プロテニスの大会といえばほとんどがシングルスかダブルスの個人戦で、チームで戦う団体戦は数えるほどしかありません。でも「団体戦」あるいは「国別対抗戦」の魅力が見直されてきたのか、近年新たに誕生した団体戦もあります。それらを紹介してみましょう。…

プロテニスの大会といえばほとんどがシングルスかダブルスの個人戦で、チームで戦う団体戦は数えるほどしかありません。でも「団体戦」あるいは「国別対抗戦」の魅力が見直されてきたのか、近年新たに誕生した団体戦もあります。それらを紹介してみましょう。

■歴史ある男子の国別対抗戦「デビスカップ」

プロテニスの団体戦といえばまず、伝統ある国別対抗戦である男子の「デビスカップ」と女子の「フェドカップ」。この2つの大会の方式は以前はほぼ同じだったのですが、2019年から「デビスカップ」が大きく変更になりました。まずはそちらの大会から説明しましょう。

2019年に「デビスカップ」に参加したのは全部で133ヵ国。2月に24チームで行われた「クオリファイアー・ラウンド」で勝利した12チームと、2018年大会でベスト4に進んだ4チーム、そしてワイルドカード2チームの合計18チームが11月の「デビスカップ・ファイナルズ」に進出、世界の頂点を目指します。日本は2月に勝利して、「ファイナルズ」出場権を得ています。

「ファイナルズ」に進出できなかった国は、デビスカップ・ランキングによって分けられたグループI~IVの中で戦い、トップであるグループIの国々は翌年の「ファイナルズ」進出、それ以外のグループII~IVの国々は上のグループへの昇進を目指すことになります。

■女子の国別対抗戦「フェドカップ」

一方で女子の「フェドカップ」は世界のベスト8と言ってよい8ヵ国から成るワールドグループ、それに次ぐ8ヵ国のワールドグループIIがあり、残りの国々はまず南北アメリカ、アジア/オセアニア、ヨーロッパ/アフリカの3つの地域に分けられ、その中でグループIとII(ヨーロッパ/アフリカのみIIIまで)に分かれます。そしてトップのワールドグループでは世界一を目指して、それ以外のグループでは上のグループへの昇進を目指して戦うのです。

2019年は準決勝まで既に終わっており、勝ち抜いたフランスとオーストラリアは11月9日・10日にオーストラリアのパースで決勝を戦います。「デビスカップ」は2018年まで、「フェドカップ」は今も試合を対戦国のどちらかの地元で行っており、観客は国の威信をかけた戦いに熱狂します。

■「レーバー・カップ」の元はゴルフ大会?

2019年は9月20日から22日まで行われる「レーバー・カップ」は、ヨーロッパの男子選手たちがチーム・ヨーロッパ、その他の地域の選手たちがチーム・ワールドという2組に分かれて戦う団体戦です。これはもともと、ヨーロッパ対アメリカで戦うゴルフの「ライダー・カップ」のコンセプトを模して、2017年に初めて開催されました。ヨーロッパとヨーロッパ以外の場所で交互に実施されることになっており、初回の2017年はチェコのプラハ、2018年はアメリカのシカゴ、2019年はスイスのジュネーブでの開催です。

出場選手は各チーム6人ずつ、そのうち3人ずつは「全仏オープン」後のランキングを元に決められ、残りの3人ずつは両チームのキャプテン(ヨーロッパがビヨン・ボルグ、ワールドがジョン・マッケンロー)が指名します。毎日シングルス3試合とダブルス1試合が行われ、初日は1勝が1ポイント、2日目は1勝が2ポイント、3日間は1勝が3ポイントで合計24ポイント中、先に13ポイント取ったチームが勝ち。全試合を終えて同点だった場合は、決定戦としてダブルスをもう1試合行います。

ところでこの「レーバー・カップ」、過去2年ともチーム・ヨーロッパが勝利。今年もメンバー選出の基礎になる「全仏オープン」後(6月10日)のランキングを見ると、1位のノバク・ジョコビッチ(セルビア)こそ今回は欠場ですが、出場する2位から6位までが全てチーム・ヨーロッパ。7位と8位でチーム・ワールドに入るべき錦織圭(日本/日清食品)とケビン・アンダーソン(南アフリカ)は出場辞退で、実際に出場するチーム・ワールドのメンバーで最高位はジョン・イズナー(アメリカ)の11位、次がミロシュ・ラオニッチ(カナダ)の18位。ランキングを見れば、今年もチーム・ワールドの不利は否めないようです。また今年は2年ぶりにラファエル・ナダル(スペイン)が出場するので、彼とロジャー・フェデラー(スイス)のダブルスがまた見られるか?とファンたちの期待が高まっています。

■2020年に始まる「ATPカップ」

こちらも男子のみの大会ですが、「ATPカップ」が2020年から始まります。第1回大会は2020年1月3日から12日まで、10日をかけて24ヵ国が戦うという大規模な大会です。最初のエントリーは9月9日のシングルスランキングを元に19ヵ国が決定。残りの5ヵ国と最終的な出場選手は、11月13日に発表の予定です。大会のフォーマットは、24ヵ国が4ヵ国ずつ6組に分けられ、6日をかけて総当たりで戦います(各対戦につきシングルス2試合、ダブルス1試合)。各組の1位6ヵ国と、2位の中で勝率上位の2ヵ国、合わせて8ヵ国が「ATPカップ・ファイナルズ」に進出、そこからは勝ち抜きで準々決勝、準決勝、決勝と戦います。

総当たりのグループ・ステージはオーストラリアの3都市、ブリスベン、パース、シドニーで2組ずつに分かれて開催され、「ファイナルズ」はシドニーのケン・ローズウォール・アリーナで行われます。ATPが鳴り物入りで創設したこの大会の賞金総額は、「ATPファイナルズ」(約270万ドル)やATPマスターズ(約800万ドル)も大きく上回る1,500万ドル(約16億円)。普段テニスはあまり見ない人々も引きつけるような、魅力あるイベントとなるでしょうか。

■存続の危機?「ホップマン・カップ」

また男女混合の国別対抗戦「ホップマン・カップ」という大会もあります。これは1989年から毎年シーズン初めの1週間、オーストラリアのパースで行われてきました。8ヵ国から男女1人ずつが組んだチームが出場して優勝を争います。ランキングポイントはありませんが、「全豪オープン」に向けたウォームアップの大会として選手にも、またオーストラリア国内でテレビ放送されてファンにも、愛されてきた大会です。

ところが、「ATPカップ」がパースを開催都市の1つに選んだので、パースでは「ホップマン・カップ」が開催できなくなってしまったのです。主催であるITFは別の開催場所を探しているということですが、「ホップマン・カップ」存続が危ぶまれています。

■個人競技であるテニスの団体戦の魅力とは?

テニスは基本的に個人と個人が競うスポーツです。広いコートでたった1人の人間が、体力と知力と精神力の限りを尽くして戦い抜くところが究極の魅力の1つでしょうが、スポーツにはやはりチームスポーツの魅力というのもあります。強いところを生かし合い、弱いところを補い合い、勝利を共に喜び合い、時には敗北の涙を分かち合う。そんなチームスポーツの魅力を個人競技のテニスにプラスした団体戦、新興の「ATPカップ」が成功すれば、もっと増えていくかもしれないですね。

(文/月島ゆみ)

※写真は2018年「フェドカップ・プレーオフ(ワールドグループ2部)」での日本代表(左から奈良、大坂、二宮、加藤、土橋代表監督)

(Photo by Kiyoshi Ota/Getty Images)