東海大・駅伝戦記 第60回 日本インカレ1万m(9月12日)、東海大からは塩澤稀夕(きせき/3年)と西田壮志(たけし/3年)が出場した。 優勝は、レダマ・キサイサ(桜美林大4年)が2年連続で果たし、日本人トップは3位に入った土方英和(ひじか…

東海大・駅伝戦記 第60回

 日本インカレ1万m(9月12日)、東海大からは塩澤稀夕(きせき/3年)と西田壮志(たけし/3年)が出場した。

 優勝は、レダマ・キサイサ(桜美林大4年)が2年連続で果たし、日本人トップは3位に入った土方英和(ひじかた・ひでかず/国学院大4年)だった。

 西田は8位入賞を果たし、塩澤も9位と健闘した。この順位で”健闘”と記したのは、大会に至るまでの調整が難しいにもかかわらず、レース内容がよかったからだ。



日本インカレの1万mで健闘した塩澤稀夕(写真左)と西田壮志

 東海大は、8月13日から9月9日までアメリカ・アリゾナ州フラッグスタッフで合宿を行なっていた。

 2100mの高地でハードな練習を終え、帰りは16時間に及ぶ飛行機での移動。さらに帰国した9日は台風15号の影響で電車、バスがストップ。成田空港は陸の孤島化した。夕方、空港に到着したチームは迎えの車に乗れたものの、平塚にある湘南キャンパスに戻ってきたのは夜11時過ぎだった。

 気圧の影響で西田は足がむくみ、ハードな練習と長時間移動で疲労が抜けきれなかった。大会前日に岐阜に移動し、レース時の気温は28度、湿度51%。西田曰く「調整があまりできないなか、どれだけ勝負できるか」がポイントだった。

 そんななかでの8位入賞だった。その結果に両角速(もろずみ・はやし)監督は、満足そうな表情を見せた。

「西田も塩澤もよかったと思います。まだ、時差ボケもあるでしょうし、湿度の高さに体も慣れていない。当然、疲れもあります。そのなかで西田は入賞し、レース内容もよかった。塩澤も転倒しなければもっと上位にいけたはずですからね」

 とりわけ西田を高く評価したのは、積極的なレース展開をしたからだ。

 西田は序盤、先頭でレースを引っ張った。徐々にキサイサが前に出て差がついていくなか、日本人トップ集団のなかで上位のポジションをキープして走った。とくに終盤、8000mから日本人トップ集団の前に出て、積極的なレース運びを見せたのだ。両角監督は、「そこに価値がある」と言う。

「8000mで前に出ていくのがすごいんですよ。あそこはみんなきつくて、引くところです。土方くんも前に出られなかったなかで、西田が出たのは大きいですね」

 両角監督にそう言われた西田は、うれしそうな表情を浮かべていた。

「残り2000mから上げていこうと思っていたので、それができたのはよかったです。ただ、ラストスパートで、土方さんにあそこまで上げられるとさすがにきつくて……」

 だが、そこからも西田は粘り、ペースは落ちなかった。タイムは28分58秒15と、28分台を出した。このレースで、西田は箱根の山だけでなく、平地でも走れる力を見せた。

 昨年も全日本大学駅伝で4区を走っており、左足のアキレス腱痛を抱えての走りとなってしまい、区間3位となってしまったが、万全の状態で走れば昨年以上の結果は十分に期待できる。それを裏づけているのが、西田の足だ。先月900キロを走り、ふくらはぎの筋肉が隆起し、走れる足をつくってきたことは容易に想像できた。

「足はいい感じです。このままケガさえなければ、出雲はともかく、全日本は走れるかなと思います。箱根は、もちろん山です」

 西田の弾んだ声を聞いていた両角監督が、すかさず横やりを入れる。

「まあ、あまり調子に乗らないように。慌てずやっていけば、もっとよくなるはず。”山の神”になるんだろ(笑)」

 その言葉を聞いた西田は相好を崩した。

 それにしても、西田はよくここまで自信を回復させたなと思う。箱根優勝後は、優勝メンバーという重荷を感じ、「練習から意識してしまい、集中できない部分があった」と言うように、なかなか調子が上がらなかった。夏の白樺湖合宿でも「まだまだですね。2年生を引っ張っていかないといけない立場ですけど、僕自身がもうひとつなんです」と厳しい表情をしていた。

 だが、アメリカ合宿で充実した練習をこなせたのだろう。その成果を発揮するのはこれからだろうが、この日のレース内容には満足したようで、明るさが戻ってきた。「一歩先をいっている」と感じていた塩澤に勝てたことも、笑顔がこぼれた要因のひとつだ。

「塩澤はめっちゃ調子がいいですし、トラックも強いんですけど、負けてはいけないと思っていました。正直、勝てたことはよかったんですけど、(塩澤の)転倒がなければというのを考えると、もう少しタイム差をつけて勝ちたかったですね」

 同期のライバルについて語る西田の表情は、さっきとはまるで違い、引き締まっていた。

 一方の塩澤は、9位(29分06秒01)だったが、表情は晴れやかだった。

「高地合宿から下りてきて、呼吸が楽になると思ったんですけど、湿気がきつかった。レース自体は、合宿での疲労が残っているなかでの走りだったんですが、自己ベストを狙っていました。でも、さすがにきつくて思うようにいかなかったですね」

 塩澤は冬(1~3月)のアメリカ合宿の締めとなるスタンフォードでのレース(1万m)で、28分37秒15の好記録を出した。そして今回のレースでも、中盤までは日本人トップ集団の先頭を走っていた。

 今年フォームを改造してから、美しさとキレが増し、好調を維持している塩澤だが、夏を乗り越えたことでさらに自信を深め、走りに余裕が感じられるようになった。途中で転倒してしまったが、それがなければ間違いなく入賞していたはずだ。

 日本インカレの成績は10月の出雲駅伝、11月の全日本大学駅伝の出走に影響する。

 昨年、日本インカレの5000mで4位に入った西川雄一朗は、出雲駅伝と全日本大学駅伝で1区を走り、箱根駅伝では3区を任された。それだけに、両角監督が「今、一番調子がいいのは塩澤」と太鼓判を押すだけに、秋の駅伝シーズンのキープレーヤーになりそうだ。

 もちろん、本人も十分に自覚している。

「1年の時に全日本だけ走ったけど、昨年はひとつも走れなかった。今年は出雲、全日本、箱根の3つの駅伝をしっかり走ることが目標です。3年間のなかで一番いい流れで来ているので、このまま崩さないようにしていきたいですね」

 塩澤、西田をはじめ、名取燎太、鈴木雄太の3年生カルテットが「非常にいい状態」と両角監督は自信を見せる。3大駅伝は黄金世代の4年生が中心となるメンバー編成が予想されるが、3年生が主力を喰うような力を見せつつある。本番に向けて、期待は膨らむばかりだ。