将来のエース候補として期待される18歳を“レジェンド”はどう見ているのか。中日の大先輩で、同じ左腕として数々の偉業を成し遂げてきた山本昌氏はその能力を認めつつ、「まだ物の数じゃないですよ」と厳しく評価する。その真意とは何なのか。■デビューか…
将来のエース候補として期待される18歳を“レジェンド”はどう見ているのか。中日の大先輩で、同じ左腕として数々の偉業を成し遂げてきた山本昌氏はその能力を認めつつ、「まだ物の数じゃないですよ」と厳しく評価する。その真意とは何なのか。
■デビューから9試合登板で白星なし、「18歳にしては上等。これ以上の話は出ない」
中日のドラフト1位ルーキー・小笠原慎之介投手がプロ初勝利の“壁”を越えられずにいる。5月31日のソフトバンク戦でプロデビューを果たし、ここまで9試合に登板。そのうち6試合に先発したが、0勝4敗、防御率4.54と白星がついていない。14日の阪神戦では3回2/3を5安打4四死球5失点と崩れた。
将来のエース候補として期待される18歳を“レジェンド”はどう見ているのか。中日の大先輩で、同じ左腕として数々の偉業を成し遂げてきた山本昌氏はその能力を認めつつ、「まだ物の数じゃないですよ」と厳しく評価する。その真意とは何なのか。
現役選手として32年間、マウンドに立ち続けた山本氏は小笠原について「18歳にしては上等。これ以上の話は(自分からは)出ないですよ」と話す。「まだまだ力的に、すぐに日の丸背負えるかとか、10勝できるかっていったら、そんなことないんですよ」。昨夏の甲子園で東海大相模高(神奈川)のエースとして全国の頂点に立った左腕だが、プロとして経験を積み始めたばかり。騒ぎ立てることはないというのだ。
「これからまた壁もあるだろうし、いろんなこともあるでしょうから。ただ、このまま順調に育ってくれれば、楽しみな投手になる。どちらかと言うとDeNAの今永投手にピッチングスタイルは近いと思うので、4年後に今永投手になれば、追いついたということになる。時間はたっぷりあるわけだから、ドラゴンズとしては壊さないでしっかり育成していってほしい」
これが大先輩としての偽らざる想いだ。
■18歳の度胸は評価「明らかに勝負強い」
ただ、将来のエース候補として、能力の片鱗は確かに見せているという。山本氏がまず評価するのが、精神力だ。5月31日のソフトバンク戦は5回1失点、6月7日のオリックス戦は5回2失点と、デビューから2試合連続でしっかりゲームを作った。いずれも降板後に追いつかれて白星が消えており、救援陣の踏ん張りと打線の奮起があればプロ初勝利を飾れていた。前回登板の阪神戦では崩れたが、その他の先発登板では試合を壊していない。救援の3試合もいずれも無失点だった。
「18歳のドラフト1位が期待に応えてゲームを作れているというのは、非常に立派だと思いますし、この先ガンガン伸びて、国を背負える投手にある可能性も十分にあると思います。でも、これも彼が中学、高校と日本代表を経験しているからこそ、大舞台に強いのだと思います。国際試合で度胸をつけている。気持ちの踏ん切りのつけ方をしっている。そういうことだと思います。ファームよりも1軍の成績の方がいいというのは、明らかに勝負強い。大きな試合に物怖じしない経験を積ませてもらってきた。そういうことだと思います」
その「度胸」は、ピッチングの中に見て取れるという。
「ストレートも速いし、ストライクが入るのがまず立派。プロのストライクゾーンというのは、投げる方にしたら本当に高校時代の半分くらいしかないと感じるほど狭いので。そこにストライクを放り込んでいけるだけでもすごいと思います。去年の今頃は高校生で投げていたわけだから。立派だなと思います。楽しみな素材ではある」
■小笠原が持つ確かな素質、「そのレベルに放り込まれて、ある程度のことは出来る」
まだまだ、この先どうなっていくかは分からない。評価をするにも早い段階と言える。ただ、小笠原はプロで好投手になる素質は確かに持っている。山本氏は続ける。
「そのレベルに入っちゃうと、そのレベルになっちゃう子っているんですよ。そのレベルに放り込んだから、そのレベルを感じ取って、うまくなっていく子はいる。それを感じられるというのも必要。それを感じられない選手は、いつまでたっても感じられないから。ドラフト1位でもそういう選手はいる。入ってきた時はうまいんだけど、そのレベルの中で1人で溺れてるような感じ。
でも、ドラフト5位でも(プロに)入ってきて、そのレベルを見てどんどん上手くなっていく選手もいる。もちろんドラフト1位の方が活躍する確率は高いけど、でも、ドラフト下位でも、育成でも別にゼロではない。そのレベルに放り込まれた時にどうなのか。だから、小笠原はそのレベルに放り込まれて、ある程度のことは出来るということなので、将来期待できると思います」
厳しいプロの世界で生き残っていく能力を確かにある。エース級の投手になる素質もある。ただ、評価をするのは、しっかりと経験を積んでから。愛情あふれる山本昌氏の“ゲキ”は届くか。18歳のキャリアはスタートしたばかりだ。
◇山本昌(やまもと・まさ)
1965年8月11日、東京・大田区生まれ。51歳。本名・山本昌広(やまもと・まさひろ)。84年のドラフト5位で中日に入団し、32年間現役としてプレー。93年(17勝)、94年(19勝)、97年(18勝)と3度の最多勝に輝き、93年は最優秀防御率(2.05)、97年は最多奪三振(159)のタイトルも獲得した。94年は19勝8敗、防御率3.49で沢村賞。2006年9月16日の阪神戦(ナゴヤドーム)で史上73人目のノーヒットノーランを達成。08年8月4日の巨人戦(ナゴヤドーム)では史上24人目の通算200勝に到達した。2014年9月5日の阪神戦で49歳25日で白星を挙げ、NPB最年長記録を更新。2015年10月7日の広島戦では、NPB史上初の50歳出場・登板(50歳1か月26日)を果たした。通算581試合登板、219勝165敗、2310奪三振、防御率3.45。186センチ、87キロ。左投左打。公式サイトは「山本昌オフィシャル・ウェブサイト」(https://yamamotomasa.com)。