2016年シーズンは広島の勢いが止まらない。プロ野球12球団では最も優勝から遠ざかってしまっているが、25年ぶりのリーグ優勝に向かって視界は良好だ。まずはチームとしての数字を見てみよう(8月18日終了時点。以降の数字も同様)。66勝44敗の…

2016年シーズンは広島の勢いが止まらない。プロ野球12球団では最も優勝から遠ざかってしまっているが、25年ぶりのリーグ優勝に向かって視界は良好だ。

まずはチームとしての数字を見てみよう(8月18日終了時点。以降の数字も同様)。

66勝44敗の勝率.600で22の貯金。2位巨人に7ゲーム差をつけて首位を快走中だ。チーム打率.271、548得点、116本塁打は、いずれもリーグトップ。盗塁数96個は、2位ヤクルトの65個を大きく引きはなしている。防御率3.48および失点414点は、ともに巨人に次いでリーグ2位の数字。

チーム全体の数字を見ても死角は見当たらない。それでは、今年の広島が躍進を遂げている要素とは何なのか?

5つの切り口で迫ってみた。

(1)ベテラン・新井貴浩の復調
躍進の理由を考える上で、新井貴浩内野手の復調はとても大きい。阪神から古巣の広島へ復帰して2年目。開幕前から覚悟をもって臨んだシーズンとなったが、ここまでは周囲を驚かせる目覚ましい活躍を見せている。

打率.319とハイアベレージを残し、85打点は堂々のリーグトップ。得点圏打率はDeNAの筒香嘉智外野手が.384に対して.385とこちらもリーグで首位を快走。驚異的な勝負強さを発揮している。

4月26日にはプロ野球史上47人目、広島では5人目となる2000本安打も達成した。今季、多くの試合で4番に座り、強力打線のポイントゲッターとしてチームを牽引している。

(2)5ツールプレイヤー・鈴木誠也の台頭
今年の躍進の象徴的な選手が、鈴木誠也外野手だ。鈴木は日本ハムの大谷翔平投手や阪神の藤浪晋太郎投手らと同じ1994年生まれ。その逸材は広島だけにとどまらず、日本球界の未来を担うプレイヤーとして期待されている。

鈴木はその特徴を表現される際、5ツールプレイヤーとも称される。主にメジャーリーグで使われる指標で、hitting for average(バッティング・ミート)、hitting for power(パワー)、baserunning skills and speed(走塁技術とスピード)、fielding ability(守備力)、throwing ability(送球能力)の5項目が高水準の実力を備えている選手を指す。

高校時代は投手だったこともあり、その強肩は「バズーカ砲のよう」と各チームに恐れられている。現段階での数字を見ても、打率.328 、17本塁打、打点73、盗塁14と5ツールプレイヤーと呼ぶに相応しいバランスのとれた結果を残している。シーズン終了に向かってどこまで数字を伸ばすかが楽しみだ。

【次ページ 野村祐輔の存在、勝利の方程式の確立、伝統の機動力野球】

(3)前田健太不在を感じさせない、野村祐輔の存在
2015年シーズンオフ。長年にわたり広島のエースとして、侍ジャパンの柱として君臨した前田健太投手がロサンゼルス・ドジャースへの移籍を決めて海を渡った。

その一方で、シーズンオフに引退か現役続行かの判断が注目されていた黒田博樹投手はチームに残った。しかし、前田の穴はあまりに大きく、「投手全員で前田さんの穴を埋めよう」という呼びかけや雰囲気が開幕前からチーム全体にあった。今年、日米通算200勝を達成するなど一定の存在感を見せている黒田は現在7勝(7敗)。投手陣の精神的主柱であることは誰もが認めるが、黒田の実力と経験を考えると数字としては物足りない。

そこで台頭してきたのが、2011年ドラフト1位の野村祐輔投手だ。先発ローテーションを期待された昨シーズンはわずか5勝と低迷したが、今シーズンはここまで同チームのジョンソン投手と並んでハーラートップの12勝(3敗)を挙げ、広島の快進撃に大きく貢献している。

特筆すべきは.800という勝率。先発マウンドに上がる野村の姿には、エースの風格も漂い始めた。優勝争いが大詰めを迎えるシーズン終盤で、力を発揮できるかが見ものだ。

(4)勝利の方程式の確立
1990年代にリリーフとして活躍した西武のサンフレッチェ(鹿取義隆、潮崎哲也、杉山賢人)や、2000年代に活躍した阪神のJFK(ジェフ・ウィリアムズ、藤川球児、久保田智之)に代表されるように、強いチームには必ずと言っていいほど勝利の方程式が存在する。

今シーズンの広島の投手陣は、後ろの3枚を確立できたことが快進撃を支えている。ヘーゲンス、ジャクソン、中崎翔太の3投手が後ろに控えているため、先発投手は5回または6回までをしっかりと投げ切ることに専念できる。このことが精神的に好作用し、先発投手の安定感につながっている。

(5)伝統の機動力野球、盗塁数の飛躍的増加
昨年の広島のチーム盗塁数はリーグ4位の80個。今シーズンは112試合の時点ですでに96個を記録している。

個々の選手を見ていくと、リードオフマンに定着した田中広輔内野手が23個。昨季の不振から復調したキクマルコンビは、菊池涼介内野手が13個、丸佳浩外野手が17個。さらに今年ブレイクした鈴木誠也外野手は14個。代走での出場が主な赤松真人外野手が10個を記録しており、セ・リーグの盗塁数ベスト10以内に5人の選手がランクインしている。隙あらば、次の塁を果敢に狙っていくチーム全体の意識が得点力の向上につながっている。

広島といえば機動力野球が伝統だ。前回優勝した1991年にも、当時2年連続盗塁王の野村謙二郎をはじめ、2年目でレギュラーに定着した前田智徳のほか、正田耕三、山崎隆造など、走れる選手がオーダーの半数を占めていた。当時の選手の顔ぶれは小技としぶとい打撃が特長的だったことに対して、現在のオーダーには、率に加えて一発も期待できる打者が並ぶ。

鈴木の17本塁打をはじめ、菊池11本、丸14本、田中12本が二桁本塁打を現時点で記録。足が使える上に、一発への警戒が必要となる嫌な打線だ。

勝つための要素がそろっているチームにおいて、一番の不安要素は優勝争いの経験不足か。今シーズンは残すところ30試合。緒方孝市監督は、「一戦一戦という気持ち」と残り試合を見据える。25年ぶりの歓喜に向けた、最後のスパートに注目したい。

黒田博樹 参考画像(c) Getty Images

黒田博樹 参考画像(c) Getty Images

広島カープ時代の前田健太投手 参考画像

広島カープ時代の前田健太投手 参考画像