オールブラックスが、勝負所で強さを発揮し、ワールドカップの予選プールでの無敗記録を29に伸ばした。オールブラックスの中心選手でフルバックのボーデン・バレット 9月20日(金)に開幕したラグビーワールドカップは2日目の21日(土)も3試…

 オールブラックスが、勝負所で強さを発揮し、ワールドカップの予選プールでの無敗記録を29に伸ばした。



オールブラックスの中心選手でフルバックのボーデン・バレット

 9月20日(金)に開幕したラグビーワールドカップは2日目の21日(土)も3試合が行なわれた。神奈川・横浜国際総合競技場で、予選プール最大の注目カード、3連覇を目指す「オールブラックス」ことニュージーランド代表(世界ランキング2位)と優勝2回を誇る「スプリングボクス」こと南アフリカ代表(同4位)が激突した。

 決勝のカードといってもおかしくない世界的に耳目を集めた予選プールBの初戦、互いのチームのジャージーを着ている人だけでなく、日本代表や、22日に同スタジアムで試合を行なうアイルランドとスコットランドのジャージーを着た人も駆けつけ、64000人あまりの観客が集った。

 試合前の関心事は、なんと言ってもオールブラックスの戦いの踊り「ハカ」だ。2種類あるが、初戦から大事な試合しか披露しない、2005年にオールブラックスのために作られた「カパ・オ・パンゴ(黒い服の戦士と銀の羊歯という意味)」を選択。しかも、ハカのリーダーSH(スクラムハーフ)のTJ・ペレナラだけでなく、キャプテンのNo.8(ナンバーエイト)キーラン・リードがリードしながら後ろからせせり出てくる新しい形を見せた。

「ハカは、ニュージーランド代表にとっては大事です。リーダーとして何ができるか話して、選手たちで決めて(ペレナラと)2人でリードしようと思ってやりました」とキャプテンのリードは胸を張った。いつもより気合いが入っていた、ハカのリーダーであるペレナラの表情も合わせて、この試合にかける思いがヒシヒシと伝わって来た。

 一方の南アフリカ代表は、この1年半で調子を上げていた。7月~8月にかけて行なわれた「ザ・ラグビーチャンピオンシップ(南半球4カ国対抗戦)」では、オールブラックスに16-16で引き分け、初優勝を飾っていた。どのチームよりもはやい9月1日に来日し、6日に日本代表と対戦するなど、この試合に標準を合わせていることは明白だった。

 南アフリカ代表を率いるラシー・エラスムス監督は「一貫性を持ってやってきた。ランキングとかは関係ない。自分は、個人的にオールブラックスというのはナンバーワンのチームだと思っている。自分たちは、この1年半でチームを作り上げてきた」と自信をのぞかせた。

 試合序盤、試合を優勢に進めたのは南アフリカ代表だった。日本代表に41-7で快勝した試合とまったく同じメンバーで臨み、過去のワールドカップの予選プールで負けたことがないニュージーランド代表を倒そうという気迫は十分だった。

 ハイパントキックやグラバーキックを軸に南アフリカ代表は敵陣に攻め込むものの、前半2分にSO(スタンドオフ)ハンドレ・ポラードのPG(ペナルティゴール)で先制した後は、追加点を奪えなかった。そんな中、ワールドカップ2連覇中の王者は、一瞬の隙を見逃さなかった。

 オールブラックスは23分、SOリッチー・モウンガのPGで3-3の同点に追いついた直後の24分、SHアーロン・スミスがボックスキック。そのハイボールを相手がキャッチミスしたところから、カウンターを仕掛ける。

 モウンガがキックパスで右大外にいた22歳のWTB(ウイング)セヴ・リースへ。リースがゲインし、アーロン・スミス、FL(フランカー)のアーディー・サヴェアとつなぎラックを形成。そこから右に展開し、SOではなく「15」番のFB(フルバック)に入っているボーデン・バレット(以下、B・バレット)が中央をブレイクし、最後はフォローしたWTBジョージ・ブリッジが中央にトライ。モウンガのゴールも決まって10-3と逆転に成功する。一瞬の出来事だった。

 再び、27分も同じ展開だった。スミスのボックスキックを、南アフリカ代表がノックオン。そのボールを継続し、B・バレットが何度かゲインし、最後はCTB(センター)アントン・レイナートブラウンがラインブレイクし、最後はB・バレットの弟でLO(ロック)のスコット・バレットが中央にトライを挙げ、ゴールも決めて17-3とリードを広げた。

 後半、オールブラックスは南アフリカ代表の反撃に合って、19分には17-13まで迫られる。ただ、スクラムで反則を誘うなど要所で強さを見せて、モウンガ、B・バレットのPGで突き放し23-13で勝利した。試合後、リードキャプテンを筆頭に「日本のファンにすごく良くしてもらっているし、オールブラックスのジャージーを着ている人もたくさんいたので、それに恩返ししようと思った」とお辞儀で、日本のファンの声援に応えた。

 じつは、オールブラックスのスティーブ・ハンセンHC(ヘッドコーチ)は、今年の7月から2016年、2017年に世界最優秀選手賞に輝き、本来はSOであるB・バレットを、10番ではなく15番のFBに置き、10番にはスーパーラグビーのクルセイダーズ3連覇に貢献したモウンガを起用している。南アフリカと引き分け、オーストラリア代表に敗れるなどしたため、「試すのが遅すぎるのでは……」との批判もあった。

 しかし、ハンセンHCは「ワールドクラスの選手2人を同時にピッチに出すため」と、10番モウンガ、15番B・バレットを貫き、ワールドカップ初戦のビッグマッチでも同じ布陣で臨んだ。

 前回のワールドカップでは、WTBやFBでもプレーしたスピードやステップ能力の高いB・バレットは「コーチ陣に言われたポジションでやるだけ。15番も10番と同じ大事なポジション」と前向きに捉えていた。その結果、B・バレットは両チーム最多の17回のボールキャリーを見せて、MOM(マンオブザマッチ)に輝いた。

 自身初めてのワールドカップとなったモウンガは、「B・バレットは判断するときに助けになってくれている」と言えば、2011年からアシスタントコーチを務めるイアン・フォスターも2人を同時に起用することに関して、「ディシジョンメーカー(意思決定者)が2人いることになります。ボーデン(・バレット)がリッチー(・モウンガに)自信を与えている」と2人のパフォーマンスを高く評価した。

 予選プールのビッグマッチが終わった後だが、オールブラックスのハンセンHCは「今大会で優勝するためには全部、勝たないといけない。ここで負けたら(予選プール無敗という)歴史が壊れてしまう。今後も全試合決勝と思って戦う」と気を入れ直していた。

 いずれにせよ、キックやパスで冷静にコントロールするSOモウンガ、そして、状況や流れの中ではSOに入りながら得意のランで積極的に仕掛けていくFBのB・バレットという「ダブルスタンドオフ」で、オールブラックスは3連覇に挑む。