点で9-2と、地区大会であればコールドゲームという大差で八戸学院光星にリードを許していた東邦。その裏に2点を返して、8回にも1点を返していたが、それでも4点差で迎えた9回最後の攻撃だった。
この回、先頭の鈴木光稀君が打席に立つと、一塁側アルプス席から手拍子が響きだした。いつの間にか、スタンドは東邦ブラスバンドの演奏にも乗って全体が手拍子。やがて、タオルをグルグルと回す近年流行の応援スタイルとなって、これが止むことなく続いた。
その雰囲気のなかで、東邦は3番松山仁彦君の右前タイムリーで1点を返した。注目の藤嶋健人君は倒れたが、応援の勢いは止まらない。その勢いに乗って小西慶治君、途中出場していた中西巧樹君が連打し、7番高木俊君の二塁打でついに同点。さらに、ここまで無安打だった鈴木理央君が左中間を破ってついに4点差をひっくり返して歓喜の逆転サヨナラ劇となった。
改めてスタンドの応援の力を感じさせるものだった。東邦の森田泰弘監督も、「ビックリしたというよりも、私も長いこと高校野球に関わらせていただいていますが、こんな経験は初めてでした。ベンチでいても、涙が出てきました」と興奮気味だった。
それにしても、やはり高校野球には応援の力は不可欠と思わせてくれた、今大会を象徴した二試合だった。
ブラスバンドの席が空いたままの北海応援席
やっと埋まってきた北海応援席
大慌てで準備する北海応援席
さあ、整った反撃開始の北海
スタンド全体が応援
「ありがとうございます」勝利の報告の北海ナイン