アジアで初めて開催されるラグビーワールドカップを目前にして、キャプテンのFL(フランカー)リーチ マイケル(東芝)はこう意気込んだ。「あらためて日本の強さを証明したい。このチームにはいろんな国の人がいるので、ダイバーシティ(多様性)な…

 アジアで初めて開催されるラグビーワールドカップを目前にして、キャプテンのFL(フランカー)リーチ マイケル(東芝)はこう意気込んだ。

「あらためて日本の強さを証明したい。このチームにはいろんな国の人がいるので、ダイバーシティ(多様性)なところもしっかりと見せたい」



ラピースは9月の南アフリカ代表戦で『君が代』を大声で歌った

 リーチが「ダイバーシティ」という言葉を使ったように、日本代表に選ばれた31名中、約半数の15名が外国出身選手だ。ただ、その多くがリーチを筆頭に、PR(プロップ)ヴァルアサエリ愛(パナソニック)、PR中島イシレリ(神戸製鋼)、LO(ロック)ヘル ウヴェ(ヤマハ発動機)などは高校・大学から日本に住んでおり、すでに8人が日本国籍を取得している。

 また、韓国出身のPR具智元(グ・ジウォン/ホンダ)やトンガ出身のWTB(ウィング)アタアタ・モエアキオラ(神戸製鋼)も、日本国籍こそ取得していないものの、中学から日本に住んでいる「日本育ち」。代表に選ばれた選手の多くが学生時代から来日しており、15人のなかで日本の教育機関を卒業していない選手は6人しかいない。

 前回大会の南アフリカ代表戦で日本代表が大金星を挙げた翌日、当時の副将FB(フルバック)五郎丸歩はツイッターでこうつぶやいた。

『ラグビーが注目されている今だからこそ日本代表にいる外国人選手にもスポットを。彼らは母国の代表より日本を選び日本のために戦っている最高の仲間だ。国籍は違うが日本を背負っている。これがラグビーだ。』

 ラグビーの世界は代表チームを編成する時、パスポート主義(=国籍主義)であるオリンピックと違い、所属協会主義を採用している。わかりやすく言えば、「日本代表は日本協会所属のチームで、日本でラグビーをしている選手たちの代表」ということだ。

 ラグビー界では、(1)その国に3年居住する(2)当該国で生まれる(3)祖父母または両親のいずれかが当該国出身者――であれば、その国や地域の代表選手になることができる。

 しかし、一度でも日本代表としてプレーすれば、基本的には他の国の代表としてプレーできない(一度だけ変更可能だが、細かい基準を満たすのは難しい)。また、近年では(1)の「3年居住は短いのでは?」という議論も交わされ、2020年12月末から(1)の条件は「5年居住」となる。

 今年6月、その「3年居住」をクリアして日本代表入りが認められたのが、「ラピース」の愛称で呼ばれる南アフリカ出身のFLピーター・ラブスカフニ(クボタ)と、オーストラリア出身のLOジェームス・ムーア(宗像サニックス)だ。

 統括団体「ワールドラグビー」から認められた時、ふたりは興奮と安堵の混じった気持ちを素直に表現した。

「なんて言葉にしていいのか難しいが、とにかく興奮しています。これから最後のチャレンジに臨むことができます。ワールドカップのピッチに立てたら、本当にすばらしい」(ラピース)

「少しストレスになっていましたが、これでさらに練習に集中できる。ホッとしています」(ムーア)

 スーパーラグビーで結果を残してきたラピースは、2013年11月に行なわれた南アフリカ代表の欧州遠征メンバーに選出されたものの、試合出場は叶わなかった。しかし2年前、ジェイミー・ジョセフHCから「日本代表になれる可能性がある」と聞かされ、2019年ワールドカップを意識するようになったと言う。

 2018年、サンウルブズに参加すると、敬虔なクリスチャンで真面目な性格のラピースがジョセフHCの信頼を得るのに、さほど時間を要さなかった。同年2月、ジョセフHCが自衛隊合宿を敢行した際に名指しで称賛したのが、ラピースだ。「軍隊的なプレッシャーのなかで、個性やメンタルが見えてきました。リーダーシップ気質を持っていないと思っていた選手が、それを発揮しました」(ジョセフHC)。

 豊富な運動量とタックルやジャッカルを武器に、ラピースはサンウルブズで存在感を発揮。日本代表候補合宿では、リーダーのひとりに選出される。さらに、日本代表初キャップとなった7月27日のフィジー代表戦では、控えのリーチに代わっていきなりゲームキャプテンを務めた。



フィジカルを生かしたプレーで代表入りを果たしたムーア

 日本代表ではリーチを筆頭に10人のリーダーグループを形成しており、各々に役割がある。ラピースはチーム内で副キャプテン的な立場だ。「グラウンド外ではリーチ主将をサポートする役割で、(チーム戦術などの)落とし込みの手助けをする責任もある」。

 一方のムーアは、かつてモデルを務めたこともあるイケメン選手だ。オーストラリア・ブリスベン出身で、もともとは13人制ラグビーをプレーしていた。2016年、東芝ブレイブルーパスに入ると同時に15人制ラグビーに転向。しかし、当初は15人制ラグビーに馴染めず、来日1年目はトップリーグ出場ゼロ試合に終わった。

 ただ、東芝が誇る「偉大なLO」大野均に鍛えられ、2年目からはレギュラーの座を奪取。その後、宗像サニックスブルースに移籍したが、サンウルブズと宮崎合宿でのアピールが認められ、ラピースとともに日本代表入りを果たした。

「3年前に来日した時は、明確な目標はなかった。ですが、すぐに日本が好きになったし、日本のラグビーのプレースタイルも好きになった。振り返ると、来日して間もなく代表を目指すようになりました」

 13人制ラグビーは15人制ラグビーと違い、タックルを4度成功させると攻撃権が移るため、タックルの強い選手が多い。また、FWながらランニングプレーを得意とする選手が多いのも特徴である。

 LOのポジション争いでムーアが勝ち残ったのも、運動量やフィジカルで秀でていたからだ。「フィジカルが求められているリーグラグビー(13人制)の経験が役に立っています。1試合に30~40回くらいタックルするポジションだったので、タックルの技術を磨くことができた」。

 ジョセフHCは外国出身選手の起用について、こう語る。

「外国出身選手はフィジカルの強さがあり、経験値も高い。ワールドカップで強豪国相手に勝機は1、2回しかないので、彼らの持っている経験値によって、チーム全体が自信を持ってプレーできる」

 ラピースとムーアは、タックルや接点でチームトップクラスの仕事量を誇っている。日本代表の得点源であるBK陣がトライを挙げるためには、彼らの活躍が欠かせない。

 宮崎合宿でラピースとムーアは、ローマ字で書かれた国歌『君が代』を読みながら練習した。

「(歌詞の意味を知って)国歌の背景を知れて非常によかった。今まで感じてきたことが、つながった。日本で築いた友情、気持ち、すべてを感情移入して国家を歌っている」(ラピース)

 9月20日のワールドカップ開幕戦。ラピースとムーアが心を込めて、『君が代』を歌う。