大きなテニスの大会では、客席に「プレイヤーズ・ボックス」という選手の関係者たちが座る区画があり、試合後のインタビューでよく選手が「チームが支えてくれた」とか「チームの皆に感謝します」と言っていますが、チームとはどういう人々で構成されているの…

大きなテニスの大会では、客席に「プレイヤーズ・ボックス」という選手の関係者たちが座る区画があり、試合後のインタビューでよく選手が「チームが支えてくれた」とか「チームの皆に感謝します」と言っていますが、チームとはどういう人々で構成されているのでしょうか。

■コーチ、ヒッティングパートナー

チームの最重要人物は、何と言ってもコーチでしょう。それもたくさんのスタッフを雇えるほど成功している選手であれば、メインのコーチ以外にも、四大大会で優勝経験があるような元選手を大きな試合への対策として雇ったり、特に強化したいプレー、例えばボレーだけを専門的に磨いてくれるコーチを雇ったりもするようです。逆にまだそこまで稼いでいない選手の場合は、コーチ兼ヒッティングパートナー兼トレーナーというように、一人でいろいろな役目を果たしてくれる人を雇うこともあります。

ヒッティングパートナーとは読んで字のごとく、球を打ち合う練習相手。プロ選手の練習相手を務めるのですから、選手やコーチの望むところに、望む強さや球種で打てることが必須条件です。チームの一員であればもちろんその選手が雇うわけですが、誰もがヒッティングパートナーを雇っているわけではないので、大きな大会では参加選手たちのためにヒッティングパートナーを大会側が用意することもいるようです。

■トレーナー、フィジオ、栄養士

トレーナーとは、体力づくりや筋力を鍛えたり、柔軟性や俊敏性を伸ばすためのトレーニングを指導したり、マッサージなどで身体の調子を整えてくれる人です。フィジオとはフィジオセラピスト(理学療法士)の略で、整体のようにケガの予防や治療をしてくれる人です。フィジオセラピーというのは、オーストラリアなどでは整体やカイロプラクティックよりも一般に親しまれている治療法のようです。栄養士はもちろん選手がテニスをするのに最適な食事や栄養分のとり方を指導してくれる人ですが、中には調理してくれるシェフを帯同する選手もいるという話です。

■マネージャー、エージェント

テニス選手は世界中の大会をかなり密なスケジュールで飛び回っているので、マネージャーやエージェントと呼ばれる人たちが飛行機などの手配や、練習コートの確保、スポンサーを見つけたりします。

■裕福な選手ほど、チームは大人数

とはいえ、全ての選手にチームがあるわけではありません。たくさんの人を雇い、その人々を世界各地の大会に連れて行くには、当然かなりの出費が必要です。ですから、ランキングが上で多額の賞金やスポンサー料を稼いでいる選手ほど多くの優秀なスタッフを雇うことができ、結果として上位の選手と下位の選手との力の差が更に開いてしまう傾向は否めません。数年前に元プロ選手で現コーチであるブラッド・ギルバートは「世界ランキング70位ぐらいの選手であればコーチ、トレーナー、フィジオ各1名なら雇えるだろうが、シーズン終わりにそれで黒字が出ていればラッキー」と語っていました。

■今後はますます重要?データアナリスト

最近、主にランキングの高い選手たちが使っているのがデータ分析の専門家や、データ分析会社です。一時衰えを見せ始めたかに思えたロジャー・フェデラー(スイス)が見事な復活を遂げたのも、2017年の始め頃よりデータ分析に重きを置くようになってからと言われています。ただこれは、多額のお金がかかるのはもちろんですが、特定の選手に対してこういう攻撃にはこう返す、といったデータ分析から導き出された作戦を実際に試合で実行できなければ意味がないので、かなりのテニスの実力も必要です。だから、データ分析に大金を注ぎ込むなら、まずその前にそれを活かせるだけの実力をつけなければなりません。

■変わっていくスポーツのあり方

元世界1位で1974年から1986年までの間に四大大会で18回優勝しているクリス・エバート(アメリカ)によれば、「1970年代には私たちは一人で世界中を回って、コーチなどいなかった。たまにコーチとツアーを回っている選手がいると、びっくりしたわ」と語っています。「それが80年代、90年代になると、フィジオやヒッティングパートナーが出てきた」

そしてそれを始めたのは、エバートと同年代であるマルチナ・ナブラチロワ(アメリカ)であると言われています。ナブラチロワのチームは、栄養士、トレーナー、コーチ、ヒッティングパートナーから成っていました。彼女の愛犬を散歩させるドッグウォーカーも帯同していた、という説もあります。

もちろんテニス以外のスポーツでも、以前はコーチや監督1人かせいぜい2人ぐらいだったのが今ではヘッドコーチ以外に攻撃と守備の専門コーチがそれぞれ数人、そしてデータ分析家がたくさんいたりと、同じように変化してきています。そしてお金のある選手やチームはますます強くなり、お金のない選手やチームとの差が広がっていくという傾向も同じです。

それでも、フェデラーのトレーナーは「フェデラーのことを信じられないほど恵まれていて、他の選手ほど努力しなくても何でもできる、という人がいるがそれは違う。バレエダンサーの踊る姿は優雅で苦しい努力の欠片も見せないが、彼らは客の見ていないところでものすごい努力をしている。フェデラーも同じで、彼がコート上でアーティストのように自在のプレーができるのは、ものすごい努力をしてきたからなんだ」と語っています。選手たちが周りの人材やデータ分析にどれほどお金を注ぎ込もうとも、ひたむきな努力なしにスポーツでの成功があり得ないことだけは、変わらないようですね。

(文/月島ゆみ)

※写真は錦織圭とボッティーニコーチ(手前)とチャンコーチ

(Photo by Jean Catuffe/Getty Images)