日の丸を身に着けた、八村塁(SF/ワシントン・ウィザーズ)の夏が終わった--。決して満足のいくものではなかったはずだが、しかし、ここで歩みは止められない。※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモ…

 日の丸を身に着けた、八村塁(SF/ワシントン・ウィザーズ)の夏が終わった--。決して満足のいくものではなかったはずだが、しかし、ここで歩みは止められない。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

 9月15日にFIBAワールドカップが終幕。振り返ってみれば、過大とも思える期待が日本代表チームに傾けられた。八村という日本バスケ史上「最高傑作」の存在が、それを大きく後押しした。



ワールドカップでは不完全燃焼に終わった八村塁

 だが、現実は5戦全敗。参加32カ国31位と、結果は予想以上に厳しいものとなった。

 八村は本番前の強化ゲーム4試合で30得点以上を2度マークし、平均27.0得点・6.5リバウンドの数字を残して本大会に入った。しかし、本番での3試合では平均13.3得点・5.7リバウンドに終わった。

 ひざの違和感と疲労でワールドカップ最後の2試合を欠場したため、八村から大会を振り返る言葉は得られなかった。日本協会の技術委員会委員長を務める東野智弥氏は、今回の代表メンバーで最年少だった21歳の八村が、エースとしての責任と重圧を「すべて請け負った」と、大会後に語気を強めた。

 八村の体調について、ほとんど情報は入ってこなかった。だが、「大会直前に体調を崩したことで、八村の体重は減ってしまっていた」(東野氏)と言うのだから、万全からは程遠かったと考えるべきだ。

 初戦のトルコ戦に敗れ、わずかに残った2次ラウンド進出のためには絶対に取らねばならなかった、2戦目のチェコ戦。八村は出場3試合のなかで最高の21得点を挙げた。だが、東野氏の目には「本当の”モンスター”には見えなかった」。

「(それでも)チェコ戦は力を振り絞って、すばらしいと思いました。でも、雑巾を絞ってもう水が出ないのに、(我々や周囲は)彼にまた出せと言う」(東野氏)

 3戦目のアメリカ戦。12名のロスター選手すべてがNBA選手であるアメリカとの対戦を、八村も心待ちにしていた。だが、絞りに絞った雑巾は、もはや乾き切っていたのではないだろうか。結果、八村らしい強烈なダンクを1度は披露したものの、わずか4得点のみに終わった。

 高校時代から注目を浴び続ける八村は、脚光を浴びること自体は「何も新しいことではない」と言う。ワールドカップでNBA選手を中心とした世界のトップと対戦することについては「楽しみ」とも語っていた。そうしたプレッシャーのかけられる状況に対し、当人はグチめいたことも言わない。

 だが、あまりにも負担は大きかった。プレー面においても、八村以外に攻守の核となる選手が多くいなかったため、彼が抑えられたことでチームが機能しなくなった。

 いずれにしても、ワールドカップでの出来だけで八村の力量を断じないほうがよい。NBAドラフトで1巡目指名を受けたことは快挙だが、彼はNBAの正式な試合に1度も出場していない。八村はまだ、NBA選手にはなっていないのだ。

 初戦のトルコ戦で八村は、エルサン・イルヤソバ(PF/ミルウォーキー・バックス)とマッチアップする時間が長かった。NBAで10年以上プレーするベテランの巧みな技の前に、パスを受け取るのにも苦労する場面が多々あった。

 自身もNBAでのプレー経験があり、昨年日本国籍を取得して代表入りしたニック・ファジーカス(C/川崎ブレイブサンダース)は、世界最高峰リーグで長年プレーするイルヤソバが八村に十全なパフォーマンスをさせない「トリックをいくつも持っている」と話した。

「一方のルイは、まだこれからの選手だ」(ファジーカス)

 ウィザーズでの八村がPFで使われるのか、SFで使われるのか、起用法は現時点ではわからない。だが、ビッグマンですら走って3Pシュートも打てることが求められる今のNBAにおいて、どのポジションを担うにせよ、八村が潰しておくべき課題はある。さしずめ、ワールドカップで1本も決めることができなかった3Pシュートは、そのひとつだ。

 身体能力の高い八村は、ワールドカップでの国際ルールよりもNBAのほうが力を発揮しやすい、という見方もある。FIBAやアメリカのカレッジバスケットボールよりも、NBAのほうがスペーシング(選手間の距離)が大きいからだ。また、ディフェンス選手が相手を守っていないのにフリースローレーンに3秒以上留まると反則になってしまうため、ゴール近辺のスペースも空きやすく、ドライブインがしやすい。

 さらにアメリカでは、1対1を好む傾向にある。ファジーカスはアメリカと戦う時、「NBAの選手は『(ディフェンスの)ヘルプはいらない』という感じで、1対1でプレーすることにプライドを持っている。アメリカチームが(八村を相手に)守備をコンパクトにしてくるとは思えない」と話していた。

 初めてNBAルールでプレーした7月のサマーリーグで、八村は4試合に出場。インサイド中心、またはアウトサイド中心といった具合に、首脳陣からさまざまな起用法で試された。

 そのなかで、4試合目には最高の25得点を挙げ、3Pシュートも2本決めている。NBAのスペーシングに慣れてきた部分もあっただろうが、八村は主にアウトサイドのポジションで1対1の状況を心地よくプレーしていたように思われた。

 八村の武器は、オフェンスだけではない。ドラフト時に比較対象として昨季NBAファイナルのMVPカワイ・レナード(SF/ロサンゼルス・クリッパーズ)の名が挙げられたように、八村はディフェンスも含めたトータルな力量を評価されている。八村自身もサマーリーグやワールドカップで、「リバウンドやディフェンスが大事」と強調していた。

 冷静な判断力を持つ八村には、ブロックなどディフェンス面の嗅覚も備わっている。ワールドカップ直前に行なわれた強化試合のドイツ戦では、接戦となった終盤でデニス・シュルーダー(PG/オクラホマシティ・サンダー)の素早いレイアップを見事にブロックし、これを勢いに格上から勝利を奪った。

「17番(シュルーダー)がチームのベストプレーヤーなので、ああいう時間帯だと自分で決めたいと思うはず。パスをしないでシュートを狙ってくると思っていたので、それを予測してブロックできた」

 八村の高い跳躍力や走力は、オフェンスだけでなくディフェンスでも生かされている。その総合力の高さが「ドラフトTOP10」という高評価につながったとも言えよう。

 しかし、ファジーカスが言うように、八村はまだ「これからの選手」だ。サマーリーグに出場している選手とは違い、NBAの舞台を知る者は当然、ひとつ上のレベルである。

 ワールドカップという舞台で国を背負い、エースとしてプレーした経験は代えがたいものだ。これからNBAで本格デビューする八村にとって、そこでの経験は自身の現在地がわかる貴重なものだったに違いない。