スコアは一方的だったが、世界ランキング1位の大坂なおみ(日本/日清食品)と15歳の新星ココ・ガウフ(アメリカ)との初対戦は、長く語り継がれることになるだろう。わずか1時間5分で決着した試合から…

スコアは一方的だったが、世界ランキング1位の大坂なおみ(日本/日清食品)と15歳の新星ココ・ガウフ(アメリカ)との初対戦は、長く語り継がれることになるだろう。

わずか1時間5分で決着した試合から、驚くべきこと、素晴らしいことがあふれ出てきた。勝者の大坂のプレーはもちろん、完敗のガウフにも見るべき点が多かった。そして、試合後の両者のやりとりは多くのファンの心をとらえただろう。

まずは、敗れたガウフのプレーだ。セレナ・ウイリアムズ(アメリカ)が「(姉の)ビーナスに似たタイプ」と評したという話は以前、このコラムに書いた。つい、ショットの威力に目を奪われるが、コートカバーリングと返球の質が素晴らしい。大坂はガウフの長所の第一に「動きの良さ」を挙げた。大坂のアンフォーストエラーの何本かは、ガウフの質の高い返球によって強いられたものと見ていい。

動きの良さの次に大坂が挙げたのは、サーブだった。ファーストサーブの最高速度は192kmをマークし、大坂の189kmを上回った。2回戦では9本のエースを決め、ファーストサーブ時のポイント獲得率は男子並みの83%に達した。ところがこの試合では、そのサーブが機能しなかった。

ファーストサーブ時のポイント獲得率は、大坂の74%に対し、ガウフが42%と大差がついた。数字は2回戦からほぼ半減。セカンドサーブ時も30%と低調だった。ただ、これらのスタッツは、大坂のリターンが素晴らしかったことを示すものでもある。

大坂は、セカンドサーブを含めて相手サーブの91%をコートに入れ、重圧をかけた。なかでも第2セットの「返球率」は100%と、めったに見ない数字が出た。このスタッツを知らされた大坂は、たちまち表情を緩めた。

「今日はサーブよりリターンのほうが相当いい出来でした(笑)。リターンが返って本当に助かりました。コーチにはリターンを練習しなくてはいけないと言われるけれど、100%返せるのなら、どんなリターンを練習すればいいのか(笑)」

その大坂のプレーについて、ガウフはこう語る。

「彼女のプレーは素晴らしかった。ポイントをコントロールするのが難しいと感じました。ウィナーも私より多かったと思います。この試合から多くを学びました。彼女は今、ナンバーワンプレーヤーで、そのレベルに到達するには何が必要か分かりました」

第2セットには1ゲームも奪えなかったガウフ。試合終了とほぼ同時に、その目から涙が溢れた。それを見た大坂は、一緒にオンコートインタビューを受けましょうとガウフを誘う。「泣いてしまうから」と一度は辞退したガウフだったが、大坂がこう言って説得した。

「シャワーに入って一人で泣くより、今の気持ちを話したほうがいいよ」

大坂自身、ロッカールームに戻って泣いたことが何度もある。ガウフにそんな思いをさせたくなかったのだ。

大坂がこの場面を振り返る。

「握手のとき、彼女が少し泣いているのに気づきました。それで彼女がどれだけ若いのか思い出したのです。応援に来てくれたファンに話したほうが彼女には良いのではないかと直感しました」

ガウフは涙をこらえてインタビューに答えたが、続いてインタビューを受けた大坂がもらい泣きする場面もあった。まだ3回戦だったが、四大大会の決勝でもなかなか見られない、情感あふれる幕切れだった。

ガウフの言葉が、この試合を見事に言い表している。

「彼女(大坂)が本物のアスリートであることが分かりました。コートでは相手を憎い敵(かたき)のように扱い、試合が終われば最高の友だちとして接する、それが私にとってアスリートの定義です。まさしくそれが今日、彼女の行ったことでした」

(秋山英宏)

※写真は「全米オープン」での大坂(右)とガウフ(左)

(Photo by TPN/Getty Images)