4年前の「奇跡の再現」はならなかった--。 9月6日、自国開催のラグビーワールドカップ開幕を控えるラグビー日本代表(世界ランキング10位)が南アフリカ代表(5位)と激突。埼玉・熊谷ラグビー場で、本番前最後の壮行試合を行なった。南アフリカ代…

 4年前の「奇跡の再現」はならなかった--。

 9月6日、自国開催のラグビーワールドカップ開幕を控えるラグビー日本代表(世界ランキング10位)が南アフリカ代表(5位)と激突。埼玉・熊谷ラグビー場で、本番前最後の壮行試合を行なった。



南アフリカ代表の強力なスクラムに日本代表も負けていなかった

 南アフリカ代表と言えば、2015年ワールドカップで日本代表が34-32と逆転勝利し、「ブライトンの奇跡」を起こした相手だ。世界屈指のフィジカル大国として君臨し、常にトップの座を争っている。7月にはオーストラリア代表を撃破し、「オールブラックス」ニュージーランド代表には引き分けた。もちろん、今回のワールドカップでも優勝候補の一角である。

 リベンジに燃える南アフリカ代表は、本番2週間前であろうとも、日本代表相手に手を抜く姿勢は示さなかった。オールブラックス戦を戦った23人中、22人が同じメンバーで臨んできたのである。

「南アフリカ代表は、世界でもっと大きな対戦相手。身長も高い。かなりフィジカルなチャレンジとなるので、選手にとってワールドカップの準備をするために必要な試合だ」

 セットプレーの強い相手と戦いたいと熱望した日本代表のジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)がそう語ると、キャプテンのFL(フランカー)リーチ マイケルは、「この4年間、積み重ねてきたことのすべてを南アフリカにぶつけて、このチームがどれだけ強くなったか試したい」と腕を撫(ぶ)した。

 世界のラグビーファンが注目し、22258人の観衆が見守るなか、日本代表は世界最高峰のチームに戦いを挑んだ。しかしながら、結果は7−41の大敗。前半3つ、後半3つの計6トライを奪われ、残念ながら最後まで勝機の流れを掴むことはできなかった。

 ただ、フィジカル大国相手に十分に戦えているポジティブな場面もあった。日本代表はこの試合、ほぼ事前のゲームプランどおりに戦うことができていた。

 まず、キックを蹴る際はタッチに出さず、相手の反則後もクイックタップでリスタートするなど、大きな相手FWを走らせて疲れさせるためにセットプレーを少なくしようとしていた。さらに、前に出てくる相手のディフェンスに対しては、ダブルラインや飛ばしパスを使って大きく展開し、端(エッジ)のスペースを突くこともできていた。

 しかしながら、相手陣22メートルライン内に入っても、残り1メートル、50センチのところで止められ、なかなかトライに結びつけることができなかった。南アフリカ代表に一瞬でも隙を見せると、たちまちジャッカル(ラックボールを奪うプレー)を許してしまう。BK(バックス)がモールに参加しても、トライは取れなかった。ここが、世界との差か……。

 PR(プロップ)稲垣啓太は、その差をこう振り返る。

「勝敗を分けたのは、ディテール(細かい点)の差。ティア1(世界の強豪10チームは)のチームは、ひとつのミスをトライに持っていける力がある。相手の22メートルに入って、あと一歩、早めにボールが出れば……というところで、相手は確実に(ボールに)絡んできた」

 南アフリカ代表の戦術も長けていた。29度の暑さ・湿度のなかでボールを保持するのではなく、9番や10番からのキックを多用し、ラインアウトを増やして空中戦やディフェンスでプレッシャーをかけてきた。日本代表は自分たちからボールを持ったというより、持たされてしまった感が強い。

 また、その空中戦でも後手を踏んでしまった。攻めてもなかなかトライが奪えない状況のなか、前半22分にSO(スタンドオフ)田村優のハイパントキックを相手にキャッチされて簡単にトライを許したことは、チームの勢いを削がれる痛恨の一打となった。

 ジョセフHCは試合後、こう反省する。

「相手の空中戦が非常に強かった。キックも競り負けて失点した。日本代表のWTB(ウィング)は福岡(堅樹)も松島(幸太朗)も体格が大きくないので、そこで劣勢になってしまった。(ワールドカップで対戦する)スコットランドやアイルランドもそういう戦術を組み立ててくると思うので、そこを課題として取り組んでいきたい」

 最後の壮行試合で、新たな課題が見つかった。ただ、先日のパシフィック・ネーションズカップ(PNC)で出た課題は、きっちりと改善されていた。

 トンガ代表戦では13回、アメリカ代表戦では12回と反則が多く、それで相手にペースを握られた場面があった。だが、この試合では規律を守る意識が高く、前半4回・後半4回の計8回と少なかった。また、モールで相手に押されても反則して止めることなく、我慢して戦うことができていた。

 もうひとつはスクラム。7月に施行された新ルール(※)の影響もあり、PNCでは安定したスクラムができていなかった。ただ、8月の網走合宿で課題に取り組んだ結果、南アフリカ代表戦ではマイボールスクラムを9本、しっかりとキープすることができた。

※スクラムを組む際、レフェリーのセットのコール前にFW第1列の選手は頭を相手選手の首や肩に触れてはいけない。

「スクラムは非常にうまく機能していた。南アフリカの強いFW陣に対し、いいスクラムを組めていたのは、長谷川慎スクラムコーチの献身的なコーチングのおかげだ」(ジョセフHC)

「スクラムの後ろの選手の足の使い方がうまくなった。ファーストスクラムでいけるという自信を得ることができた。(スクラムで)プレッシャーをかけられたし、成長した部分を見せられた」(稲垣)

 モールからのディフェンスも修正できており、セットプレーではワールドカップで戦える目処がついたと言えよう。

 ただ、ラグビーは得点を競う競技だけに、やはり相手陣22メートル内まで入ったならば、きっちりと得点に結びつけないと勝てない。今回のような強豪相手には、1回のチャンスで取り切る遂行力が欠かせないだろう。

 また、ワールドカップ期間中も高温多湿の天候が続くかもしれず、相手が今回と同じようにキックを多用してくることも十分に予想される。これらのことも含めて、本番までに修正することが必須だ。

 残された時間は2週間。リーチはこう語る。

「ワールドカップ前に南アフリカと対戦できて、本当によかった。あらためて、世界の強さがわかりました。このチームは修正能力が高いので、(ワールドカップまで)十分に時間はあります。

 このチームは間違いなく、歴代最強のチームになっている。今日の負けから得たものもたくさんある。(それを)エネルギーにして(ワールドカップの)予選プールひとつひとつを大事に戦っていきたい」

 9月20日のワールドカップ開幕戦、日本代表はフィジカルの強いロシア代表(20位)と対戦する。「南アフリカ戦がいい教訓になったから勝てた」という試合にすることができるか。