最寄り駅の神戸電鉄粟生線「恵比須駅」で下車すれば、シャトルバス待ちの行列が昨日より短いことにホッとする。3日目を終えて、渋野日向子のスコアは通算1オーバーで、トップをいく畑岡奈紗は通算13アンダーだ。その差は14打と大きく開き、渋野の優勝…

 最寄り駅の神戸電鉄粟生線「恵比須駅」で下車すれば、シャトルバス待ちの行列が昨日より短いことにホッとする。3日目を終えて、渋野日向子のスコアは通算1オーバーで、トップをいく畑岡奈紗は通算13アンダーだ。その差は14打と大きく開き、渋野の優勝の可能性は限りなく0%に近づいた。

 本日は昨日よりさらに暑くなるとの予報。ゴルフ観戦にはキツすぎる気候だ。”シブコ・フィーバー”のほうは、逆にいくらか収まるのではないか。入場者が1万人を超えた昨日のような騒ぎにはならないのではなのか……との読みは、しかし大きく外れることになった。

 午前8時過ぎに会場のチェリーヒルズゴルフクラブに到着。MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)のスタートをネットで確認したあと、コースに出て行けば、あたり一帯は、すでにディズニーランドを彷彿とさせる、楽しげな喧噪に包まれていた。

 MGC出場選手が走る東京都心のコースと違い、こちらは神戸の郊外。市街地から電車で1時間近く揺られないと来られない丘陵地だ。あとで聞いた話によれば、ギャラリーの数は前日をさらに上回る1万3000人を超えていたという--。



日本女子プロ選手権では通算1アンダー、33位タイに終わった渋野日向子

 日本女子プロ選手権コニカミノルタ杯最終日。

 8時30分、渋野はすでにスタートを切っていた。もちろん、大ギャラリーを引き連れて。

 1バーディー、1ボギーで迎えた7番のパー5。3打目を右奥のラフに外した渋野は、なんと4打目のアプローチをシャンクしてしまう。ボールはすっぽ抜けるようにラフからラフへと真横に飛んでいった。

 ゴルフは、大袈裟に言えば事件の連続だ。よい事件もあれば、悪い事件もある。前日にも、あらぬ事件を目撃していたばかりだった。16番で畑岡が演じた空振りシーンである。ラフで浮いたボールの下をクラブヘッドがくぐり抜けるという、プロの大会では滅多に見かけないプレーを2日連続で目にするとは、何たる偶然。さらに続く8番ホールでも、渋野の同伴競技者である葭葉ルミが、畑岡と同じようにアプローチを空振りしてしまう。

「ラフに入った時は、大抵ボギーでした。グリーン周りの長いラフに対応できませんでした。『勉強になった』と言うより、『課題が見つかった』という感じです」

 とは、試合後の渋野のコメントだが、それほど今大会のラフは深くて難しかったのである。

 また、渋野はこの日、パーオンしたホールが18ホール中、17もあった。つまり、惜しいパットをかなり外したということになる。こちらが見た限りでも、3~4mのパットを4、5回は外していた。

 14番でバーディーパットを外すと、”シブコ・ファン”のオジさんのひとりが「いい加減、バーディーパット、入れてみ~や」と、苦笑と溜息をミックスしたようダミ声を飛ばし、周囲の笑いを誘っていた。その声が届いたのか、続く15番、16番と、渋野は連続バーディーを決め、スコアを通算1アンダーとした。

 名物ホールの最終18番(パー5)では、渋野は同組の葭葉とともに池越えの2オンにチャレンジ。グリーンには乗らなかったものの、見事に池越えを成功させ、ロングホールのコース脇を立錐の余地なく埋め尽くした大ギャラリーから、万雷の拍手を浴びていた。

 渋野が通算1アンダーのまま18番をホールアウトすると、そのタイミングで隣の10番ホールに最終組が現われた。

 畑岡を追うフォン・シャンシャンがそこでバーディーを奪ったのに対し、逃げる畑岡は短いバーディーパットを外してパー。畑岡は通算15アンダー、フォン・シャンシャンが通算11アンダーと、2人の差は4打差に縮まった。残り8ホール、試合の行方はまだわからない。

 11番のパー3。フォン・シャンシャンは勝負と見たのだろう。バーディーパットを入れる気満々で強く打った。しかし、そのパットはかなりオーバーして、返しをも決めきれずボギーにする。

 12番でバーディーを決めた畑岡が16アンダー、フォン・シャンシャンが10アンダーで迎えた14番パー5。ティーショットをラフに入れた畑岡はボギーで、フォン・シャンシャンはバーディー。その差は再び4打差に縮まった。残りは4ホール。まだまだわからない。

 続く15番は距離の短いパー4。フォン・シャンシャンの第1打は右のラフに捕まる。畑岡の第1打も逆サイドのラフへ転がっていった。ところが、である。ラフが順目だったのか、ボールはツンツンと転がりなんとフェアウェーに戻ってきた。

 畑岡のセカンドショット。ピンまで70ヤード。使用したクラブは「(ウエッジの)58度だった」と言う。

 次の瞬間、このトーナメント最大の事件が起きた。

 携帯している単眼鏡で、ふわりと上がったボールの行方を追った。単眼レンズは、白いボールがピン方向に放物線を描いていく弾道を、確実に捉えていた。が、白球が突然消えた。エッと思ったその時だった。「カン、カララン!」と、金属音が聞こえてきたのは……。

 畑岡が放った第2打は、直径108ミリのカップに直接吸い込まれていた。グリーンを取り囲んだギャラリーは唖然。ほぼ全員が、声にならない声を挙げていた。

 動揺したのか、フォン・シャンシャンはダブルボギー。2人の勝負は、これをもって決着した。

 世界ランク9位の畑岡が、世界ランク21位のフォン・シャンシャンを制した試合。ひと言で言えばそうなるが、一方で、世界ランク13位の渋野が、9位の畑岡に”完敗した試合”という見方もできる。

 畑岡の意地を見た試合。

 渋野は全英女子オープンで優勝したあとのインタビューで、当面、海外でプレーするつもりはないと述べていたが、世界で活躍する畑岡に完敗した今となってはどうなのだろうか。心境の変化はあるのか。”シブコ”は国内のヒロインで居続けるのか、それとも……。

 できれば、海外ツアーで奮闘する渋野の姿も見てみたい。