前夜の第1シード、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)に続き、第6シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)も大会を去った。第20シードのディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)に6-3、2-6、…

前夜の第1シード、ノバク・ジョコビッチ(セルビア)に続き、第6シードのアレクサンダー・ズベレフ(ドイツ)も大会を去った。第20シードのディエゴ・シュワルツマン(アルゼンチン)に6-3、2-6、4-6、3-6の逆転負けだった。アンフォーストエラーが65本、そのうちダブルフォールトが17本と、ミスの多さが墓穴を掘った。

世代のリーダー格だが、四大大会では18、19年全仏の二度の8強が最高で、力を出せていない。また、この数カ月、不振が目立つ。ウィンブルドンは初戦敗退、マスターズ1000のモントリオールの8強で少し持ち直したが、直近のシンシナティでは初戦の2回戦で敗退していた。

自信のなさがショットに出ている。特にセカンドサーブが不安定で、ときどき目を覆いたくなる。この試合のセカンドサーブ時のポイント獲得率32%は、彼のクラスではなかなか見ない数字だ。才能は折り紙付きで、日本でもファンの多い選手だけに、早い復調を祈りたい。

シュワルツマンにとって、世界ランキング6位のズベレフからの勝ち星は、5月のローマでの錦織圭と並ぶ、最も高いランキングの選手からの勝利となった。

シュワルツマンは身長170㎝、体重64㎏。上位選手では最も小柄な選手の一人だけに、サービスゲームではやや苦労している。この試合ではズベレフに5度、サービスゲームをブレークされた。しかし、リターンゲーム奪取率30.3%で男子ツアー3位のリターン力を生かし、相手のサーブを8度破った。

試合後のオンコート・インタビューでシュワルツマンは「アレックス(ズベレフ)はサーブに問題を抱えていた。僕はビッグリターナーだ」と話した。これだけだと、自分がビッグリターナーであることが相手にとって最大の問題だった、と言っているように聞こえるが、もちろん、そうではない。相手のウイークポイントと自分のストロングポイントが噛み合ったという意味だ。シュワルツマンが試合を振り返る。

「僕はリターンに自信がある。大事なポイントで相手がどこに打ってくるか、つねに学ぼうと努めている。アレックスのサーブのビデオもたくさん見た。リターンは僕のプレーの柱だ。それが今日はそれがすごくよかった。彼のダブルフォールトとは別にね」

この日はベースラインのラリーでも--短いラリーでもロングラリーでも--シュワルツマンが上だった。ズベレフが「彼はすごく攻撃的だった。どんなに攻撃的で、どんなに早くボールを捕るのか」とあきれたように、シュワルツマンのプレーは積極的だった。フォアハンドのウィナー18本、バックハンドのウィナー12本は、いずれもズベレフを上回った。ネットでの得点23も、そのプレーが積極的だったことを示している。

試合終盤、珍しいシーンがあった。ズベレフは2度目のコードバイオレーションの警告を受け、罰則によりポイントを失った。シュワルツマンのゲームポイントであったため、自動的にズベレフはゲームを失った。審判に歩み寄ったズベレフが猛抗議。開閉式の屋根に激しく打ち付ける雨音のために1回目の警告が聞こえていなかった、と主張した。すると、近づいてきたシュワルツマンが「僕にも聞こえなかった」と同意、助け船を出す格好になった。主審の判定は変わらなかったが、別れ際にシュワルツマンは「ソーリー」と声を掛けた。「気の毒にね」くらいのニュアンスか。涼しい顔でベンチに座っていてもおかしくない場面だが、彼はこんな行動が自然にできる。

1年前の全米での錦織との試合を思い出した。錦織が打ったショットの判定は「アウト」、するとシュワルツマンは錦織にビデオ判定を要求するよう促した。チャレンジは成功し判定が覆る。試合後、錦織は「あそこまでナイスな選手は少ない。感謝という言葉がいいか分からないが、ホントにいいヤツだなと思った」と感心した。

勝つなら正々堂々と、そんな気概が170㎝のシュワルツマンを支える。

両者とも四大大会ではこれまでベスト8が2度ずつ。“いいヤツ”シュワルツマンが、第6シードを差し置いて、3度目の準々決勝の舞台に立つことになった。

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」で主審に詰め寄るズベレフ

(Photo by Tim Clayton/Corbis via Getty Images)