オランダのサッカーで、「投資する」という言葉を聞くことがある。これは「何かに投資をしてお金を儲ける」という意味ではなく、自分たちがボールを散らしたりして、相手を疲弊させたり、組織の穴が空くのを待つ、というニュアンスが込められている。 PS…

 オランダのサッカーで、「投資する」という言葉を聞くことがある。これは「何かに投資をしてお金を儲ける」という意味ではなく、自分たちがボールを散らしたりして、相手を疲弊させたり、組織の穴が空くのを待つ、というニュアンスが込められている。

 PSVは61分、FWステーフェン・ベルフワインがVVVフェンロのゴールをこじ開けて先制点を決めると、そこから10分間で3点を連取。結局、4-1で勝利したPSVは、前半からの”投資”を快勝につなげた。



徐々に攻撃陣との息も合ってきたPSVの堂安律

 この日、右サイドハーフとして先発した堂安律は、0-0で終わった前半を振り返り、「前半、サポーターからたくさんブーイングがありましたけれど、やっている僕らは悪くは感じてなかった」と言う。

「ハーフタイム、焦りの声はなかった。少しずつ(相手ゴールに)近づいているぞという手応えはあったので、僕も含めて焦りはまったくなかったですね」

 PSVの弱点は、ポゼッションを握っても中盤の創造性が足りず、攻撃が単調になりがちなところだ。VVV戦の前半もチーム全体として横パスが多く、攻めにスイッチが入らなかった。

 そのなかで、堂安は攻撃に変化をつけようと、さまざまな工夫をしていた。アーリークロスを入れてみたり、ルックアップしている相手からボールを奪ってショートカウンターの起点になろうとしたり、味方からのパスをスルーしてからゴール前に飛び込んでみたり、ボールホルダーの大外からパスを受けてクロスを入れてみたり……。

「これまでVVVとはフローニンゲン時代に3、4回対戦していて、サイドハーフの僕に対してサイドバックがついてくる傾向がある。(パスを)出して動いていれば、後半空いてくるのはわかっていた。逆に後半は『止まっていたほうがいいな』と感じていたので、まったく動かなかった」

 堂安が止まったことで、PSVの先制ゴールが生まれた。61分、PSVが後方からビルドアップを開始すると、ベルフワインが前線でフリーランを開始した。この瞬間、堂安はベルフワインの後方にとどまり、右前にスペースを作った。

 そのあたりの連係は、ハーフタイムに話し合って決めたと言う。
 
「今日の相手はマンツーマンでついてくるので、変に自分が動くと味方のスペースを消してしまう。ステーフェン(ベルフワイン)の1点目のゴールは、止まった僕にサイドバックがついてきたから、ステーフェンとDFが1対1になった。僕は(ゴールに直接)関与してないですが、イメージどおり。ステーフェンに1対1の場面を作ってあげれば、相手を崩せるとわかっていましたから」

 65分にベルフワインのクロスからSBデンゼル・ダンフリースが豪快なヘッドで決めたゴールは、CKからの2次攻撃によって生まれた。そのCKを奪えたのは、堂安が浮き玉でFWコーディ・ガクポにくさびを入れたプレーがきっかけだった。

 堂安は右サイドからのカットインシュートを武器とする。しかし、VVVがしっかりとブロックを作って守っている状況のなか、カットインでこじ開けるのは至難の業だ。そこで堂安は、目の前にいる敵の頭上を越すパスによって、その局面を打開しようとしていた。

 3日前に行なわれたヨーロッパリーグのローゼンボリ戦(4-1でPSVの勝利)で2ゴールを決めたFWドニエル・マレンに、堂安はラストパスを2本通して2アシストを記録した。

「やっぱり9番(マレン)は今日も動き出しがいい。彼にチップで出したボールも、今までになかった感覚で出せました」

 PSVに移籍して1カ月--。ベルフワインやマレンなど、攻撃の主軸たちとの連係も徐々に高まっているように思える。だが、ショートコンビネーションやちょっとしたつなぎのパスで呼吸が合わないシーンも、まだ少なくはない。

「今はコミュニケーションをチームと取っている状況です。監督もそれはわかっている。ただ毎回、すごくいい未来が想像できるようなゲームになっていますね」

 PSVはVVV戦で大量4ゴールを奪ったが、80分間プレーした堂安はゴールもアシストもゼロ。しかし、0-0の均衡を破るまでの「投資のプレー」が評価されたのか、地元紙『アイントホーフェン・ダッハブラット』や全国紙『アルヘメーン・ダッハブラット』は、ともに7という高採点をつけた。

「試行錯誤しながらプレーしたのが、後半ハマったのかなと思います」と堂安は言った。

 今回のインターナショナルマッチは、日本代表選手にとって過酷な移動が待っている。堂安もオランダ→日本→タジキスタン→オランダと、移動の連続だ。

「しかも、昨日までノルウェーにいた(笑)。ノルウェーでやって、オランダでやって、日本でやって、タジキスタンでやって、それから帰ってくる。なかなかないことですね」

 今年1月のアジアカップ以降、フローニンゲン時代の堂安はオランダリーグで1ゴールと調子を落とした。その一因として、日本代表での長距離移動が指摘されたこともある。

「コンディションを合わせるのは簡単ではないですけれど、これが少しずつサッカー選手として成長している証だと思います。人生を変える場面が毎週2試合あるのはありがたいこと。今から準備をして明日の便で日本に帰るのも、またいい経験になります。コンディションを落とさずできることが一流だと思うので、そういう選手になっていきたい」

 モンゴルもタジキスタンも、今回のVVVのようにしっかりとブロックを作って守り、日本を焦らすような展開に持ち込もうとするかもしれない。チャンスをすぐゴールに結びつける理想的な試合運びができればいいが、そうでなかった場合、「投資」をしてから一気呵成に勝負をつけるPSVのような戦い方も参考になるだろう。