廣瀬俊朗(ひろせ・としあき) 1981年10月17日生まれ。大阪府吹田市出身。地元の吹田ラグビースクールでラグビーを始め、中学時代まで同クラブでプレー。その後、“ラグビーの名門”北野高校、慶應義塾大学に進学。年代別の…

廣瀬俊朗(ひろせ・としあき)

1981年10月17日生まれ。大阪府吹田市出身。地元の吹田ラグビースクールでラグビーを始め、中学時代まで同クラブでプレー。その後、“ラグビーの名門”北野高校、慶應義塾大学に進学。年代別の日本代表でプレーした経験を持つ。2004年から2016年まで東芝ブレイブルーパスの主力として活躍。高校、大学、社会人のほか、日本代表でもキャプテンを歴任。日本代表としては2007年に初招集され、2015年ワールドカップ・イングランド大会にも出場。現在は、『スクラム・ユニゾン』という活動を通して、ラグビーの普及に尽力している。

<SOCCER KING 増刊「ようこそ、熱狂のラグビーワールドへ」掲載の廣瀬俊朗氏のスペシャルインタビューの一部を特別公開!>

ーーキャプテンとしてチームを引っ張っていく上で、一番こだわったことは?

廣瀬 まず、僕自身がこだわったのは選手一人ひとりが「このチームはいいな」、「このチームが好きだな」と思えるグループを作ること。その上で一番大事にしたのはやはり人間関係でした。例えば、お互いをニックネームで呼び合うとかシンプルなことですが、そういう中でお互いを認め合ったり、お互いを好きと思えたり、お互いをよく知り合える。仲間意識を高めることで合宿での厳しいトレーニングに取り組み、厳しいけれどこの仲間たちと一緒に過ごしたい。みんなが心からそう思えるチームを作りたいという想いを持って取り組んでいました。就任当初、エディさんは個々のパフォーマンスを見ながらも、いわゆる〝チームマン"、つまりチームに貢献できる選手を主体としたチームを作っていこうとしていたと思います。

ーー廣瀬さんが理想とした〝好きと思えるチーム"を作る過程でキャプテンだからこそ味わえた喜びもあったと思いますが……。

廣瀬 チームメート一人ひとりが〝エディ・ジャパン"でプレーできていることをうれしいと思ってくれたり、厳しい練習できつい想いを共有しながら試合をやって、勝ってファンの方に喜んでもらって、試合後にみんなで食事をしているときのチームメートの表情などを見ているのはやはり幸せな瞬間でしたね(笑)。

チームマンを求められ 世界の舞台でチームマンに

ーーその後、エディ・ジャパンは2015年のワールドカップに出場。廣瀬さんご自身も「通常の日本代表戦とは全然違う」というコメントをたびたびされています。改めてその空気感について教えてください。

廣瀬 ご存知の通り、ワールドカップは4年に1度なので、選手一人ひとりにとっても楽しみにしている舞台ですし、選手としてはそこにピークを持っていこうとします。僕自身、その想いはファンの方も同じだと思っています。4年に1度のワールドカップを見るために貯蓄をしたり、その舞台でどの国がどんな戦いを見せてくれるのか、優勝する国はどこだろうというようなワクワクした想いを持ってスタジアムに来ると思います。当然、そういう人たちが世界中から集まってくるので、スタジアムの雰囲気は最高です。スタンドで隣り合わせになったファン同士が「みんなでこのお祭りを楽しもう!」という空気が漂っていて、その光景も最高なんですよ。

ーーそういったファンの歓声が地鳴りのような重低音で響いてくるそうですね。

廣瀬 海外のスタジアムは球技専用で陸上トラックがなく、ファンの声援が屋根で反響して大音量になってこだましてきます。その雰囲気も素晴らしいと感じました。また、海外のラグビーファンの方はラグビーをよく知っているというか、玄人好みというか。いいプレーには大きな拍手でスタジアムを盛り上げてくれるし、消極的なプレーがあれば一斉にため息が聞こえてくるというか。中には試合中に歌を歌ったり、そういうラグビーならではの雰囲気も素晴らしいと思います。

ーー一つ心残りだろうと思うのは、廣瀬さんご自身がそういう雰囲気の中でグラウンドに立てなかったことでしょうか?

廣瀬 チームとしての目的は果たせましたけれど、一人の選手としてはやっぱり立ちたかったし、そういう想いは絶対に持っていなければいけないと思います。

ーーただ、廣瀬さんはチームの一員として果たすべき役割を自ら見つけ、チームを支えたと聞きました。
廣瀬 僕自身、エディ・ジャパンで長らくキャプテンを務めさせてもらいましたが、大会前にキャプテンを引き継いでからからあまり試合に出られなくなりました。それでも自分なりに努力を重ねて、ワールドカップメンバーに入ることができました。選手としてつらい立場に置かれた僕が挫けることなく頑張っている姿を見て「廣瀬のために」と思ってくれたと思いますし、グラウンドに立てない僕自身の新たな役割として、チームを盛り上げようとビデオメッセージを集めて、チームメートに見せることができたのは良かったと思っています。

