ルクレールとベッテルのチームメイト同士の争いが白熱してきた いきなりで恐縮だが、今「フェラーリが旬」である。もちろん、今週末に迫ったF1日本GPで最大の注目ポイントは……と聞かれたら、当然「レッドブル・ホンダ&マ…



ルクレールとベッテルのチームメイト同士の争いが白熱してきた

 いきなりで恐縮だが、今「フェラーリが旬」である。もちろん、今週末に迫ったF1日本GPで最大の注目ポイントは……と聞かれたら、当然「レッドブル・ホンダ&マックス・フェルスタッペンの活躍やいかに?」という話になるのだろう。

 だが、そういうのはすでにどこかで誰かが書いているに違いない……。そこで、F1の魅力を知り尽くした「大人のファン」の皆様に、ぜひともご提案したいのが「旬を迎えた秋のフェラーリを味わい尽くす」という日本GPとF1シーズン終盤戦の楽しみ方だ。

 ここ数年、不作が続いていたフェラーリ。だが、今年は猛暑の夏を乗り越えてシーズン後半に入って熟成が一気に進み、力強い味わいと繊細で複雑な香りが魅力で「期待と不安と愛憎がグラスの底で渦巻く」最高の仕上がりになってきた。このまま行けば2019年はいろいろな意味でフェラーリの「ヴィンテージイヤー」となりそうである。

 何が「最高の仕上がり」なのか? その理由は現在のフェラーリが単に「速くて、強い」だけでなく「ちょっとヌケていて、かなりモメそう……」でもあるからだ。

 まずは「速くて強い」だが、シーズン後半に入ってから見せたフェラーリの速さはメルセデスをはじめとしたライバルチームはもちろん、おそらくフェラーリ自身にとっても「驚き」だったに違いない。課題だった予選では4戦連続のポールポジション! コース特性やコンディションの違いを問わずに、安定した速さと強さを見せるようになってきた。

 これにより、シーズン前半の「メルセデス1強状態」は崩れ、今やメルセデス、フェラーリ、レッドブルの「3強」の中で、マシンの戦闘力ではフェラーリが最強だと言われている。メルセデスやハミルトンが圧倒的なリードを築いてしまったタイトル争いで挽回するには時すでに遅し…という感じだが、このフェラーリの「変身」によって、今週末の日本GPも含め、後半戦のF1が一気に面白くなってきたのは事実だろう。

 だが、思い返してほしい。そもそも、シーズン開幕前の下馬評では多くのF1関係者が「今年のフェラーリはメルセデスを凌ぐ最速マシン。チャンピオン候補の筆頭だ」と予想していたのではなかったか? そんな開幕前の期待を、シーズン前半の躓きという「ネガティブな驚き」で思いきり裏切り「メルセデスのライバルはフェラーリよりレッドブル・ホンダかも……」と周囲が思い始めたタイミングで、今度はいきなり「驚きの速さと強さ」を発揮するフェラーリの、なんと人騒がせでドラマチックなことか。

 もちろん、その背景には「もともとポテンシャルの高かったマシン」の存在と、フェラーリがシーズン後半に向けて「潜在的な性能を引き出すための空力アップデートやセッティングの方向性」を見出したという理由と、チームの地道な努力があるのは間違いない。

 とはいえ、ティフォッシの心を振り回し「思いっきり期待させて裏切りながら、あきらめかけると、また期待を刺激する」という、フェラーリの「悪女」っぷりは強烈で、そのギャップも含めて「Mっ気半分」で楽しむのが「大人のファン」の嗜み。その点、期待値が大きく上向いているシーズン後半のフェラーリは、この先に待つ不安要因も含め、ここ数年で最高の状態にあると言っていい。

 一方、こうして「F1最強」のマシンを得たフェラーリの魅力をさらに倍増させてくれるのが、前述のとおり、フェラーリのもうひとつの側面。すなわち「ちょっとヌケけてて、かなりモメそう…」という「不安要因」だ。

 単に速くて強いのが魅力なら誰にでもわかるだろうが、大人のファンはちょっと違う。ようやく最強のマシンを得たにも関わらず、ティフォッシたちの気をもませる「失敗」や「内紛」の不安が絶えないことが、実はフェラーリの魅力を味わい尽くすための、絶妙なスパイスなのである。

 そこでまず「内紛」の火種だが、こちらは言うまでもなく、期待の超新星、シャルル・ルクレールとセバスチャン・ベッテル。チームメイトふたりの間で膨らむ「緊張関係」に注目したい。

