19点差の敗戦から13点差の敗戦へ。スコアは改善されたとしても、突きつけられる事実は変わらなかった。

「勝つためにはより良いディフェンスをしないといけませんし、リバウンドの面でも改善しないといけない」

 中国で行われているバスケットボールW杯2戦目。チェコを相手に76-89で敗れたあと、八村塁はそう振り返った。

 これで日本は1次リーグで2連敗、1次リーグ突破の可能性は消滅した。1次リーグの3試合を終えたあとは、全参加国の下半分、17位から32位までを決める順位決定ラウンドへ回ることになった。

テストマッチとW杯との差。

 初戦で当たったトルコは、入念なスカウティングで日本の良さを消そうとしてきた。そこに日本は戸惑い、苦しんだ。

 日本は過去にないレベルの充実した相手とのテストマッチを、8月に6試合も組むことができた(完全非公開のチュニジアとの練習試合を含む)。

 しかし、彼らは公式戦とは異なり、日本を研究し、対策を講じてきたわけでもない。日本もまた、テストマッチの相手の分析と対策は最小限にとどめていた。バスケットボールに限らず親善試合にありがちなことだが、両チームがお互いの良さを出し合う戦いだったわけだ。そして迎えた本番、日本は相手国の徹底的な対策にあきらかに苦しんでいた。

 そして、1つひとつのプレーのインテンシティーもテストマッチとW杯とでは大きく異なる。

 2戦目のチェコ戦を控えて、ベテランの竹内譲次はこう話していた。

「経験の差は、もちろんあると思います。ただ、それですませてよい場所でもないし、経験がないながらも、自分たちが出せる力を出そうとしなきゃダメ。個人個人が受け身になるのではなくて、もっと積極的にやることが必要なのかなと思います」

 2006年の世界選手権(現在のW杯)の経験者である竹内譲次が語ったように、選手たちは与えられた状況で何とかしようともがいていた。

本職ではない田中のPG起用。

 そんななかで迎えた9月3日のチェコ戦では、フリオ・ラマスHC(ヘッドコーチ)はスタメンを2人変更した。

 相手のポイントガード(PG)であるトマシュ・サトランスキーは201cmの高身長で、シカゴ・ブルズで活躍する選手だ。そこでラマスHCは、PGに田中大貴を、SG(シューティングガード)には馬場雄大を先発に送り込んだ。サトランスキーのマークにはSGの馬場を、相手SGの202cmのヴォイチェフ・ハルバンには田中をマッチアップさせた。

 田中の本来のポジションはPGではない。にもかかわらず、今大会ではPGでの起用が主になっている。その理由の1つが、相手チームのサイズの大きいPGと対峙するシチュエーションを考慮されたからだ。

 7月31日のW杯候補メンバーの発表の時点で、ラマスHCは長身PGのサトランスキーを擁するチェコ戦では田中のPG起用がカギを握ると話していた。そして、相手のエースを抑える役割を与えられた馬場も、また、燃えていた。

「『サトランスキーはお前がマッチアップに行くんだ!』という風にラマスさんが言ってくれて。トルコ戦で最初にガツンとやられていたのは自分たちのディフェンスに問題があったからだと思っていました。なので僕がマークを託されたからには、最初からエンジン全開でやろうと思っていました」

第1Qを同点で終えた日本。

 初戦では散々な立ち上がりから第1Q(クォーター)で16点もの差をつけられた日本だったが、チェコ戦は違った。この試合のための作戦も、HCからのタスクを意気に感じた選手たちも、序盤はそれにしっかり答えていた。

 その結果、1Qは18-18の同点で、2Q終了時も40-45という競った展開でハーフタイムを迎えることになった。

 しかし後半は、同じ強度ディフェンスを維持できなかった。3Qでも4Qでも、4点ずつ差を広げられ、最終的には76-89で辛酸をなめることになった。

「少し足が止まってしまった」

 ずるずると離されてしまった理由は何だったのか。

 この試合にむけて大きな期待を受けていた田中は、こう振り返る。

「やはり、第3Qで少し足が止まってしまいました。自分たちの徹底できない部分が積み重なって、最後はこのような展開になってしまった。本当に小さいところの差だとは思うんです。スクリーンをかけられなかったり、細かいところでズレが作れなかったり、最後に苦しいショットになってしまったり……。

