5月にアヤックスがチャンピオンズリーグ(CL)でベスト4まで進出し、6月にオランダ代表がネーションズリーグで準優勝を果たした。DFフィルジル・ファン・ダイク(リバプール)はFIFAFが選ぶ年間最優秀選手3人にノミネートされ、MFフレンキー…
5月にアヤックスがチャンピオンズリーグ(CL)でベスト4まで進出し、6月にオランダ代表がネーションズリーグで準優勝を果たした。DFフィルジル・ファン・ダイク(リバプール)はFIFAFが選ぶ年間最優秀選手3人にノミネートされ、MFフレンキー・デ・ヨング(アヤックス→バルセロナ)とDFマタイス・デ・リフト(アヤックス→ユベントス)はビッグクラブへのステップアップを果たした。
北アイルランド戦で2ゴールを決めたメンフィス・デパイ
さらに、今季はオランダリーグ勢がCLとヨーロッパリーグ(EL)でコツコツとポイントを貯め、欧州リーグランキングの単年度成績では1位を獲得。CL・EL出場枠を決める5年間の総合ランキングでは暫定9位と、念願のトップ10に返り咲きを果たせそうな勢いだ。
オランダサッカーが暗黒時代を抜け出しつつあるのは、間違いないところ。しかし、同時に「産みの苦しみ」も味わっている。それは、選手の評価が上がったことで高いレベルのクラブに移籍しやすくなった反面、そこで実力を発揮するのに時間がかかる問題だ。
デ・リフトはユベントスで失点に絡むことが何度かあり、F・デ・ヨングはレギュラーとはいえまだ本領を発揮しているとは言いがたい。選手個人のことだけを見れば仕方のない面もあるが、代表チームが現在進行形で試合を重ねているなか、それでは困ることでもある。
また、FWルーク・デ・ヨング(PSV→セビージャ)は昨季、ドゥシャン・タディッチ(アヤックス)と得点王を分け合ったのに、今季スペインリーグではノーゴールだ。ドイツやイングランドでうまくいかず、オランダに戻ってきてPSVで再度実力アップを図り、満を持してスペインリーグへ飛び込んだが、それでも異国でプレーすることは簡単ではない。
F・デ・ヨングはセビージャとのナイトゲームをプレーしてからオランダ代表に合流したため、疲労の色が濃かった。バルセロナとアムステルダムの飛行時間は2時間ほど。それでも、代表とクラブの掛け持ちは、アヤックス時代より負荷が高いのだと言う。いずれ移動にも慣れるだろうが、今は環境の変化に戸惑いがあってもおかしくはない。
10月10日の北アイルランド戦を前に、オランダ代表のロナルド・クーマン監督は、練習が今ひとつピリッとしなかったことを明かした。移籍先で格闘する選手たちのメンタルや、ここ数年で急に増えたハイレベルな試合による疲労の蓄積など、さまざまな要因がそこにはあるのだろう。
だが、どんなに所属クラブで苦しんでいても、今のオランダ代表には変わらぬものがひとつある。それは、「最後に勝つのはオランダだ」という、まるでかつてのドイツ代表のような勝者の精神だ。
ここ2年のオランダは、「今日は勝てないだろう」「今日は負けたな」というような展開でも、劇的なゴールで勝ったり、貴重な勝ち点1を得たりしてきた。9月のドイツ戦も前半はいいところなく、0−1のビハインドで折り返したものの、終わってみればアウェーの地で4−2という歴史に残る快勝を収めていた。
今回の北アイルランド戦も、そんなゲームだった。前半はドイツ戦を研究されたのか、MFマルテン・デ・ローンや右SBデンゼル・ダンフリースがフリーマン(ボールの処理をしていない選手)になる形を作られた。「オランダの頭脳」F・デ・ヨングにマンツーマンでマークがついたうえに、CBコンビのデ・リフトとファン・ダイクにも厳しいチェックが入り、前線にボールを供給できなかった。
後半はスペースが生まれて、オランダもようやく攻勢に出る。だが、75分にデ・リフトと左SBデイリー・ブリントが続けてクロスの処理を誤ってしまい、北アイルランドに1点を先制されてしまった。
0−0の段階でMFドニー・ファン・デ・ベークとFWドニエル・マレンを投入する「プランB」の2枚替えを予定していたロナルド・クーマン監督だったが、この失点によって78分にL・デ・ヨングもスーパーサブとして前線に送る「プランC」を敢行した。
この「プランB」と「プランC」の合わせ技によって、オランダは4、5人が敵陣ペナルティエリアになだれ込む攻撃サッカーを展開。結果、81分にメンフィス・デパイ、91分にL・デ・ヨング、94分に再びデパイと、3点を一気に連取してしっかり勝ち切った。
オランダが打ったシュートは21本。対する北アイルランドはわずか2本だから、オランダの順当勝ちであることに間違いない。試合後、北アイルランドのマイケル・オニール監督は途中出場した敵陣選手の名前を挙げながら、「3人ともトッププレーヤーだった」とオランダの選手層の厚さに舌を巻いた。
だが、実際には20代半ばから30代の選手が多数を占める北アイルランドの老獪なサッカーに、オランダは押し切られそうだった。それでも不振のデパイが起死回生のゴールで1−1にすると、オランダはアディショナルタイムに2点を追加して勝負を決めた。
これまで逆転で勝利してきた成功体験の積み重ねが、オランダを最後まであきらめないチームに変えたのだろう。結果、今季不振の選手たちは、代表チームでかつての自分を思い出したようだ。
たとえば、L・デ・ヨングの逆転ゴールは他のストライカーがマネのできないものだ。左サイドからのクロスがファーに流れてくると、長いリーチを伸ばしてゴールラインのギリギリのところで足に当て、ボールが宙に浮いたところを再度押し込んでのゴールだった。
初めて彼のプレーを見た人は、このゴールを偶然だと思うかもしれない。だが、私は「彼らしいセンスが現れたゴールだ」と感じている。これがL・デ・ヨングにとって、うれしい今季初ゴール。このフィーリングをセビージャに持ち帰って、ゴール量産につなげてほしい。
2016年のユーロ、2018年のワールドカップと、ビッグイベントを2度逃したオランダにとって、北アイルランドに2点差をつけて勝ったのは大きい。2020年ユーロ予選のグループCでは現在、北アイルランドが1試合多いものの、オランダはドイツ、北アイルランドと勝ち点12で並んでいる。
UEFA主催大会では勝ち点で並んだ場合、当該国同士の対戦成績で順位が決まる。オランダはドイツに対して1勝1敗だが、両チーム同士の得失点差で優位に立っている。11月に行なわれるアウェーでの北アイルランド戦では、仮に負けたとしても1点差で収めたいところだ。
「個の力」「サッカーの質」ではオランダが北アイルランドを上回っているのは間違いない。だが、あらためてスタジアムで感じたのは、北アイルランドが骨太のサッカーをするチームである、ということだ。ベルファストで開催される北アイルランドvsオランダは死闘になりそうな予感しかない。