 経験豊富な元F1世界チャンピオンと、急激に頭角を現してきた若きイケメンドライバーの「世代交代」をかけた争い……。まるで、往年の「セナ・プロ対決」を思わせるような両者のライバル関係は、すでに前半戦の時点で膨らみ始めていたが、シーズン後半に入り、フェラーリの戦闘力が上がったことで、一気にヒートアップ。今やフェラーリが抱える最大の「火薬庫」であり、両者の間で飛び散る青い火花が火薬に引火すれば、大惨事になりかねない……。

 フェラーリに抜擢されたばかりのモナコ人イケメンドライバー、ルクレールは自信に溢れ、一気にトップドライバーへの道を駆け上りつつある。内心「フェラーリのエースは俺だ!」と思っているに違いないし、おそらく、今シーズン中にベッテルをぶっ潰し、その立場を確固たるものにするつもりだろう。

 一方、そんな若きルクレールの勢いとプレッシャーに焦ったのか、一時は「自己崩壊気味」だったベッテルも、シンガポールGP以降は「元世界王者の意地」を取り戻しつつある。レッドブル時代に2度のF1世界チャンピオンに輝き「次は名門フェラーリで王座を」という夢に向けて戦い続けてきたベッテルにとっても、エースの座をそうやすやすと手放すわけにはいかないはずだ。

 問題は、そんなふたりのドライバーの緊張感をチームがうまくコントロールできるのか……という点だ。とくにシンガポールGPの一件(※ピットインのタイミングが影響し、トップを快走していたルクレールをベッテルが逆転)以来、ルクレールの不満は急激に膨らみつつある。その不満は、続くロシアGPでベッテルが「レース序盤にルクレールにポジションを譲る」という、事前の「チームオーダー」を守らず、しばらくトップを走り続けたことによって、さらに高まっているようだ。

 公言こそしないものの、ルイス・ハミルトンがナンバー1で、バルテリ・ボッタスがナンバー2という、チーム内の序列があるメルセデスと異なり、今のフェラーリには明確なドライバーの序列がない。これは、マシンやドライバーの速さだけでなく、ピットストップなどの戦略が大きな意味を持つ現代のF1で「戦略の選択肢」が限られることを意味している。

 かつて、フェラーリ黄金期の絶対的ナンバー1、ミハエル・シューマッハと、万年ナンバー2のルーベンス・バリチェロがそうだったように、ドライバーの明確な序列がある場合には、常にナンバー1が優先され、ドライバー同士の「公平」など無視して、勝利のための最適なレース戦略を選択することが可能だった。今年のシンガポールGPでメルセデスがハミルトンの順位を優先し、ボッタスに敢えて「ペースを落とせ」と指示した場面などはその好例だ。

 そんなメルセデスと戦うために、フェラーリもソチでは「予選ポールポジションのルクレールがスタートでスリップストリームを使わせて、3位のベッテルをアシストする」という、「チーム戦」を仕掛け、その狙いどおり、オープニングラップでフェラーリの1-2体制を確立したわけだが、結局「ベッテルがルクレールにトップを譲る、譲らない」で、また「もめ事のタネ」を増やしてしまい、それ以外にもいろいろと戦略の「ポカ」が多いのがフェラーリの不安なところである。

 だが、現実的に考えて、フェラーリに今シーズンの逆転タイトルは難しそうだ。そうであるなら、むしろ、慣れないチームオーダーで変な小細工をするよりも、残るシーズン、ベッテルとルクレールを、思いっきりコース上で戦わせたほうが、来季以降に妙な遺恨を残さないためにはいいのかもしれない。

 もちろん、時にはそれが「凶」と出て、メルセデスやレッドブルに、漁夫の利を与えるコトもあるだろう。だが、冷たい計算ではじき出される「チーム成績の最適化」ではなく、観客目線で眺めるなら、かつて、マクラーレン・ホンダ時代の「セナ・プロ対決」がそうだったように、ふたりの才能あふれるドライバーが同じマシンで繰り広げる「えげつない」ぐらいに激しいバトルほど面白いモノはない! そして、今季後半戦のフェラーリにはそんな歴史に残る激戦を「優勝争い」の形で実現できる条件がそろっているのだ。

 そんな、ビンテージイヤーのフェラーリを楽しむのに、鈴鹿は最高の舞台となるはずだ。今年の日本GPでは、果たしてどんなドラマを見せてくれるのだろう。最強のマシンを得てもなお「心配ゴト」が尽きない。このドキドキ感こそが「旬を迎えたフェラーリの正しい味わい方」なのである。