9月20日、ついにラグビーワールドカップが開幕する。世界ランキング10位の日本代表が東京スタジアムで迎え撃つワールドカップ初戦の相手は、同20位のロシア代表だ。「(開幕戦は)予選プールで、一番大事な試合」 キャプテンのFL(フランカー)リ…

 9月20日、ついにラグビーワールドカップが開幕する。世界ランキング10位の日本代表が東京スタジアムで迎え撃つワールドカップ初戦の相手は、同20位のロシア代表だ。

「(開幕戦は)予選プールで、一番大事な試合」

 キャプテンのFL(フランカー)リーチ マイケル(東芝)がそう位置づけているように、まずはロシア戦に快勝して勢いに乗りたいところだろう。



田村優(左)、流大(中央)、田中史朗(右)のハーフ団がカギを握る

 前回大会、日本代表は予選プールで3勝を挙げながらも勝ち点差で3位となり、準々決勝に進めなかった。予選プールで3勝しても決勝トーナメントに進めなかったのは、大会史上初めてのことだった。

 今回、日本代表が予選プールAで対戦する相手のなかで、ロシア代表は一番の格下。開幕戦では必ず4トライ以上のボーナスポイントを得て勝利し、勝ち点5を獲得したいところだ。それが最低条件でもある(※)。

※勝ち点の加算法/勝利=4ポイント、引き分け=2ポイント、敗戦=0ポイント。ボーナスポイントとして、勝敗にかかわらずトライ数が4個以上=1ポイント、7点差以内での敗戦=1ポイント。

 開幕戦の2日前、ロシア代表、日本代表ともにメンバーが発表された。

 ロシア代表は昨年11月に日本代表と対戦し、27-32と善戦した試合と先発11名が同じメンバー。キャプテンのFB(フルバック)ヴァシリー・アルテミエフを筆頭に、CTB(センター)ウラジミール・オストロウシコ、SO(スタンドオフ)ユーリ・クシナリョフ、LO(ロック)アンドレイ・ガルブゾフといった、2011年大会を経験しているベテランがメンバー入りした。

 一方の日本代表は、9月6日の南アフリカ代表戦で負傷したNo.8(ナンバーエイト)アマナキ・レレィ・マフィとWTB(ウイング)福岡堅樹が、ともにメンバー外となった。

 FW第一列のフロントローは、パシフィック・ネーションズカップ(PNC)で優勝した時と同じメンツ。PR(プロップ)稲垣啓太、HO(フッカー)堀江翔太、PRヴァル アサエリ愛と、互いのことを熟知しているパナソニック勢の3人だ。

 セカンドロー(第二列)は、南アフリカ代表戦の時と変更。LO(ロック)ヴィンピー・ファンデルヴァルト(NTTドコモ)とLOジェームス・ムーア(宗像サニックス)のコンビとなった。

 そしてバックロー(第三列)には、FLリーチ マイケルとFLピーター・ラブスカフニ(クボタ)という強力なふたりに、No.8には網走合宿のケガから復帰した姫野和樹(トヨタ自動車)が入った。

 昨年11月のロシア代表戦では、接点でプレッシャーをかけられてペナルティを犯してしまい、相手にペースを捕まれてしまった。LOを任されたヴィンピーとムーアのコンビは初めてだが、ふたりともハードワークとタックルをウリにしている選手だけに、強力FWを擁するロシア代表に対して接点でしっかり戦えるメンバーを選んだのだろう。

 BKを見ると、福岡に替わってWTBレメキ ロマノ ラヴァ(ホンダ)が入ったものの、SO田村優(キヤノン)、CTB中村亮土(サントリー)、CTBラファエレ ティモシー(神戸製鋼)、WTB松島幸太朗(サントリー)、FBウィリアム・トゥポウ(コカ・コーラ)と順当なメンバーが揃った。

 唯一驚いたのは、SH(スクラフハーフ)のポジションだろう。フィジー代表戦と南アフリカ代表戦で先発した茂野海人(トヨタ自動車)ではなく、流大(ながれ・ゆたか/サントリー)が入ったことだ。SHの控えは、経験豊富な田中史朗(キヤノン)となった。

 今回のSH起用に関して、ジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)はこう語った。

「流は自信を持ったいいリーダーで、コミュニケーションも非常によく取れている。味方にも強く要求でき、レフェリーにも主張できる。プレッシャーのかかる試合では、彼のような存在が必要だ。一方、田中は高いレベルでラグビーを経験してきた選手。大事な場面で彼の貢献度が試合を左右するだろう」

 流を先発に起用した意図には、早いテンポを作ることができ、スペースを突くキックが的確という点も挙げられるだろう。FWが接点でしっかりと戦い、素早い球出しができれば、相手のディフェンスも乱れるはず。SHからのキックで相手FWを何度も後退させて、疲れさせることもできる。

 また、ロシア代表は強力なFWを武器とするが、自陣奥に深く入らせなければ、FWによる近場のアタックやドライビングモールといった得意の得点パターンは封じることができるだろう。そのためは、不用意な反則を犯さず、ペナルティの数はひとケタにしたい。

 そして、流や田村のキックをうまく使って、常に敵陣で戦うように試合を進めたいところだ。そうすれば、PG(ペナルティゴール)を入れられる危険性も減る。このロシア戦では、ハーフ団のゲームコントロールの出来がチームの流れ・勝敗に直結するだろう。

 リザーブには、頼りになるベテラン勢も控えている。70キャップの田中、67キャップのLOトンプソン ルーク、44キャップのFL/No.8ツイ ヘンドリック。彼らはワールドカップを経験しているだけに、ゲームを落ち着かせる手段にも長けている。

 当然、ロシア代表も昨年11月で対戦した時のように、SOクシナリョフと控えのラミル・ガイシンのキックを生かしてくるはずだ。ただ、日本代表も相手のキックは警戒しており、松島は「キック処理が大事になってくる。そこからのカウンターや、アンストラクチャー(陣形が整っていない状態)からのアタックでいい形にもっていきたい」と意気込んでいる。

 ロシア代表は1カ月前、世界ランキング14位のイタリア代表に13トライを喫して15-85で大敗した。その後も、親善試合ながらイングランド2部のジャージー・レッズに22-35、アイルランドのコナートに14-42で敗戦。ロシア代表のリン・ジョーンズHCは「親善試合はあくまで親善試合」と語るが、組織ディフェンスが成熟しているとは言いがたい。

 カギとなるのは、スクラムだ。南アフリカ代表戦でマイボール成功率100%だったスクラムの強さを生かし、ラインアウトでもマイボールをしっかりキープすること。そして、パスを交えてボールを展開できれば、相手のディフェンスラインをブレイクしてトライまで持っていくことができるだろう。

 東京スタジアムのピッチは、人工芝と天然芝を組み合わせた「ハイブリットターフ」だ。長谷川慎スクラムコーチは「大好物です!」と言い、FWを牽引する稲垣も「押せるだけの自信は持っています。この4年間、スクラムでプレッシャーをかけるための練習をやってきた」と語気を強める。

 接点で不要な反則をしない、ハーフ団のキックを軸に相手陣内でのプレー時間を増やす、FWがマイボールのセットプレーから生きたボールを供給する--。当たり前のことかもしれないが、この3つをしっかりと遂行できれば、日本代表の勝利は揺るぎないはずだ。