勝負の時がやってきた。初の自国開催となるラグビーワールドカップ(RWC)に挑む日本代表31名が決まった。前回の2015年RWCに続き、チームを引っ張るのが、卓越したキャプテンシーを誇るリーチ・マイケル主将。「1試合、1試合を大事にして、ベ…

 勝負の時がやってきた。初の自国開催となるラグビーワールドカップ(RWC)に挑む日本代表31名が決まった。前回の2015年RWCに続き、チームを引っ張るのが、卓越したキャプテンシーを誇るリーチ・マイケル主将。「1試合、1試合を大事にして、ベスト8以上にいく」と、30歳は言葉に力を込めた。



ラグビー日本代表の頼れる主将リーチ・マイケル

 まっすぐな性格のリーチ主将は、ラグビーを、日本の文化を、そして共に戦う仲間をことのほかリスペクトしている。代表決定にも、「寂しい思いがあります」と漏らした。

「いろんなメンバーが(日本代表に)関わってきました。このチームを創ってくれたのは、そんなたくさんの人たちのお陰なんです。僕らはさらに頑張らないといけない。選ばれなかった人たちの分まで」

 リーチ主将は今年、恥骨炎で戦列復帰が遅れた。「正直、不安はあった。自分がワールドカップメンバーから外れると思った」と打ち明ける。

 その日本代表メンバーは、海外出身の選手は15人と歴代最多となった。リーチ主将はニュージーランドのクライストチャーチ出身。15歳の時、日本にやってきた。札幌山の手高校へのラグビー留学だった。だから、人生の半分を日本で生活していることになる。2013年、日本国籍を取得した。日本人の妻との間に1女を持つ。「日本のために」という思いがつよい。「僕は日本で学び、育った」。

 ラグビーはサッカーなどと違い、「自分の出生国」「両親、祖父母の誰かが生まれた国」「3年継続して居住した国」などであれば、ナショナルチームの一員になれる。海外出身選手は総じて、フィジカルが強い。「日本の選手の体格は、世界では小さい。日本ラグビーにはこれから先も(海外出身者が)絶対にいる」と言うのだった。

 こういったダイバシティ-(多様性)の多国籍チームをまとめるのがリーチ主将である。英語、日本語が堪能。「自国開催の大会のために愛国心を強く持たないといけない」と、チームで日本文化を学ぶ機会をつくっている。宮崎合宿では「君が代」に出てくる「さざれ石」を見学したり、俳句を勉強したり…。日本の歴史を知れば、「日本代表としての覚悟が変わる」と説明した。

 190cm、110kg。テストマッチ(国別対抗戦)出場のキャップ数が「62」。リーチ主将は3大会連続のRWC出場となる。2011年ニュージーランド大会では4試合フル出場した。14年に日本代表主将に任命され、前回の15年イングランド大会では、初戦で優勝候補の南アフリカを破る番狂わせを演じた。

 あのラストワンプレー。3点差を追う場面で、リーチ主将は同点狙いのPGではなく、自信を持ってスクラムを選択した。日本ラグビーの歴史を変えるためだった。結局、日本は予選プールを3勝1敗とした。

 だが、勝ち点差で決勝トーナメントには進めなかった。8月下旬の網走合宿で「まだ、あの時の悔しさは残っていますか?」と聞かれると、リーチ主将は短く答えた。

「あります」

 だから、この3年間、ジェイミー・ジョセフヘッドコーチ(HC)の下、選手たちはハードワークに取り組んできた。スーパーラグビーのサンウルブズのメンバーとして強度の高い試合を戦い、日本代表としてティア1(世界トップ10)のチームとテストマッチを重ねてきた。間違いなく、選手個々のフィジカルと経験値は上がった。

 リーチ主将は、エディー・ジョーンズ前HCとジョセフHCをこう、比較した。

「ふたりとも、とてもきつい、とてもハードワークでした。でも、データの使い方はまったく違った。(ジョセフHCは)データをしっかりと教えてくれたのは大きいです」

 4年前のチームと比べると、「得点力がかなり上がってきた」と言葉に充実感を漂わせた。

「前回は3勝しても次のステージに行けなかったんですが、今回のチームは得点力が上がったので、毎試合、トライをいくつもとれる自信はあります」

 実はチーム作りでいえば、初期の段階で、リーチ主将はジョセフHCと言い争いになったこともあったそうだ。争点は、ピッチ外の生活における規律の部分だった。

「正直、ふたりでごちゃごちゃ、ありました。スタンダードの違いです。慣れるまで時間がかかりました。エディーの時はホテル内でも服装など、すごく厳しかった。JJ(ジョセフHC)になって、選手はホテルではリラックスなんです。僕は、エディーの時と同じくらい厳しくやりたかったけど、JJはそうじゃなく、”選手がリラックスして練習できる環境をつくりたい”って」

 つまり、オンとオフの切り替えだろう。リーチ主将は「もちろん、今はいい関係です。何でも相談できる。いいコンビだと思います」と小さく笑った。

 指導法は違えど、この”ジェイミー・ジャパン”は、エディー時代の4年間にプラス3年のトータル7年間の強化の積み重ねの結晶のようなものである。だからだろう、「今のチームの方が強い」と言い切る。

「負けるとしたら、自分たちのせいで負ける。相手の強さで負けることは想像できない。自分たちのやりたいことができなくて負ける。変わらないといけないのは、潜在意識。(自分たちは強いという)意識を強くして、チャレンジ、チャレンジして、常にチャレンジしていかないといけない。

 モットーが『神に誓うな、己に誓え』。性格は誠実、朴とつ、実直。網走合宿のミックスゾーンでは、右手でピシッ、ピシッと手足の蚊をはたきながらも取材に応じてくれた。刈り上げた頭、漆黒の頬ひげ。つぶれたギョウザ耳はタフガイの証でもある。

 かつて、テストマッチのキックオフ前、「君が代」を歌いながら、何を考えているか、聞いたことがある。リーチ主将は背筋を伸ばし、たしか、こう言った。

「日本に来て、世話になった人のことを考えています。日本に恩返ししたい。僕は、日本のために勝ちたいのです」

 RWCは、9月20日の日本代表×ロシア代表で開幕する。闘将が、恩返しとなるベスト8以上にチームをけん引する。阿修羅のごとく。