専門誌では読めない雑学コラム木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第220回 最近のプロゴルフのトーナメント中継は、長期低落傾向が続いていました。とくに国内の男子は「地味でつまんない」と嘆いていたところ、突如女子ツアーには「スマイルシンデレラ…
専門誌では読めない雑学コラム
木村和久の「お気楽ゴルフ」連載●第220回
最近のプロゴルフのトーナメント中継は、長期低落傾向が続いていました。とくに国内の男子は「地味でつまんない」と嘆いていたところ、突如女子ツアーには「スマイルシンデレラ」が降臨してくれたじゃないですか!?
渋野日向子選手。若干20歳ながら、全英女子オープンで優勝。日本勢、42年ぶりのメジャーチャンピオンになったのです。
今回、当初は「数字の取れる選手を求む」というテーマを取り上げようと思っていたのですが、もうその必要はありませんね。
とはいえ、せっかくネタを作っていたので、今までいかにゴルフ中継が悲惨だったか、ちょっとだけ読んでください。ほんと、ちょこっとだけです。
ゴルフ中継はかつて、日曜日のお父さんの楽しみとして、根強い人気がありました。バブルの頃は、視聴率10%超えもざら。しかも、地方のローカル局の制作で全国ネットを張れるから、非常に”オイシイ”コンテンツだったのです。だから今でも、地方テレビ局の名前がついたトーナメントがいっぱいあるでしょ。
そういう意味では、プロトーナメントと地方テレビ局は、もはや離れられない運命なんですよ。なのに、それをどこぞの女子プロの会長がその”縁”を断ち切ろうとして……。そりゃ、無理な注文ですよね。だいたいテレビ局が主体でトーナメントを作っているのに、「放映権を預けろ」というのはないと思うんですけど……。
さて、以前は10%超えの時代もあったトーナメントの視聴率ですが、現在は男子で平均3~4%、女子が平均5%程度で、男子の低迷は際立っています。
ただ、石川遼選手が優勝した7月の日本プロゴルフ選手権では、最終日の平均視聴率が6.0%(関東地区。ビデオリサーチ調べ。以下同)。男子のトーナメントとしては、好成績でした。さらに、石川選手がツアー2連勝を飾った長嶋茂雄招待セガサミーカップ最終日も平均視聴率6.1%を記録しました。
つまり、数字の取れるスターがひとりいれば、ゴルフ中継は視聴率が1~2割はアップするんです。大事なことは、実力もさることながら、スター性です。
そういえば、渋野選手が全英女子オープンで優勝した直後、彼女のVTRを見たあとの松山英樹選手の感想が面白かったですね。ゴルフサイトの『GDOニュース』でこう伝えられていました。
「最近は笑うようにしています。そうしたほうがプラスになるかなぁ」
やや仏頂面でプレーしていることが多い松山選手。ちゃんと自分のキャラを変えようと努力しているところが素晴らしいです。
さらに松山選手は、渋野選手の全英女子オープンにおける、最後のおよそ5mのウイニングパットにも驚きの反応を見せて、「オレなら1mのショートですよ」と自嘲気味に語っていたそうです。続けて、「日頃から、ああいうパットが打てるところがすごい」と、絶賛しまくりです。
松山選手は、今自分が置かれている立場を十分に理解しているし、やるべきこともわかっています。それを踏まえて、世界で活躍するって、ほんと難しいんですよね。
一方、日本男子ゴルフ界のトップスターである石川遼選手。もちろん日頃から応援させてもらっていますが、最近その映り方が源義経的で、応援していることが”判官びいき”のように感じるんですよね。
賞金王に輝いた華々しい栄光を背負って、鳴り物入りで米ツアーに参戦。しかし、その世界の舞台ではパッとせず。その後、日本ツアーに復帰したものの、腰痛やスランプなどによって苦しい時期を過ごしてきました。
けど、実はまだ若い。「第2次黄金世代」を築いてほしいと思いますけど、いろんな苦悩を抱えるその姿に、なんかね、腫れ物に触るような感じの応援になっているというか、見ていてちょっとツラくなる時があるんですよ。
それは、感情移入しているからかもしれないですけど、本来ならこの人は、マスターズで優勝争いをすべき人だと思うと、悲壮感がすごく漂ってくるんですよね。
