■日本GPでは過去5年連続でメルセデスが優勝を飾っているが、1991年以来となるホンダの母国GP制覇なるか! 日本のファンの期待が膨らんでいる。しかも金曜日のフリー走行では国内最高峰のスーパーフォーミュラとスーパーGTで昨年ダブルタイト…

■日本GPでは過去5年連続でメルセデスが優勝を飾っているが、1991年以来となるホンダの母国GP制覇なるか! 日本のファンの期待が膨らんでいる。しかも金曜日のフリー走行では国内最高峰のスーパーフォーミュラとスーパーGTで昨年ダブルタイトルを獲得した山本尚貴が登場し、トロロッソ・ホンダのマシンをドライブすることも決まった。今年の鈴鹿は大いに盛り上がりそうだが、DAZNのF1解説を担当している元F1ドライバーの中野信治氏に日本GPの見どころを聞いた。



日本グランプリで今季3勝目をめざすレッドブル・ホンダ

 日本GPでは過去5年連続でメルセデスが優勝していますが、やっぱり今年もメルセデスが強いと予想しています。

 鈴鹿は、メルセデスの良さが出やすいコースだと思います。中高速コーナーが多く、スピード領域、エンジンのドライバビリティ(使いやすさ)、空力特性などが、メルセデスのマシンにぴったりと合っているような気がします。

 加えてハミルトンは日本GPで2年連続ポール・トゥ・ウインを決めており、鈴鹿を得意としています。シャシー(車体)、パワーユニット(PU)とドライバーを含めたパッケージングという意味でもメルセデスが強いのかなと思っています。

 フェラーリもかなり手ごわいでしょうね。4戦連続でポールポジション獲得中のルクレールは速いと思いますし、ベッテルも鈴鹿は得意としています(日本GPで過去4勝)。PUに関しては、フェラーリが一歩抜けていることは確かですので、シャシーをうまくセットアップを決めてくれば、メルセデスと互角の勝負ができると思っています。

 そう考えると、レッドブル・ホンダが日本GPで優勝するためのハードルは高いと言わざると得ません。でも鈴鹿は、空力性能が重要なサーキットなので、レッドブルのシャシーには合っていると思います。

 PUに関しては、ホンダは日本GP前のロシアでレッドブルとトロロッソの4台に新しいPUを投入していますが、ソチでは鈴鹿を見据えて無理をしていない可能性はあります。鈴鹿はPUの性能もタイムに寄与するコースなので、ホンダがどれぐらいPUで攻めることができるのかが、勝負のカギを握ると思います。

 日本の多くのファンは、ホンダが鈴鹿で勝つことを期待しています。もし実現すれば、91年のゲルハルト・ベルガー(マクラーレン・ホンダ)以来の母国GP制覇となります。もちろん僕も日本人のひとりとしてレッドブル・ホンダが勝ってくれることを願っていますが、ドライよりはウエットになったほうがチャンスは増えると予想しています。

 鈴鹿は、ドライコンディションではPUとシャシーのパッケージとしての高いバランスが求められます。その点ではレッドブル・ホンダは若干ですが、メルセデスとフェラーリに劣っている印象です。

 でも雨になれば、ホンダのPUのドライバビリティの良さを生かすことがきますし、マックス・フェルスタッペンは雨が得意です。レッドブル・ホンダが勝つ可能性はかなり高くなると思っています。

 日本GPの舞台となる鈴鹿は過去の戦績を見ると、ポール・トゥ・ウインになるケースが多い。中高速のコーナーが多いため、ハードブレーキングをするコーナーがないので、追い抜きを仕掛けるのがすごく難しいからです。

 1コーナーはDRS(可変リアウイング)があるので追い抜きは可能ですが、それでもかなり難しいと言えます。それ以外のオーバーテイクポイントはシケインですが、スプーン・コーナーを立ち上がって高速の130Rまでの間に結構なスピード差をつけないとなかなか仕掛けることができません。同じぐらいの走行スピードでは、イン側をおさえられてしまうと、どうにもなりません。

 そんな抜きづらいコースだからこそ、土曜日の予選がドライバーにとってはすごく大事ですし、ファンにとっては面白いんです。メルセデス、フェラーリ、レッドブル・ホンダの”3強”によるポールポジション争いは僅差の勝負になると思いますが、ある意味、それ以上の接戦になるのがトロロッソ・ホンダを含めた中団グループの順位争いです。どのチームが3強の次に来るのか。そこはすごく楽しみにしています。

 あとは何よりも現代のF1マシンのスピードをぜひ見てほしい。とくに1コーナーから高速のS字にかけては、信じられないほどの速さになっています。乗っているドライバーは慣れてしまうのでどうってことないのですが、外から見ていると、しびれるでしょうね。

 僕はDAZNの解説があるので見に行けないですが、チャンスがあったら客席で見たいぐらいです。1コーナーの突っ込みやS字コーナーを駆け抜けていくスピードを目の当たりにすると、F1マシンのポテンシャルの高さとドライバーの凄味をあらためて感じるはず。それは画面を通しても伝わるはずなので、ぜひ日本GPを見てほしいと思います。

 最後に、日本GPでは山本尚貴選手がトロロッソ・ホンダのマシンをドライブして、金曜日のフリープラクティスに出走することが決まりました。せっかくF1を走るチャンスを得たのですから、尚貴には日本のスーパーフォーミュラ(SF)のチャンピオンとして、いい走りを見せてほしい。

 彼が速いタイムで走ってくれれば、SFのレベルの高さが認められ、日本人ドライバーの評価も上がります。今、尚貴に続く若いドライバーたちがF1を目指して国内外で頑張っていますが、彼らにとってもいい刺激になるはず。

 鈴鹿は尚貴にとって走り慣れたコースなので、いいタイムで走ってくると思っています。ファンの皆さんにも注目してほしいです。


photo by Yamamoto Raita

■プロフィール 中野信治(なかの・しんじ)1971年生まれ。F1、アメリカのCARTおよびインディカー、ルマン24時間レースなどの国際舞台で長く活躍。現在は日本最高峰のスーパーフォーミュラとスーパーGTに参戦するTEAM MUGENの監督を務めながら、佐藤琢磨とともにSRS(鈴鹿サーキットレーシングスクール)の副校長として若手ドライバーの育成を行なっている。世界各国での豊富なレース経験を生かし、DAZN(ダゾーン)のF1解説も担当している。