ーー試合に出られないと分かったときに〝新たな自分の役割"を見つけようと思えた理由は?
廣瀬 日本代表のチームメートとは常に「憧れの存在になりたいよね」と話していました。そうなるために一番大事なのは試合だと思いますが、それ以外にも憧れの存在になるためにできることはたくさんあると思っていました。それが自分だけの役割と思えて、〝居場所"を見つけられたのは大きかったと思います。また、チーム作りの際にこだわったこととして人間関係を大事にしたと話しましたが、この仲間たちと一緒にいたいとか、一緒に素晴らしい経験をしたいという想いがありました。それは試合に出ようが出まいが関係ないと思っていましたし、一緒に夢を追い掛けていると思えたのも大きかったと思っています。

ーーエディヘッドコーチが求めた〝チームマン"に、廣瀬さんご自身もなっていたということですね。

廣瀬 そうですね。確かに〝チームマン"になれていたと思います。

ーーラグビーファンに限らず、多くの人の印象に強く焼きついている南アフリカ戦についても聞かせてください。試合終了直前、リーチ・マイケル選手が大きな決断をしました。

廣瀬 スクラムを選んだシーンですね。あのときは、僕たち選手の中ではペナルティゴールで同点にするという選択肢はなかったです。やはりあの南アフリカに勝つというチャンスは2度とないと思っていました。それこそあそこで勝たなければ〝憧れの存在"にはなれないし、日本ラグビーの歴史は変えられないと強く思っていました。スタンドからは「ペナルティキック」の指示が出ていましたが、南アフリカ代表の選手たちが焦っているのは明らかだったので、誰もが「ここはチャレンジするしかない」と思っていたはずです。

ーー廣瀬さんがキャプテンとしてグラウンドに立っていてもその選択をしたと思いますか?

廣瀬 同じ選択をしたと思います。ただ、チームとして目標としていたベスト8というゴールを見たときに、確率論で言えば本当に正しい判断だったかどうかは分かりません。でも、正直、あの瞬間、あの場面でペナルティゴールは狙えなかったと思います。リーチ選手にとっても、大きな決断だったと思います。

ーーリーチ選手のその決断により、歴史的な大金星を挙げました。実際に現場にいた選手として日本ラグビーの〝歴史が変わった瞬間"は、トライの瞬間だと思いますか? それともリーチ選手がスクラムを選択した瞬間だと思いますか?

廣瀬 面白い聞き方ですね(笑)。難しいですね。変わった瞬間で言えば、やはりトライを取った瞬間だと思います。ただ、この質問の本質で言うと、スクラムを選んだ瞬間かもしれないですね。今まであのような選択を選べなかったと思いますから。その一方で、試合後に南アフリカ代表の選手たちが僕たちに「おめでとう!」と言ってくれたのは忘れられません。

ーーまた、そのときの熱狂が、今度は日本で開催されます。廣瀬さんから見て、今のジョセフ・ジャパンはどんなチームですか?

廣瀬 ジョセフ・ジャパンはボールをよく動かすチームです。フェーズと言いますが、ボールを動かしながら何度もポイントを作ってトライを狙いにいくのがチームの特長の一つだと思います。前回はパス主体のチームだったのですが、今回のチームは日本人が持っているベースの部分、つまり運動量とか規律、連動性に加えてキックを効果的に織り交ぜられるようになって、戦い方のバリエーションは増えていますし、相手にとっては的が絞りにくくなっている。そこはジョセフ・ジャパンの強みだと思います。この夏に行われたパシフィックネイションズカップで3戦全勝していますし、いい仕上がりになっていると感じます。簡単な試合は1試合もないとは思いますが、自信を持って、自分たちのスタイルを信じて戦っていけば、全く勝てないという相手はいないと思っています。

ーー廣瀬さんがキャプテンを務めていた当時からともに戦ってきた選手も今大会のメンバーに選ばれています。彼らに対する思い入れもあるのでは?

廣瀬 前回のワールドカップを知っていて、2012年から2015年に掛けてチームを作ってきた過程を一緒に過ごしてきた選手がたくさんいるのはジョセフ・ジャパンにとってもプラスになると思います。僕にとっても一番きつかったと言えるぐらいのハードワークを積み重ねてきたのですが、あのトレーニングがあって、あの勝利があるというのは、彼らも分かっているはずです。もちろん前回と同じように戦えば結果を出せるというわけではありませんが、ハードワーク=日本代表として一つのカルチャーになっています。

ーーでは最後に、今回の日本代表メンバーへの熱い想いを聞かせてください。

廣瀬 今回、自国開催のワールドカップに出場するメンバーに選ばれたことは、本当に素晴らしいことですし、誰もが経験できることではありません。だからこそ、選手たちにはまずはその喜びを存分に感じてほしいです。また、今回この舞台に立っていられるのは、それぞれの努力の積み重ねのほかに、いろいろな人たちの支えがあったからこそだとも思います。そういう人たちへの恩返しになるようなプレーや結果を出してもらえたらうれしいですね。僕も期待しています!

取材・文=奥田明知 Interviewed and text by Akitomo OKUDA
写真=新井賢一、ゲッティイメージズ Photo by Kenichi ARAI, Getty Images

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