そうした状況にあって、颯爽と現われたのが、渋野選手です。ルックス、20歳という若さ、しかも社交的で屈託のない笑顔……これは、宮里藍選手が登場した時以上の衝撃です。
何がすごいかって、「ゴルフは楽しいものだ」ということを、行動で表わしている。こんな選手は見たことないです。とくにアマチュアゴルファーには、大いなる共感を呼んだことでしょう。
全英女子オープンの最終18番ホールのウイニングパットは圧巻でした。同ホールを迎える前には、ギャラリーとハイタッチしまくりで、グリーンに上がってくる時には、大ギャラリーの歓声に満面の笑顔で応えていました。パットの際には、外すとプレーオフといった重圧をまったく感じませんでした。
周囲から力をもらう発想が、今までの日本人選手にはありませんでしたよね。
最後の勝負どころにおいて、入れば7200万円、さらに歴史的な快挙達成というバーディーパットをすぐに打てますか? 外して負けたら、賞金は半分以下ですよ。栄誉も何もありません。
それを、あっという間に打ってしまう渋野選手の姿を見て、「あれぇ~」って思いましたよ。子どもの時から『巨人の星』を見て育っている我々世代からすれば、大事なアクションの前には、必ずひと呼吸あって、「目に炎を燃やしてから」って思うんですよね……。
笑顔が素敵な渋野日向子選手。彼女のおかげで、ゴルフファンが急増したことは間違いないでしょう
それはともかく、「ゴルフは楽しい」という考えは、もし負けたとしても、渋野選手は”絵”になるってことです。負けても数字が取れる選手ってことは、ローラ・ボーの再来ですよ。
ちなみに、ローラ・ボー選手というのは、昭和に活躍した美人ゴルファーです。圧倒的な人気がありましたが、成績は今ひとつでした。日本のゴルフ出版物で一番売れたのが、ローラ・ボー写真集とカレンダーと言われていて、某ゴルフ出版社の社屋は「ローラ・ボービル」と、いまだに言われています。
勝敗に関係なく人気があるって、プロの世界じゃ”無双”ってことで、まさに敵なしです。加えて、今の渋野選手の状態からすれば、年内に2、3勝しそうな勢いですし、賞金女王にはリーチがかかったも同然。その人気はどこまで上昇していくのか、想像もできません。
それにしても、アマチュアのオジさんから見ても、渋野選手のパターは男勝りで超絶でした。外れてオーバーしてもいいから、ガツンと入れるって、あり得ないです。世界のどんなプロにもマネできないパターです。
最近、女の子を主人公にした女子ゴルフ漫画が流行っていますが、もはや渋野選手は、その漫画の世界の主人公をはるかに超えていて、リアルキャラクターとして存在している――それも、すごい話だと思います。
今後はね、日本全国のゴルフ場の売店に、渋野選手が好物の駄菓子、「タラタラしてんじゃね~よ」とかが置かれて、オヤジたちがそれをつまみながらゴルフをするんじゃないですか。
感想としては、「今の若いコは、ビールも飲まずに、ツマミできるんだな」と。私も、ポテトチップスをつまむ時は、必ずビールを飲みます。けど、今の若い連中にとっては、ポテチは単なるスナックなんですよね。酒も飲まずにツマミだけ、が”渋野世代”なのかもしれません。
そうして、渋野選手の影響を受けたオヤジたちは、5mのパットを入れにいくようになるのでしょう。すると、返しも入らずの3パットが流行るんじゃないですか……って、それが流行ってどうすんねん。
だったら、全英女子オープンの最終日に渋野選手がやったように、前半で4パットのダブルボギーをして、後半はノーボギーで回れますか? それができたら、アマチュアなんてやってませんよね。
付け加えておくと、渋野選手は全英女子オープンの出場権を、向こう10年ゲットしています。だから、これから10年間は渋野選手から目が離せません。
あと、全英女子オープン優勝後の日本での凱旋試合となった北海道meijiカップ。渋野選手は13位タイに終わりましたけど、それでも”絵”になっていました。ギャラリーは例年の倍も詰めかけて大盛況。平均視聴率も最終日は録画中継で8.7%(関東地区)を記録。前年より2.6%もアップしたというのですから、渋野効果は抜群ですね。
しかも、渋野選手が大会スポンサーのチョコレートをほうばるあたりは、さすがです。大人の対応をしていますよね……って、単なる天然じゃないぞ、このコは!