宮城県のスポーツランドSUGOで行なわれたスーパーGT第7戦は、天気に振り回されるレースとなった。 決勝スタート直前になって雨が降り出すと、スリックタイヤとウェットタイヤを装着するチームで判断が分かれ、いきなりスタートから大混乱。さら…

 宮城県のスポーツランドSUGOで行なわれたスーパーGT第7戦は、天気に振り回されるレースとなった。

 決勝スタート直前になって雨が降り出すと、スリックタイヤとウェットタイヤを装着するチームで判断が分かれ、いきなりスタートから大混乱。さらにレース後半は雨脚が強くなり、気温も低くなる難しいコンディションとなった。



初勝利を喜び合うフレデリック・マコヴィッキィ(左)と平手晃平(右)

 そんな厳しい状況を乗り越えて勝利をもぎ取ったのは、平手晃平/フレデリック・マコヴィッキィ組のCRAFTSPORTS MOTUL GT-R(ナンバー3)。苦戦の続いていた日産勢が、ようやく今季初勝利を手にした。

 日産勢は2017年、2018年とシーズン1勝のみに終わり、しばらく主役の座から離れていた。その悪い流れを断ち切るべく、日産勢4チームのうち3チームがドライバーの変更を決断。新たに加わったメンツには、2度のGT500年間王者に輝いた平手や、日本のレースを熟知しているベテランのジェームス・ロシターなど、これまでレクサスのGT500マシンを駆っていたドライバーもいる。

 こうした新しい風を取り入れ、今シーズンの日産勢は勢いよくスタートを切った。

 佐々木大樹/ジェームス・ロシター組のカルソニック IMPUL GT-R(ナンバー12)がシーズン前テストでトップタイムを記録すると、松田次生/ロニー・クインタレッリ組のMOTUL AUTECH GT-R(ナンバー23)は開幕2戦連続でポールポジションを獲得。しかし日産勢の最高位は、第1戦・岡山=2位、第2戦・富士=2位、第3戦・鈴鹿=8位、第4戦・タイ=4位と、レースの流れが噛み合わず、勝利を手にできずに終わっていた。

 体制を変えた日産勢のなかでも、とくに大改革を行なって新たな出発を切ったのが3号車だ。長年トヨタ/レクサス系のドライバーを務めた平手に加え、フランス出身のフレデリック・マコヴィッキィが5年ぶりにスーパーGT復帰を果たした。

 マコヴィッキィは2013年と2014年にホンダのGT500クラスから参戦し、計2勝をマーク。近年はポルシェのワークスドライバーとしてヨーロッパの舞台で活躍していたが、3号車が装着しているミシュランタイヤをよく知るドライバーということで、今回オファーがかかった。

 チーム監督には、昨年まで日産系チーム総監督を務めていた田中利和氏が就任。チームはGT300クラスで長年経験を積み、昨年からGT500にステップアップしてきたが、今年は中身を総入れ替えした”新チーム”として臨んだ。

 だが、新チームゆえに、開幕当初はうまくいかないことも多かった。平手とマコヴィッキィはGT500仕様の日産GT-Rに乗るのが初めてで、シーズンオフから走り込んできたものの、開幕戦は予選8番手・決勝4位。ふたりのドライバーは「勝負はシーズン後半戦。結果を出すことに焦らず、着実にレベルアップしていきたい」と語っていた。

 するとその言葉どおり、中盤戦になると効果が出始める。第4戦・タイでは予選3番手、続く第5戦・富士では予選2番手を獲得。とくに富士ラウンドでは、序盤から表彰台争いに絡む速さを見せた。

 ただ、その富士では他車との不運な接触で後退を余儀なくされ、第6戦・オートポリスではGT300クラス占有時間に走行を続けて罰金ペナルティが科される。速さは発揮できているのだが、それを結果につなげられないレースが続いた。

 しかし、ふたりのドライバーは決してあきらめなかった。なぜならば、彼らはこの2019シーズンに特別な思いを抱いて参戦しているからだ。

 平手はレクサスで2013年と2016年に年間王者に輝くも、2017年終了時にレクサスのGT500シートを失うことになった。2018年はGT300クラスのトヨタ・プリウスから参戦するも、心の中では「もう一度、GT500クラスで戦いたい」という思いが消えることはなかった。

 シーズンオフ、平手は各チームと交渉を重ねた。そして2019年、ついに3号車のシートを勝ち取ったのだ。長年トヨタ/レクサスで走ってきた平手だが、プライベートでは日産GT-Rが大好きだと言う。憧れだったGT-Rで1勝目を飾りたいという思いは、レースを重ねるごとに強くなっていった。

 また、マコヴィッキィもスーパーGTで結果を残すことに大きなこだわりを持っていた。2013年にスーパーGTに参戦したマコヴィッキィは、日本でこのシリーズを長く続けたいという思いが強かった。しかし、フランスに家族を残して日本でレースを続ける難しさに直面し、2014年かぎりでスーパーGTを去ることになった。

「スーパーGTは、世界のなかで最もレベルの高いシリーズ。だから、ここに戻りたいとずっと思っていた。帰ってくることができてうれしいし、日産ファミリーの一員になれて光栄だ。だから、みんなで力を合わせて今シーズン1勝したい」(マコヴィッキィ)

 第7戦はスタートから雨模様の難しい展開となったが、このSUGOで2勝の実績を持つ平手の経験と、ミシュランタイヤをよく知るマコヴィッキィの的確なドライビングがハマった。日産とミシュランで開発を続けてきたウェットタイヤもこのコンディションで見事に機能し、レース後半にはトップに浮上。その後もペースを緩めることなく、2番手以下に20秒近い大差をつけてチェッカーフラッグを受けた。

「すごくうれしいです。ここ2、3戦は結果に結びつけられない悔しいレースが続いて、気持ち的にも苦しかった。だけど、ニスモやミシュラン、チームのみんなが一生懸命になっていたので、表彰台には乗りたいなと思っていたら、こういうすばらしい結果になりました。関係者のみなさんに感謝です」(平手)

「今回は細かいところまで完璧だった。もともと僕たちのクルマは雨が得意なので、自分たちの実力をすべて出し切ることができ、こうして優勝することができて本当によかった」(マコヴィッキィ)

 レース後、マシンを降りたマコヴィッキィに平手が全力で駆け寄って抱き合った。「新チームで結果を残したい」というふたりの思いが叶い、心の底から喜んでいる様子が印象的だった。

 ちなみに他の日産勢では、松田とクインタレッリの23号車が3位表彰台を獲得し、最終戦・もてぎでの逆転チャンピオンに望みをつなげた。23号車はもてぎのコースを大得意としているだけに、最後の最後で王座を奪還する可能性もある。

 いずれにしても、開幕戦から速さは見せながらも結果につなげられず、流れのよくなかった日産勢がシーズン終盤で一矢を報いた。はたして最終戦、日産勢は意地の2連勝を成し遂げられるか。