 それに対して、相手は40分間しっかりスクリーンを当ててきますし、そういうものがボディーブローのようにダメージになる。戦えていたところもありましたが、トータルして戦えない。そこが今いちばん自分たちの足りないところかなと思います」

 40分間のゲームの間ずっとフィジカルコンタクトが続くと、コンタクトに慣れていない選手は少しずつ体力を削られていく。ボディーブローのように、それがダメージとして蓄積される。後半になって日本の足が止まり、ジリジリと差をつけられていったのは、その見えないダメージの蓄積によるものだった。

 8月に日本で行われた親善試合では、後半になると日本が点差をつめていけたのだが、それは公式戦とは比較にならないインテンシティーの低い試合だったからこそ、可能だったということなのだろう。

ラマスHC「長い目で改善」

「今の選手たちのほとんど……10人の選手が国内でやっています。残念ながら、Bリーグはまだまだフィジカルコンタクトの激しいリーグではないので、これまで対戦したヨーロッパのユーロリーグなどと比べて、そういったプレーが少ない」

 ラマスHCもそう認めたうえで、一朝一夕で解決できる問題ではないと明かしている。

「フィジカルコンタクトに関しては、直していけると信じてやっています。国内ではなかなかフィジカルコンタクトがないぶん、我々と一緒に選手たちがトレーニングするときにはそういったところを意識させていきます。ただ、1年ではそうそう結果は出ないと思いますので、長い目でみて、どんどん改善していきたい」

NBAプレーヤーを待つのではなく。

 NBAでプレーする渡邊雄太や八村、あるいはアメリカで戦っている若い選手たちであれば、日々の戦いの中で自然と世界レベルのフィジカルになれていくことができるだろう。

 しかし、Bリーグで戦っている選手たちはそうもいかない。世界レベルで遜色なく戦えるようになるためには、選手自身が意識を変えるだけではなく、Bリーグの環境をどう作るかも考えていく必要がある。

「NBAはもちろん、ユーロリーグと比較しても、日本ではコンタクトに対していとも簡単にファールがとられすぎてしまいますよね。バスケットは、そこまでぬるいスポーツではないし、現状が良いとは思えません」

 そう話すBリーグの指導者もいるが、審判の判定基準や外国籍選手の出場に関するルールの整備も含めて、Bリーグと日本バスケットボールの普及にかかわるすべての者たちはこの課題と向き合っていかないといけない。

 それができなければ、NBAやヨーロッパでプレーする選手が日本代表に増えていくのをただ待つだけになる。せっかく自分たちの日常たるプロリーグができたのに、指をくわえて待っていることほどにみじめで、情けないことはないだろう。

決して下を向かない選手たち。

 光明があるとすれば、選手たちが現状に甘んじたり、言い訳に逃げたりしていないことだろう。「まだまだW杯は続くので、ここからも成長していきたい」と語った渡邊以外にも、言い訳などせずに危機感をあらわにする選手たちがいた。

 田中はこう話している。

「親善試合は親善試合、本番は本番、だとわかっているつもりでも、本番でいざ試合をすると、本当の強さのようなものを感じますし何十年ぶりに(自力で)この大会に出て、簡単に2つ勝って上に進めるほど甘い世界ではないと思います。

 こういうフィジカル(コンタクト)は普段の自分たちがなかなか経験できないものです。普段から意識を変える必要がありますし、オリンピックまで時間がないと思うので、もっと要求していきたいなという思いがあります」

 31歳になったキャプテンの篠山竜青もこう語った。

「僕がいま24歳であれば、『良い経験をしています。次の世界での戦いまでにしっかり成長します』と言えますけど、『これを良い経験として持ち帰ります』と言って、帰っていいわけではない。試合のなかでアジャストしないといけない」

日本バスケに問われるもの。

 ここ数年で大きく進歩したように見える日本のバスケットボール界でも、単純には縮められない世界との差がある。

 一朝一夕で改善できるわけではない課題が、白日の下にさらされた。

 選手たちは、この現実を目の当たりにして心が折れるのか、ガムシャラに立ち向かっていくのか。

 1次リーグ突破という明確な目標が断たれた今だからこそ、選手たちのメンタリティーと覚悟が問われる。

 これからも日本代表のユニフォームのために、すべてを捧げられるパーソナリティーを持った選手なのかどうか。順位決定ラウンドを含めた残りの3試合は、そんな選手としての覚悟と真価が試される舞台となるのだ。

(「バスケットボールPRESS」ミムラユウスケ = 文)